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第49話 準備開始



「…という事で、俺達はその子を助けるために動いているんだ」



「…………」



 話を聞き終え、俺は複雑な気持ちになり俯く。

 俺なりに色々と想定はしていたのだが、それよりも大分厄介な案件であった。

 しかし、この男や柚葉たんが動いていることを考えれば、不純な動機であるハズが無い、か……



「それで……、どうだろう? 出来れば杉山の力を借りたいんだが……」



 塚原は真剣な表情でそう言い、「頼む」と頭を下げてくる。

 ……この男は、どうして他人のことにここまで真剣になれるのだろうか?

 話を聞く限り、この男と被害を受けている子に接点はほとんど無い。

 柚葉たんの友達らしいが、話の前後関係から考えると、後々判明したというだけなのだろう。

 だというのに……



(……コイツは、正真正銘の馬鹿なんだな)



 しかし……、これが呆れを通り越すというヤツなのだろう。

 正直俺は、そんな塚原に感心してしまっていた。



「……残念だが、俺には塚原達が期待しているスキルは無い」



「……そうか」



「だが、それでもいいなら、協力はしたいと思う。色々と準備したいし、少し時間が欲しい所だが……」



「っ!? 本当か!?」



 沈んだと思ったら、今度は身を乗り出して喜色を浮かべる塚原。

 俺はそれに少し引いてしまったが、悪い気はしなかった。



「あ、ああ……」



「ありがとうございます! 杉山先輩!」



「本当に助かるよ……。それで、準備って何が必要なんだ? 出来る事なら俺も協力するけど……」



「いや、色々自分で調べたりするだけだから……。それより、2~3日はかかると思うから、その間の他の対策をして貰った方が良い、かな?」



 必要な器具の準備や、専門知識の勉強なども必要だし、最低限2~3日は準備期間として欲しい所だ。

 ただ、その間にも被害者への嫌がらせは続くハズだから、なんらかのフォローが必要である。

 塚原達には、そっちに集中して貰った方が良いだろう。



「わかった。そっちは俺達の方でフォローするよ。杉山は準備が整ったら教えてくれ。これ、一応俺の連絡先」



 そう言って塚原はスマホの画面を見せてくる。

 俺がそれを見て硬直していると、すかさず藤原先輩がフォローを入れてくれる。

 俺自身、つい最近まで赤外線通信機能など使ったことが無かったので、画面の出し方すら知らないのである。

 そのことを知っている藤原先輩は、さも当たり前のようにサラっと連絡先の交換を済ませてしまった。



(これがイケメンの対応というヤツか……)



 もちろん先輩は男などでは無いが、ごく自然にフォローを入れる姿にはまるで違和感が無かった。

 俺が純真な少女であれば、ちょっと胸がドキドキしてしまっていただろう。



「……どうした杉山? 少し顔が赤いぞ?」



「ばっ!? ち、違うぞ!?」



「……何が?」



 いや、断じて違うのだ!





 ◇





 その後、簡単に打ち合わせを終えた俺達は、店を後にし各自帰宅をした。

 俺は寮に戻ってすぐ私服に着替え、パソコンの電源を入れる。

 早速盗聴や盗撮に関する情報に検索をかけるが、盗聴に関してはどうやら今回のケースではあまり参考にならないようであった。

 というのも、定期的に情報を採取するのが目的では無いし、プライベートな環境に設置するワケではないからだ。

 今回の案件であれば、もっと多目的なレコーダーを設置するなどでことが足りるだろう。

 極端な話、スマホなどの録音機能でも十分な効果を見込めるレベルだ。



(……やはり問題は画像の方か)



 音さえ拾えれば良いレコーダーとは違い、しっかりとレンズに捉える必要のあるカメラは、バレずに仕掛ける難度が高い。

 それでいて半端な画像情報では効果が薄いため、なるべく全容を映せるポイントを選ぶ必要がある。



(となると、やはり購入は必要になるか……)



 目立たぬよう設置するとなると、やはり小型なカメラは必須となる。

 早速通販サイトに接続し、商品を漁ってみたが、結構な数があるために中々目移りする。


 昨今の小型カメラは驚くほど高性能な上に、本当に小さい。

 録画時間もそれなりに長く、音声まで拾えるので、これ一つでも十分なくらいだ。

 値段はゲーム一本分程度なので個人的には少々痛いが……

 まあ、持っておくと便利だろうし買っても構わないだろう。

 どうせポイントも一杯あるしな……



 Pipipi♪



 評判などから判断しつつ一番無難な商品をポチッた所で、スマホから電子音が流れる。

 ディスプレイを確認すると、予想通り先輩のようであった。



「……どうしましたか? 先輩」



「ん~、まあ、今日のことで少しね。……まず最初に、今日はごめんなさい」



 ごめんなさいとは、まあ盗聴だの盗撮だのを詳しそうと言ったことだろう。

 学校でも一度謝られたのに、律儀な人である。



「いえ、本当に気にしてないので」



 実際、もう気にしてなどいなかった。

 冷静になると、そう思われても仕方ないと気づいたからである。

 特に先輩相手には結構遠慮しなくなってきているので、俺の陰気さは完全にバレているに違いない。

 むしろ、日ごろの態度を見直す良い機会になったとさえ思っていた。



「そう、それなら良かった。……それで、私から紹介しておいてアレなんだけど、今日の話、本当に引き受けても良かったの?」



「……ええ」



「でも、色々調べたりとか大変でしょ?」



「まあ、多少時間は取られますが問題無いですよ。調べ事は好きですしね」



 もともと、知らないことを調べるのは嫌いでは無い。

 引き籠り時代はネットサーフィンを繰り返し、色々なことを調べて知識を深めていたものである。

 最近は頻度が減ったが、今でも気づくと余計なことを調べて時間を取られたりしていた。



「まあ、そんな気がしたからこそ、紹介したんだけどね。……ただ、今回の件ってそれなりにリスクあるじゃない? 今になって、ちょっと心配になって来たのよね……」



「確かにそうですが、もうカメラも購入しちゃいましたし、今更引く気は無いですよ」



「えぇ!? 買っちゃたの!?」



「ええ、通販で。場合によっちゃ届くまでに時間かかりますし、買うなら早い方が良いでしょう」



 一応明日には届くらしいが、念には念を押しておきたい。

 それに、ある程度は事前に使い勝手を確認したい所だ。



「……それにしたって、行動早すぎない? ひょっとして、結構やる気出してる感じかしら?」



「……まあ、そうですね。ちょっと今回の件は、思う所がありますし」



 イジメ……

 俺も似たような経験があるだけに、他人事とは思えなかった。

 だからこそ、それを助けという思いが今回の件に関わることの後押しとなった。



「……そう」



 先輩は一言そう返しただけで、深くは突っ込んでこなかった。

 先輩のこういう所には、正直助かっている。

 ……気に入っていると言っても良い部分だ。



「じゃあ、とりあえず買った製品を教えなさい?」



「……はい? 何故ですか?」



「私が半額出すからよ?」



「いや、だから何故」



「当然でしょ? 私から持ち掛けた話なんだし、負担にはさせないわよ」



 恐らく先輩は、電話の向こう側でドヤ顔をしているのだろう。

 それがわかるからこそ、実はほとんどポイントで購入した事を言い出し辛くなってしまった……




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― 新着の感想 ―
[良い点]  50話まで読んだところで、一区切りとして感想をと思いました。  それぞれの視点で物語を進めてゆくという工夫された書き方、また登場人物のそれぞれのキャラがしっかりしているので、私の固い頭に…
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