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中編 その17 「飛べ飛べグリフォン」

「クラック隊長! 遠くの方から明かりが!」


 グリフォンの背中に揺られること、5分。

 辺り一帯、暗闇に包まれる中、ようやく一筋の光が見えてきた。


「間違いねえ、コミュニティーの街明かりだ。おい、ホルシュタイン。そろそろこいつを着陸させろ」


「了解です! ……グリフォン! 着陸態勢に入れ!」


 グギャギャァッー!!


 自分が命令するや否や、グリフォンはすぐに高度を下げてくれた。

 最初の頃は、このグリフォンに命令を下すことでさえ、ある意味気恥ずかしさを覚えていた。

 が、今となっては、グリフォンの使い魔としての役割も、すっかり様になってきたように思える。

 

 高度を下げながら、またさらにコミュニティーの方に近づいて行く。

 すると、コミュニティーの城壁から無数のサーチライトが、壁外の周辺に向けて、あちこちに照らされている様子が見えてきた。

 まるで刑務所の物々しい警備を彷彿とさせるそれらの光景を前に、自分たちは事前の打ち合わせ通り、サーチライトの遥か手前の地点に着陸したのであった。


「お疲れ様です。皆さん」


 自分とクラック隊長がグリフォンの背中から降りると、先に車外で待っていたグリアムスさんが、そのように声をかけてきた。


「ご苦労だった、グリムリン。……ところでペトラルカの調子はどうだ?」


「残念ながら、まだ体調は優れぬようで……。今も車内で横になってます」


「そうか……」


 クラック隊長は明らかに落胆した表情を見せていた。

 一方の自分も、未だ車内に残っている彼女のことを心配に思い、中の様子をうかがおうとしていたが、ちょうどその時。

 グリアムスさんが開口一番に、自分に対し、このようなことを話しかけてきたのだった。


「ベルシュタインさん。わたくしが発案した合言葉、ちゃんと覚えてますか?」


「はい。しっかり覚えてますよ。“飛べ飛べグリフォン”ですよね?」


「その通りです。よくできました。……じゃあ早速ですが、よろしくお願いします」


 グリアムスさんにまるで幼稚園児をあやす時のような言い方をされ、若干ムッとなったのはさておき……。

 自分は当初の予定通り、グリフォンに対して、“飛べ飛べグリフォン”と叫んだ。


 グギャギャァッー!!


 グリフォンはその合言葉を聞くなり、空高く舞い上がっていく。


「これが所謂いわゆる、バイバイグリフォンってやつか……」


「何ですかそれ? ……別にこれでお別れってわけじゃありませんよ、ベルシュタインさん。

 次にグリフォンを呼び出す時は大声で“カムバック、グリフォン!”。

 もしくは”来い来いグリフォン”って叫んでくださいね。

 決して忘れないでくださいよ、その合言葉」


 自分とグリアムスさんがそのようなやり取りをしている間に、グリフォンは湖の方角へカラダを向け、そのまま颯爽と飛び去って行ったのだった。


 一応この“飛べ飛べグリフォン”の合言葉は、先程の離陸前、グリアムスさんたちの協力の元、グリフォンに対する様々な実証を行った末に編み出されたものである。

 それらの実証の結果、どうやらグリフォンは人語が理解でき、自分たちと意思の疎通を図れることが判明したのだ。

 例えば自分がグリフォンに『北西37度の方向にレーザー光線を放て』と命じると、当のグリフォンはその命令の意図を汲み取り、ほぼ正確にその方角にレーザーを放ってみせた。

 その他にもグリアムスさんの助言で、様々な命令が考案され、それらを1つずつ自分が丁寧にグリフォンに下していた。

 どれだけ複雑な指示であっても、グリフォンは1つも間違えることなく、実行してみせたのだ。

 そのことから、グリフォンは人語が理解できるのではないか? とグリアムスさんによって結論づけられたわけである。


 そのような過程を経て上で、グリフォンに知性があるとわかったはいいが、では一体なぜ、本来人間より知能の劣るはずの生物が、これほどまでに人語を理解できているのか?

 それらに関しては、未だ謎に包まれていた。

 いくら生物だからと言って、知能までもがサル並みに急激に上がったとは考えづらい。

 ……まあそれらの謎も、あの地下研究所に行き、虹色の石 = 制御装置に添付されていた資料の続きを読めば、全てが明らかになると思うのだが。

 離陸前の話し合いの際、一応それらの謎に関して、グリアムスさんはこのような説を唱えていた。


『わたくしが思うに、おそらくですがこのグリフォンは生物ではなく、どちらかと言えば、限りなくサイボーグに近い存在なのではないでしょうか?』


『えええ!? サイボーグですって!? グリアムスさん、あんた正気ですか?

 あれのどこがサイボーグに見えるんですか!?

 グリアムスさん! あれは間違いなく、れっきとした生物です。それはちょっと、考え方として行き過ぎてますよ。

 ……ターミネーターとか、遺伝子操作された恐竜が蘇る某映画の見過ぎじゃないんですかね?

 普通に考えてあり得ないでしょ!!』


 と、自分はそんなグリアムスさんの考察に対し、このように猛反発していたのだ。

 しかし当のグリアムスさんは一切顔色を変えず、冷静にこう言い返してきた。


『ですがね、ベルシュタインさん。

 いくら生物が突然変異し、姿形もまるっきり変わったからと言って、クラック隊長さんの放った機関銃の弾を、全弾跳ね返すなんてことがあり得ると思いますか?』


『え? でも実際、跳ね返してたではありませんか』


『ぐぬぬぬぬ……まあ確かにそうですが。

 しかしですね、いくらこのグリフォンの表面組織が硬いからと言って、生物である以上、そう何発も実弾に耐えれるはずがありません。

 ……例外的にカメとアルマジロなどの生物には、銃弾すら跳ね返す強固な甲羅を持っていますが、そんな彼らでもってしても、そう何発も実弾に耐えることは不可能です。

 衝撃ですぐに死んでしまいます。

 もはやこれを生物のスケールで考えるのは無理があると思うんですよ』


『えええ!? でも、あのトータスキメラだって、このグリフォンみたいに銃弾を跳ね返していたんですよ?

 生物が突然変異した影響で、銃弾をも耐えられるボディーを手に入れたと考えるのが、自然だと思うんですがね……」


『う~ん。しかしですね、やはり生物は生物ですよ?

 ベルシュタインさん。あなたダーウィンの進化論のことはご存じで?

 キメラ生物は明らかに、かのダーウィンが唱えた論理を完全に逸脱してしまってる存在です。

 いくら生物が進化を遂げたからといって、さすがに銃弾を何百発も耐える生物など、現れようがありません。

 あなたは某恐竜の映画で、恐竜に実弾は一切効かないモノだと思い込んでいるのかもしれませんが、あんなの実際のところ、たった数発の銃弾ですぐイチコロですよ』


『そ、そうなんですか? むむむむ……言われてみれば、確かにそんな気がしなくもないですけど……。

 で、でもそれにしたって、グリアムスさん! いくらなんでもサイボーグはないでしょう! 

 そもそもヒト型のサイボーグですら、現代に存在すらしてなかったのに、それを飛び越えてキメラ生物型のサイボーグですか!?

 やっぱりどう考えても、飛躍しすぎですってば!』


『いいえ、ベルシュタインさん。これらは決して飛躍した考えではありません。冷静に考えてみてください。

 現にわたくしたちの想像を遥かに超える、キメラたる生命体がこうしてわたくしたちの文明社会を瞬く間に崩壊させてしまったではありませんか。

 数年前までこのような事態になることを、あなたは想像できましたか?

 飛躍したSF小説みたいなことが、現実のモノになるなんて思ってましたか?』


『えっ? ……まあ、そう言われると、返答に困ってしまいますけど、それが何か?』


『つまりはそういうことなんですよ、ベルシュタインさん。

 時に常識というものは、時代の流れと共に大きく変わっていくものです。

 ……所謂、パラダイムシフトが起きてしまったってやつですよ』


『パ? パラダイスシーフード? ……何ですか? その美味しそうな料理名は?』


『唐突に何を言い出すのかと思えば……ベルシュタインさん。

 ……まあいいです。とにかくわたくしが言いたいのは、一昔前まではあのような武器が生えた生物の存在など、空想上の出来事でしかなかったってことです。

 しかしそれらは、現実のモノとなってしまった。

 つまりわたくしたちの常識は、大きく変えられてしまったんですよ。

 もしかしたら今後、この地球上に宇宙人が侵略に来るような、パラダイムシフトだって起こり得るかもしれません。

 そうなればまたわたくしたちの常識は、また大きく塗り替えられることになりますね。

 故にわたくしがあなたに言いたいのは、今までの常識の範疇で物事を捉えること無かれってことです。

 飛躍しすぎだ! とかこの期に及んで、バカの一つ覚えみたいに喚くなってことですよ、ベルシュタインさん』


『はあ、パラダイスシーフードの次は宇宙人襲来ですか。……もうさっきのシーフードの辺りから、話がすっかり分からなくなってしまいましたよ。

 ……降参です、グリアムスさん』


 こうして自分はグリアムスさんに対し、何も反論できず、逆に返り討ちにあってしまったのである。

 結局あのグリフォンは生物なくしてサイボーグなのでは? 説がまかり通ってしまったのだ。

 正直言って、グリアムスさんの主張には、何だか腑に落ちない部分が多々あるのだが……。

 まあこのような感じで、彼には見事押し切られてしまったのであった。


「まさか、あれがサイボーグだなんてな……」


 グリフォンが自分たちの元から飛び去っていくのを見届けながら、自分はそのようなことをぼやいていた。


「おい! ホルシュタイン! 早く俺たちの車を後ろから押していくぞ。手伝え、手伝え」


「は……はい! クラック隊長!」


 そうして自分とグリアムスさんにクラック隊長は、エンジンがかからなくなった彼の車を、この暗い夜道の中、後ろから3人で押していくのであった。

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