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第59話 加山さん③



「あの、今日のお昼なんだけど、先に行っててくれないかな……」



 四時限目に入る前の休み時間中に、たまちゃんが申し訳なさそうな顔でそう言ってくる。

 別にそんな済まなそうな顔をしなくても、私達は全然気にしないのになぁ……



「それは全然大丈夫だけど、何かあるの?」



「うん。でも、大した用事じゃないから、5分くらいしたら合流できると思う」



「それくらいなら待ってようか?」



「えっと、その、本当に大丈夫だから…」



 たまちゃんは、のどかちゃんにそう返しながら、何となく気まずそうにしている。

 これは恐らく、私達に先に行って欲しいのでは無いのだろうか。



「……うん。わかった。じゃあ、私達は先に行ってるね?」



「うん。ありがとう。柚葉ちゃん」



 ――そして昼休み。


 私達は言われた通り、先に教室を出る。

 でも、少し気になった私は、こっそりとたまちゃんの様子を見ることにした。



(……用事って、加山さんに相談事?)



 たまちゃんは私達が教室を出たタイミングで、加山さんに声をかけていた。

 普段から加山さんと良く話をしているけど、今日はなんだかいつもと様子が違う気がする。

 どこか真剣というか、少し張り詰めた感じがするような……



(ひょっとして……)



「柚葉? 行かないの?」



「っ!?」



 教室の様子を伺いながら考えごとをしていると、静流ちゃんに肩を叩かれ思わずビクッとしてしまう。

 一つのことに集中すると周りが見えなくなるのは、私の悪い癖だ。



「ご、ごめんね。ちょっとたまちゃんの様子が気になって……」



「あ~、確かに。やっぱり待つ?」



「……ううん、行こう?」



 少し後ろ髪を引かれるけど、自分で先に行こうと言っておいて残るのは流石に気が引ける。

 正直に言ってくれるかはわからないけど、たまちゃんには後で話しを聞いてみることにしよう。





 ◇





 ……現在私は、図書室の座席にたまちゃんと並んで座っている。

 そして、その向かいには加山さんが座っていた。


 何故こんな状況になったかと言えば、私が強引に二人の待ち合わせに割り込んだからである。

 もちろん、そんな強引なことをしたのには理由があった。

 それは、加山さんとの話の内容が、木村さん達の件についてだったからだ。

 まあ、そう確信に至ったのは、偶然通りがかった塚原先輩にその件がどうなっているか問いただしたからなのだけど……



「……それで、なんで朝霧さんも一緒なの?」



 加山さんは私を見るなり、少し呆れたような顔でそう聞いてきた。



「ごめんなさい。私も、加山さんにお話があって……」



 塚原先輩の話を聞いて、私はいてもたってもいられず、たまちゃんを追いかけた。

 幸い、本気で走った甲斐もあって、なんとか追い付くことはできた。



「……朝霧さんまで一緒ってことは、やっぱりあの件について?」



「うん……。加山さんが塚本先輩達に、その、頼んでくれたんだよね?」



 たまちゃんの言葉に、私は少し驚く。

 もうそこまで知っているなんて、思っていなかったからだ。



「それは違うよ。私は朝霧さんに、麻生さんの様子がおかしいって相談しただけ。塚本先輩達が何かしたかなんて。私は知らないよ。でも、先輩達が動いてくれたってことは、朝霧さんが頼んでくれたってことじゃない?」



 加山さんは、少し気まずそうに顔を逸らす。

 ……多分だけど、あの時のことを思い出しているのかもしれない。



「ううん、私は何も頼んでいないよ。だって、私が相談しようとした時には、先輩達はもう既に知っていたから」



「え……? 知ってたって、麻生さんが嫌がらせ受けているってことを?」



「うん。本当に、凄いよね」



 本当に先輩は凄い。

 例えクラスや学年が違っても、先輩は困っている人をすぐに見つけだし、助け出してしまえるのだ。

 ……本当に、ヒーローだったりするんじゃないだろうか。



「いや……、凄いっていうか、そこまで来ると、むしろちょっと引くような……」



「……引く?」



「いや、なんでもない……。それより、麻生さんの話っていうのはそのことなの?」



「う、うん。加山さんが塚本先輩に相談してくれたんだったら、ちゃんとお礼を言わないとと思って……」



 たまちゃんは、嬉しさと悲しさが入り混じったような表情で言う。

 それに対し加山さんは、自嘲気味な笑顔を浮かべて返した。



「あはは……、勘違いさせてごめんね? さっきも言った通り、私って実は何もしてないんだよ。麻生さんが何かされてるっぽいとわかっても、結局自分じゃ何もできないから、朝霧さん達に丸投げしちゃったしね……」



「っ!? それは違うよ加山さん! だって私達は、たまちゃんがどうして体調を崩しているかだって、全然気づいてあげられなかったんだよ!? もし加山さんが気づかなかったら、きっと私達はまだ……」



「ちょ、ちょっと朝霧さん! ここ図書室!」



 加山さんに小声で注意され、私は慌てて声をすぼめる。

 興奮して声を荒げるなんて、本当に成長しないな、私……



「……あのさ、さっき朝霧さんが、先輩方は最初から気づいてたって言ってたでしょ? だったら別に私が相談しなくたって、結果は同じだったてことじゃない?」



「ううん、先輩は別口から相談を受けてたみたいだけど、実際に何が起きてるかまでは知らなかったって言ってた。だから、加山さんが教えてくれなきゃ、きっとこんなに早く動けなかったと思う。だから、私も加山さんにお礼が言いたかったの」



 私が真剣にそう伝えると、加山さんは慌てて顔を逸らしてしまう。

 そして暫く目を彷徨わせてから、やがて観念したようにこちらに向き直る。



「……あ~、とりあえず私、何も聞いてないんだけど、そんな風に言うってことは、今回の件ってもう解決したの?」



 さっき塚原先輩は、「一応解決したよ」と言っていた。

 一応というのが何を意味しているかわからないため、私はたまちゃんに視線を送る。



「……毎日続いていた嫌がらせが、昨日今日と無かったから、多分だけど……」



 その言葉を聞いて、私はホッと息を吐いた。

 まだ安心はできないけど、少なくとも直接的な嫌がらせは無くなってくれたようだ。



「……そう。良かったね麻生さん」



 加山さんも安心したように優しい笑顔を見せる。

 彼女のこんな笑顔を、私は初めて見た。



「……うん。本当にありがとう。加山さん」



「~~~~~! か、勘弁してよ。私、そうやってお礼言われるの苦手なの!」



 たまちゃんに涙目でお礼を言われ、顔を真っ赤にして慌てふためく加山さん。

 これもまた、初めて見る彼女の一面であった。

 本当に、私は狭い視野で世界を見ていたんだなと痛感させられる。



「ちょ、朝霧さん! その微笑ましいモノを見るような目するのやめて!?」



「ふふふ……」



「だ~か~ら~!」



 しまいには麻生さんまで一緒になって笑い始め、結局私達は仲良く先生に怒られることになった。




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