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~プロローグ~

「目を覚ますのです。あなたは異世界に転移されて来たのです。早く目覚めなさい」

 まどろむ意識の中で、徐々に誰の言葉なのかが分かり始めて来た。

「ん、んん~誰~、瑠璃(るり)? 」

 声の質感と、言葉のチョイスに思い当たる人物が一人である事を思い出し、今だ暖かい春の陽気に誘われて、やや手前に傾斜した液晶モニターに突っ伏したままの姿勢でやり過ごそうとすると、コホンと話す前振りをすると

「いいえ、私は女神カーリーです。そして血と殺戮の女神です。起きないと、この手に握られた授業中に研磨しすぎてしまったナイフで、あなたの剥き出しの手首に刃を入れようと思いますがよろしいですね」

「……Zzz……」

 とりあえず面倒なので、寝たふりを決め込もうと思った。

 この人は何を言っているんだろう、そう思っているとすぐ近くで別の女性の声だけが聞こえた。

「ちょ、ちょっと瑠璃! 流石にそれは危ないって――」

 ガタガタ――、明らかに周囲の学生達の椅子から立ち上がる音が複数聞こえる。

 徐々に思考が鮮明になっていく中、この現状に追いつき、そのまま高速回転を続ける。

 (え、嘘でしょ? ただ起こすだけにこんな手の凝ったこと……、いやする人だ! この人はする側の人だ。……あれ、今って普通に顔上げても大丈夫かしら、何だか左の手首に、とってもひんやりした感触がするのだけれど)

「えっと、瑠璃さん、もう起きますから動いてもよろしいでしょうか」

 人質が犯人を刺激しないよう、できうる限り下手に出た物言いで質問しつつ、徐々に頭を上げていった。

「あら、おはようございます。鍛冶浦(かじうら) 緑彩(つかさ)さん」

 目の前の、昨日まで桔梗色の髪色をしていたと記憶している彼女が、今はギリギリ肩まであるロブは変わらず、黄色味掛かった金髪になっていた。

 そして彼女は、慈悲深い優しい微笑みで、私に向かって挨拶をする。が、左手で私の机の前に投げ出されている左手を掴み、右手にはそのまま引き抜けば、もしかしたら綺麗な赤い噴水が教室内で見られるのではと思う状況。

「所で瑠璃、そろそろこの手を放して欲しい――」

「――女神カーリーです」

「……る――」

「――カーリーです」

 結構食い気味に来た。目の前の彼女は、女神スマイルを一切取り外さない。

 それが一層、周囲への更なる震撼を募らせた。

 私は数日前から、()()自称女神カーリーと名乗る女子生徒と知り合いになってしまったらしい。

「えー、女神カーリーさま、私はもう起きましたから、用があるのなら、まずそのナイフと無駄にデカい胸を私の前から消してくださいませ」

 私は突っ伏した姿勢のまま顔だけ上げた。目の前の彼女が、頷くと、自身の制服の胸元に、鏡のように磨かれたナイフを上から谷間の中にしまった。

「ところで、1年の教室まで来てどうしたんですか、カーリー()()

 ナイフを胸の中に綺麗にしまい終わってから女神さまは、思い出したかのような反応と、両の手を胸の前でパチンと合わせた。

「そうでした、可愛い後輩に会いに来たくなってしまって、つい心ばかりな可愛らしい悪戯をしたくなってしまったのです」

 彼女の話を聞きながら、私は眉間のしわが上方に徐々に動いていくのが自分でも分かった。序にこの女に後でどういう仕返しをしてやろうかを考え始めていた。

「それで、この間貴方が言っていた、もっと色んな種類の『無形(ノー・フォーム)』を作ってみたいって言っていたじゃない」

 何か言いたげな、期待に満ちた笑顔で問いかけてきた。

「ん?そう言えば……、言ったわね」

 言葉自体はうる覚えだった、けれども昨日、今なお胸の内に微熱の様なこの思いは、そうそう消せそうには無かったからだ。

「その気持ちは今も変わりありませんか? 」

「ええ、変わらないわ、……寧ろどこかの誰かさんのせいでより一層って所かしら」

 彼女はいつでも突拍子もない事をやらかす。

 今度は何だと思いつつ、少し期待している自分がいる。

 口にするのは恥ずかしいので言わないが、やはり私は彼女とどこか似ている気がしてならないからこう思うのだろうか。

 そして目の前の女神さま(笑)は、大きく両手を優雅に広げ、顔を天の方へ向け高らかに述べた。

「なら、ナイトワールドで『私達のお店(ギルドショップ)』を開きましょう! 」


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