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公園には西日が差し、ジャングルジムの影が長く地面に伸びている。
そのてっぺんで、まだ三歳くらいの子供が夕日に向かって歓声を上げている。
朝木が近付いてよく聞くと、それは歓声ではなかった。叫びだった。
子供はママー、ママーと母親を呼んでいるのであった。
子供がこちらを振り向いた。その顔には見覚えがあった。
日に焼けた丸顔、西日のせいか、目がぎらついているように見える。
それは虎田先輩だった。
目を覚ますと、見慣れない天井が見えた。電子音が聞こえる。ICUだと気付くのに数秒かかった。ベッドで酸素マスクをしていてもまだ呼吸が苦しい。
「朝木さん、起きてますか」
防護服姿のナースが来て言った。
喉が渇いている。水が欲しいと言うと、マスクを外してチューブで飲ませてくれた。
あの後、体温を測るとすぐに保健所に電話した。最寄りのクリニックを紹介された。
リーダーに連絡すると、事情を話さざるを得なくなった。ラインでブチギレられた。お前ら一体何やってんだ。反論する気力はなかった。
翌日の夕方にクリニックでPCR検査を受けられた。どうも、そこで意識を失ったらしい。気付いたら病院のベッドにいた。ここでも聞き取り調査を受けた。スマホも提供した。追跡アプリは入れてなかったが、位置データが役に立つらしかった。
症状は酷かった。呼吸は苦しく、機器に繋がれ、断続的に眠った。意識を失っているのか区別が付かなかった。延々と悪夢を見ているような気がする。内容は覚えていない。しかし、病院にいることの安心感は大きかった。
再び目を覚ますと、声が聞こえた。近くに誰かがいるらしい。
「大体キャバクラで感染するとか、バカじゃないの」
防護服姿のナースが二人で、何やら作業をしていた。再び眠りに落ちた。
「大体お前さあ、凜ちゃんと濃厚接触し過ぎだろ」
「いやいや、先輩だって、結構触ってたじゃないですか」
見渡す限りの草原を先輩と歩いている。空はどんよりと曇っていた。
前方に川が見えた。船着き場に小舟が停泊している。船頭が待っていた。船に乗った。
先輩は船着き場に立ち尽くしている。
「あれ、先輩は」
「いや、俺は行けないんだ」
船が出ると、先輩が言った。
「すまんな。俺を恨むなよ」
遠ざかる先輩の姿は、まるで迷子の子供のように淋しそうに見えた。
これで終了です
他愛もない話ですが
二日で六ページ書いたのは
自分としては頑張った方です
今じゃないと書けない話かなとも思います
皆さんもお気を付けて
今は引きこもって小説読んでるのが一番ですね