表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/84

第72話 告白をしてしまう



「あの、どうでしょう、か……?」



 私がおずおずと尋ねると、塚本先輩は慌てた様子で口の中のものを飲み込む。



「んぐ、いや、マジで美味いよ! 朝霧さんに匹敵するっていうか、朝霧さん以上?」



「そ、そんなことは……」



 柚葉ちゃんから料理を教わっている私が、柚葉ちゃん以上の味を出せるワケがない。



(……でも、お世辞でもちょっと嬉しいかも)



 塚本先輩としては、要するにそれくらい美味しいよと伝えたかったのだろう。

 それは私にとって、最上とも言える褒め言葉であった。



「いやぁ、でも本当に良かったの? 昨日に続いて今日もって、結構大変だったんじゃない?」



「それは、大丈夫です。私が好きでやったことなので……」



 と、自分が結構大胆なことを言っていると、言ってから気づく。

 急速に顔が熱くなるのを感じ、私は思わず顔を逸らしてしまう。



(って、ああ……、これじゃそっぽを向いたように思われるかも……)



 見事なくらいに空回りしていることを自覚し、なんだか情けなくなってくる。

 幸い塚本先輩は気にした様子は無いけど、内心ではどのように思われたのやら……

 ひとまず、変なかたちで会話を切ってしまったため、私から会話の再開を試みる。



「あの、むしろ、先輩の方が迷惑だったりしないでしょうか? こんなお弁当なんか持ってきて……」



「いやいや全然! 迷惑なんてあるワケないじゃない?」



「でも、その……」



 お弁当を美味しいと言ってくれるのは嬉しい。

 でも、やっぱり私なんかがという気持ちはある。

 今日だってわざわざ教室に尋ねたりして、その、誤解とかされたりとかいう心配が……



「いいかい麻生ちゃん。女子の手作り弁当なんてものは、大体の男が喜ぶ代物なんだよ。それが後輩の可愛い女子からで、しかも美味しいときたら喜ばないワケがない。もし喜ばない奴がいたら……、そいつは俺にとって敵だ」



「っ!?」



 塚本先輩が真面目な顔つきで言うものだからつい聞き入ってしまったけど、その中に信じられない単語があったことに驚く。



(後輩の可愛い女子って……、もしかして、私……?)



 いやいや、そんなハズはない。

 今のは恐らく、ちょっとした例えのつもりで言ったのだろう。

 男子から可愛いなんて、生まれてからまだ一度だって言われたことが無いのだ。

 流石に自意識過剰過ぎるだろう。



「……え、えっと、そう言ってくれるのは嬉しいんですが、やっぱり、私なんかがお弁当を持っていったりしたら、ご、誤解とか、受けちゃうかもしれませんし……」



 しかしそれでも、聞かずにはいられなかった。

 もし受け入れてくれるならという、まるで希望にでも縋るような思いが、私の口を衝くようにして出たのである。



「……? そんなの、むしろ嬉しいくらいだけど?」



「っっっっ!!!!」



 そのたった一言で、私の涙腺は崩壊してしまった。



「ちょちょちょちょっと!? なんで泣いて!? 俺、なんかマズいこと言っちゃったか!?」



 慌てふためく塚本先輩。

 でも、それをフォローしている余裕は私には無かった。

 こみ上げてくる嬉しさが、そのまま涙となって溢れ出て止まってくれない。



「どど、どーしよ……。と、とりあえず、この場合、ハンカチだよな?」



 そう言いいながら、塚本先輩がハンカチで私の涙を拭ってくれる。

 それさえも嬉しくて涙が止まらず、ハンカチは既にびしょびしょに濡れてしまっていた。



「ず、ずいま、ぜん……」



 なんとか謝ることは出来たけど、鼻声になってとても恥ずかしい。

 私は涙が止まるまで、もう黙っていようと決めた。





 ………………………………



 ……………………



 ……………





「その、取り乱してしまい、すいませんでした」



 なんとか落ち着きを取り戻した私は、まず塚本先輩に頭を下げた。



「いやいや、いいんだよ! 俺の方こそゴメンね! なんかマズいこと言っちゃったみたいだし……」



「そんなことはありません! 塚本先輩は悪くなんて……」



 どう説明したらいいかわからず、その後の言葉が出ない。

 それを言ってしまえば、それはもう告白と言っても過言ではないからだ。

 ……でも、逆に今こそがチャンスなのではないだろうか。

 この機会を逸すれば、きっと私は、また何も言えなくなってしまう気がする。



「………………あの、ですね、わ、私が泣いてしまったのは、その、嬉しくて、なんです」



 そう思った瞬間、私はほとんど勢いで泣いてしまった理由を口にしていた。



「…………」



 塚本先輩から反応はない。

 その間が、言い知れない恐怖となって背中を駆け抜けていく。



「……えっとさ」



 ほんの10秒ほどの沈黙を挟んで、塚本先輩が口を開く。

 たったの10秒だというのに、私にとっては永遠とも思える時間であった。



「勘違いじゃなければなんだけど、誤解されたらむしろ嬉しいって言ったのが、嬉しかったってことかな?」



「っ」



 言葉では返せない。

 私はただ、首を縦に振ることでそれを肯定する。



「それって、俺を好いてくれてるってことで、あってる?」



「っ!」



 やっぱり、伝わってしまっていた。

 ……でも、もう今更逃げることはできない。



「……はい」



 私はなんとか、返事をすることに成功した。

 その返答に塚本先輩は――



「っしゃーーーーーーーーーーーー!!!」



 天高くガッツポーズを決めたのであった。




ストックの方が尽きましたので、次回より週1の更新となります。<m(__)m>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 塚本くーん! 麻生ちゃーん! お め で と う っ !!! いやー、好きな男の子のひとことで嬉し泣きする女の子……そこにはもう、かわいさしかないですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ