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第35話 二人で体育を見学



「おはよう、タマちゃん」



「あ、おはよう、柚葉ちゃん……」



 教室に入ると、いつものように柚葉ちゃんが挨拶してくれる。

 以前はこんなこと絶対に無かったので、これだけでも嬉しい気持ちが溢れてくる。



「おっはよー! タマちゃん! 今日は珍しく遅いね?」



「う、うん、ちょっと寝坊しちゃって……」



 昨夜は色々と考え込んでしまったため、中々寝付けなかったのである。

 寝つけた頃には空が少し明るんでいたので、多分三時間も眠れていないだろう。

 お陰で、久しぶりに寝坊をしてしまった。



「大丈夫? ちょっと顔色悪いよ?」



「一応お薬飲んで来たし、多分大丈夫……」



 本当は薬なんて飲んでないし、あまり大丈夫でも無いのだけど、少しだけ嘘を吐いてしまう。

 寝不足に特効薬なんて無いし、そんなことでみんなを心配させたくなかったからだ。



「本当? あんまり無理しない方が良いよ?」



「そうそう、無理しても何も良いこと無いからね。もし気分が悪くなったら、ちゃんと言いなよ? 一緒に保健室ついて行ってあげるからさ」



 静流ちゃんも、のどかちゃんも、心配そうに私を気遣ってくれる。

 それだけでも、私は幾分か気分が良くなった気がした。

 前の学校では、こんな風に自分を気遣ってくれる人は一人もいなかったから……



「……うん、ありがとう、みんな」



 私は感極まって、思わず涙ぐんでしまった。

 だって、こんな嬉しい気持ちになったら、耐えられないよ……



「ちょちょ、ちょっと、何で泣きそうな顔するのよ!?」



「……もしかして、のどかより来るの遅かったのがショックだったとか?」



「な、なんでそうなるのよ!?」



 のどかちゃんと静流ちゃんは、私が涙ぐんだせいか慌てふためいて、変なやり取りを始めてしまった。

 二人とも実は結構冷静な方なのに、まるで漫才のようなやり取りであった。



「あ、あはは、ごめん、ちょっとみんなの気づかいが嬉しくて」



 そんな二人のやり取りに、私は自然に笑みを浮かべていた。

 二人も、私が笑ったのに釣られるように笑い始める。



「タマちゃん、何があったか知らないけど、悩みごとがあればいつでも相談してね? 絶対助けになるから」



 そんな私を見て、柚葉ちゃんはまるで聖女のような笑みを浮かべながら私の頭を撫でてくれた。





 ◇





 気分は大分良くなったものの、結局この日の体育も見学することになった。

 先日と違うのは、もう一人見学者がいることだろう。



「柚葉ちゃん、大丈夫なの?」



「うん。ちょっと運動は厳しいってだけだから」



 柚葉ちゃんは所謂、『女の子の日』だったらしい。



「……私はその、まだだからわからないんだけど、凄く辛いんでしょう?」



 私はまだ、初潮というものを迎えていない。

 だから、『女の子の日』がどのくらい辛いものなのか、ちゃんとは理解していなかった。

 保健の授業では一応習ったけど、どんな風に辛いのかイマイチ伝わってこなかったのである。

 ただ、お母さんが辛そうにしているのは見たことがあるので、柚葉ちゃんも相当辛いのではないだろうか……



「まあ、ちょっと体が重いかなってくらいだよ。症状が重い人はもっと重いって聞くけどね」



 柚葉ちゃんは辛さを感じさせない笑顔で、そう答える。



(……本当に、凄いなぁ)



 私なんか、自分の事でいっぱいいっぱいだったっていうのに、柚葉ちゃんは体調が悪くてもしっかり人を気遣えるんだ……

 私はそんな柚葉ちゃんを、ただ尊敬の眼差しで見つめるしかできない。



「ど、どうしたの?」



 私の熱視線が気になったのか、柚葉ちゃんが照れたような顔で尋ねてくる。



「……ううん、ただ、柚葉ちゃんは凄いなぁって思って」



「えぇ!? 私なんて全然凄くないよ!」



「そんなこと無いよ…。こんなに人のことを気遣える人って、私知らないもん」



 そう、私は知らない。

 大人にだって、そんな人はいなかった。



「……私なんて、ただ先輩の真似事をしてるだけだよ」



 っ!?

 先輩って……、あの塚本先輩のこと、だよね……?

 柚葉ちゃんが憧れていて、そして、好きだという、あの先輩……



「……ねぇ、柚葉ちゃん、その先輩のこと、聞かせてくれない?」



 私がそう尋ねると、柚葉ちゃんは一瞬びっくりしたような顔つきになる。

 けれども、それは一瞬のことで、柚葉ちゃんはすぐに笑顔で答えてくれた。



「もちろん、良いよ。でも、私に先輩を語らせたら、長くなるよ?」




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