表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/133

中編 その14 「超有機生命体、再び」

「ベル坊くん!? 一体全体何が起こったっていうの!?」


「さ、さあ……。なんだかなぁ」


 背中に何やらふっくらと押し付けてくるものを感じつつも、自分はペトラルカさんに対して曖昧な返事をしていた。

 前方に居るグリフォンといい、後方のペトラルカさんといい、大変ドキマギさせられる展開が立て続けに起こっている。

 相変わらずグリフォンは自分から視線を一ミリも外してくれないし、ペトラルカさんに至っては背後からガッチリとホールドしてくる始末。


「いつまでこの状態が続くんだよ……」


 背中越しに伝わるプニプニした感触を堪能しつつ、自分はふとため息をつく。

 さっきまで、生死を分ける真っ只中にいたはずなのだが、グリフォンキメラが武装解除をしてからというものの、自分はすっかり拍子抜けしてしまったらしい。

 火の球をフルチャージし、発射準備完了。いつでもいけます状態だった先程のグリフォン。

 いったい奴の心に何が働いたのだろうか?

 まあ、どちらにせよ奴のある意味珍プレーと呼べる行動のおかげで、自分とペトラルカさんは、結果的に生きながらえているわけだが……。

 でもそれにしたって、奴を心変わりさせたそもそもの要因が分からない。


「直近で何か変わったことと言えば……」


 やはりさっきの石が光ったから。……なのか?


「んなわけないよな……」


 これまでの状況を一度整理して、三度みたび考えこんでいると……。


「ベル坊くん、大変! クラックたちが!?」


 それまでずっと密着してきたペトラルカさんが、やっと自分の元から離れてくれた。

 そのことにほっと安堵していると、突然ペトラルカさんはグリアムスさんたちの居る川に向かって、悲痛な叫びを上げ出したのだ。

 自分の背中に、さっきまで恐ろしいほど押し付けてきたあの温もりも、ペトラルカさんが叫んだと同時に離れてしまった。

 肩甲骨辺りには、まだ彼女のやんわりとした名残が……。


「いかんいかん! 騎士としての自覚を持たなくては!」


 不埒なことを想像していた自分を激しく責め立てつつ、自分もペトラルカさんに続いて、川下の方に顔を向けた。

 するとそこには無数のクロコダイルキメラに囲まれたグリアムスさんたちが……。


「クラック隊長さん!! 水面からクロコダイルの一味が現れました!!」


「言われなくても分かってる!! ……なんてこった。俺たち完全に包囲されちまったぞ!!」


 クロコダイルキメラたちは独自の包囲網を築き上げ、グリアムスさんに少しずつ迫っていた。

 その奴らの巧みな連携もあって、グリアムスさんたちは完全に逃げ場を失った。


「くそ! ここからだともう間に合わない!」


 ある程度グリアムスさんたちとの距離を縮めたところで、奴らは一気に襲い掛かるつもりなのだろう。

 自分たちの力では、もうどうすることもできない状態まで来てしまった。

 今からあの川に向かっても、到底たどり着けない。

 このまま為す術なく、グリアムスさんたちも奴らのエサとなってしまうのか……。

 

「そんな……。クラック!! わたしを置いていかないで!」


「うっ……。いったいどうすれば!?

 ……せめて奴らもこのグリフォンみたいに、攻撃の手を止めてくれたら!!

 誰か、誰か奴らを止めてくれ!!」


 あのクロコダイルたちを一気に殲滅できる方法があれば、藁にも縋る思いで飛びついているだろう。

 例えそれが悪魔と契約することであっても。

 だが現実にはそんな超人的な力を授けてくれる悪魔もいなければ、神様もいない。

 いくら信心深く祈ったところで、目の前にある現実は変えられやしないし、誰も助けてなんかくれない。

 クロコダイルキメラを一匹残らず駆逐することも、グリアムスさんたちを急いで川から引き上げることも、もはや叶わぬ願いなのだ。


「クラック!! いやあぁぁぁ!!」


 クロコダイルキメラが、いよいよグリアムスさんたちに飛びかかり、とどめを刺そうとしていたその時だった。

 突如、自分の目の前を青白い光線が通って行ったのだ。


「えっ?」


 その光線は、水面にいる無数のクロコダイルキメラに向けて次々と炸裂していく。

 光線に充てられたクロコダイルキメラはピンポイントに頭を貫かれ、続々と水中に沈んでいった。

 もしやと思い、自分はすぐさまグリフォンの方に顔を向ける。

 ……すると思った通り、グリフォンが橋の上から奴らに向けて、目からレーザー光線を照射していたのだ。


「な……なんで、奴があのキメラたちを攻撃してるんだ!?」


 なぜ自分たちの敵であるはずのキメラ生物が、そのような行動を取っているのかは分からない。

 自分がその衝撃の光景に呆気に取られている間も、グリフォンキメラは手を休めることなく、次々とクロコダイルキメラに対して攻撃を加えていた。


 やがて大多数のクロコダイルが水面から姿を消すと、次にグリフォンキメラは翼を広げ、橋の上から飛び立っていく。

 奴が飛び立った先はと言うと、これまた驚くことにグリアムスさんたちの居る車の方だった。

 レーザー光線で仕留めきれなかったクロコダイルキメラの残党勢力を、上空からあのグリフォンが次から次へと蹴散らしていくと、ついに彼らの居る車の上空にたどり着いた。

 2本の前足でグリフォンは彼らの車をガシッと鷲掴むと、そのまま抱きかかるかのようにして、その場を後にした。

 慌てて車内に乗り込んだグリアムスさんたちと一緒に、グリフォンが自分たちの居る橋の方までやってくると、まもなくゆっくりと高度を落としながら、グリアムスさんたちの車を橋の上まで運び、そっと降ろしたのだった。

 車内からはグリアムスさんとクラック隊長が、何が起こったのかさっぱりと言わんばかりの表情を浮かべたまま、辺りをキョロキョロしていた。

 どうやら2人とも無事のようだ。

 程なくして、クラック隊長が先にその車から降りてきた。


「クラック!!」


「おおお!! ペトラルカ!! お前も無事で何よりだ!!」


 ペトラルカさんは目に涙を浮かべたまま、一目散にクラック隊長の胸に飛び込んでいた。

 クラック隊長もそんなペトラルカさんの想いを受け止めてか、若干照れくさそうにしている。

 この一連の出来事を奇跡と呼ばずして何と呼ぶのだろうか?

 不可能がまさしく可能になった瞬間だった。


 これらの奇跡を呼んだ要因とは何か?

 ……自分は直感的に、あの研究所で拾った不可思議な石が、このグリフォンキメラに対し、何らかの影響を与えたのだと思った。

 “超有機生命体と虹色の制御装置”。

 あの時、その石の横に添付されていた資料を一読しただけでは、掴めなかった真相が自分の中で次々と明らかになっていく感じがした。

 それまで釈然としなかった資料の記述と、たった今、目の前で確かに見せられている事実を照らし合わせることで、ある1つの答えが浮かび上がってきたのである。

 “あの資料に書かれていた超有機生命体って、ひょっとして……”


「いやはや、ベルシュタインさん。わたくしもこのグリフォンに命を救われましたよ。

 まさかこのグリフォンに助けられるとはね。はははは……。

 実に想定外のことです」


 じっと超有機生命体研究所のことについて考えていると、グリアムスさんがクラック隊長に遅れて、驚きと喜びの混ざった表情をしながら、自分の元へやって来た。

 ……さすがにペトラルカさんとクラック隊長みたいに、お互い抱擁こそ交わさなかったものの、あの窮地を脱し、こうしてまた言葉を交わすことが出来て、自分はとてもうれしく思った。


「……グリアムスさん。1つお話があります」


 だが再会の余韻に浸るよりも前に、まず伝えるべきことがある。

 工場での地下研究所でのこと。自分が持ちうる情報の全てを忘れぬうちに、グリアムスさんにまず話しておく必要があると思ったのだ。


「はあ……。何をそんな真剣そうな顔をなさってるのです? ……実にあなたらしくない」


 また遠回しに馬鹿にされた感が否めないが、自分は地下研究所のこと。超有機生命体とこの虹色の石のことについて、彼に話し始めたのだった。

ここまで閲覧いただきありがとうございます!


最終章中編は、その15~20を経た上で、最終章後編へ本格突入する予定です!

※一応10月14日付けの活動報告の方で、最終章中編はその19までと明記していましたが、その19の文字数の関係上、一部その内容を20にずらす予定です。


また最終章後編は、その1からその19を。最終章完結編はその1からその2までを予定しています。

 推敲の関係上、若干話数が伸びる可能性もありますが、大枠としてはこのスケジュールで今後の投稿の方をしていきたいと思います。

 よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ