異世界転生ってやつ
「んんー……」
白い空間の中、真理は目を覚ました。
真理が辺りを見回すと何も無い空間に海斗が倒れていた。
「ねぇ!海斗!起きてよ!」
何度か海斗の体を揺さぶると海斗は目を覚まし、
「なぁ……俺らって……」
と話し始める。海斗の言いたいことを察した真理は海斗の話を遮り、
「うん、死んだよー」
それが当たり前かのように緩く言う真理に、海斗は少しおぞましさを感じた。
「いや、でも……生きてる……よな?」
自分の手を触りながら海斗は不思議そうに聞いた。
「自分で考えてー。」
めんどくさい、と言うような声色で真理が言ったため、仕方ないと思い、海斗は回らない頭を必死に動かす。
「うーん……」
「うーん……」
唸りながらもう何分経っただろうか、さっきから全く進展も無しに海斗は右と左を行ったり来たりしている。
そして更に10分程経った時だろうか。突然海斗が、
「そうか!!分かったぞ真理!」
「うん。そっか言ってみなー」
海斗は1つの結論に辿り着く。
「これはな!この前真理が貸してくれた本、あるだろ!異世界転移?ってやつ!それだよ!俺らも転移しちゃったんだよ!」
子犬のように目を輝かせながら海斗は真理の方を向く。その瞳の奥には、期待で満ち溢れていた。
「ざんねーん。多分違うよ。」
真理は悪戯っぽく海斗に告げた。
「嘘だろ!だって本で読んだのと同じ感じだったぞ!?」
その答えに異議を唱える海斗だが、真理はその事に対し、
「相変わらずお馬鹿さんだねー。まず、注目すべき点が幾つかあるの。1つ目。」
そう言って真理は1本指を立てる。
「まず、私たちは死んだのよ?証拠として私達の意識が消える前、目の前が真っ赤に染まったでしょ。転移は生きてるまま別世界に行くんだから死んだ私達はこれに該当しない。OK?」
それを聞いた海斗だが、まだ諦めが悪く、
「転移じゃ無かったとしてもだ!見た事の無い場所だぞ!?こんな真っ白な時が流れてるかさえも分からない不思議な空間。」
それを聞いて真理は1つ大きなため息をつき、
「私は転移ではない。と言っただけよ。それが2つ目。」
そうして真理はもう一本指を立てる。
「こんな真っ白な空間、異世界にあるの?それに、誰かが私達を召喚したなら、召喚者が真っ先に出てくるよね?」
「この事を踏まえて、私は此処を神のいる場所?と考え、今から異世界"転生"が行われると思った。」
その言葉を聞いた海斗は再び目を輝かせ、
「そうか!!」
と大きな声で同意した。
「あら、ご名答。なかなか頭が切れるのね、貴方。」
不意に、背後から女性の声がした。その瞬間、コンマ何秒かの速度で海斗がその人物の背後に回る。
「何もんだ?」
海斗はピリピリとした声色で謎の人物に問う。
一方謎の人物は余裕そうに、
「貴方はかなり素早く動けるのね。素晴らしいわ。」
それを挑発と見なしたのか海斗は、
「余裕こいてんじゃねーよ」
と言い戦闘態勢になる。その瞬間、戦闘が始まる……と思いきや、
2人の間に少女、真理が立っていた。
「海斗、知らない人に、いや違うね。知らない神様に喧嘩売らないで……」
神様という言葉を聞いた海斗は目を見開き、
「え?カミサマ?マジデ?」
硬直した。
「うん、そうだと思う。さっき説明したよね。神のいる場所かもしれないって。そうだとしたらその人は神という事になる。」
淡々とした口調で真理は告げ、神らしき人物の方を見る。
「申し訳ございません。うちの愚友が神様にあろう事か喧嘩をふっかけてしまい……」
90度。最敬礼で謝った。
「別にいいのよ。知らない奴が急に現れたら警戒するに決まってるから。顔を上げなさい。」
その言葉を聞いた真理は顔を上げ、
「寛大な心に感謝致します。」
「それに、その肩苦しい言葉辞めましょうか。私はあんまりそういうの好きじゃないの。」
真理は1つ礼をし、
「では、ある程度の礼儀は弁えつつ、会話する。と言うことでいいですか?」
その事をしっかりと聞いた神様らしき人は、微笑み、
「ええ、もちろんよ。」
安堵した真理は未だに硬直している海斗の方を向き、
「いい加減復帰しなよー……」
と言い、海斗の頬を
ベシンッッッ!
と大きな音を響かせて叩いた。
すると海斗が飛び上がり、
「いだい!!!何すんだよ!?硬直したのは悪かったけどそこまでしなくてもいいじゃんか!お前の平手打ちマジで痛いんだからさ!!!」
喚き出した。
「はぁ……ごめん……今度からは優しくやるからさ……」
「今度から……ってまたやる時が来るの!?」
「さぁどうだろうね。」
はぐらかされた海斗はちょっぴり不満げな顔をしていたが、神様らしき人物の方を向き、
「えっと……喧嘩売ってごめんなさい。」
と謝った。
「ええ、それぐらいはいいのよ。大丈夫。」
と優しく微笑んだ。
「所で話は変わるけど…………君達がここに居る理由。まぁ異世界転生する事について説明するわ。」
そう言うと、ほんの少しだけ周りの空気が静かになった気がした。
「はい。お願いします。」
真理はしっかりと神様らしき人物の方を見る。
「じゃあまずは何処から話せばいいのかしら。えっと……」
「では、質問していいですか?」
「ええ、答えられる範囲で。」
神様らしき人物が優しく微笑んだ。
「では、まずは私達が召喚?された理由をお願いできますか?」
「そうね。説明するわ。その前に自己紹介でもしましょうか。私は導きの神、アリアス。貴方達は?」
そう聞かれ、真理が口を開く。
「桜樹真理と言います。高校三年生ですが、通じますか?」
そう真理が聞くと、
「ええ。大丈夫よ、私達神々は色々な世界の事を把握しているからね。」
すると次は海斗が口を開き、
「夜月海斗です。真理と同じ高三で、運動が得意です。」
「ええ、分かったわ。では、貴方達が召喚された理由について話しましょう。」
アリアスはそう言ってくるりと一回転した。すると、真っ白だった空間が、沢山の神々が居る場所に変わった。
「まず、事の始まりは子供を救ったことね。その代わり貴方達は残念だけど、死んでしまった。でもそこでおかしな事が起きたの。普通は死んだら魂は霧散するの。それがどんな未練を残していても。なのに貴方達は霧散しなかった。そうなるともうどう足掻いても霧散は不可能。仕方ないから話し合いの結果、異世界に転生させる。という事になった。」
アリアスはそう言うと2人に2枚の紙を差し出した。
「これ、なんですか?」
そう海斗が聞くと、アリアスが優しい声で
「これは契約の紙。契約の神の手書きだから絶対に破れない。ここには異世界転生する。と言う内容が書かれてるわ。1人1枚、この紙にサインしてくれない?そうすれば契約完了。異世界に転生させる。」
そう言ってアリアスが空中で手を叩く。そうすると不思議な事にペンが出てきた。
「さぁ、サインしてくれるかしら?」
そう言いペンを2人の前に持ってくる。
だが、真理が
「ちょっと待って下さい。何故そんな大層な紙に書く必要が?それと契約内容の確認をさせてもらっていいですか?」
とアリアスに聞く。
するとアリアスは、
「契約の紙に書くのはね、実はよく分からないの。私が神になったずっと前からあったらしくて、でも誰も知らないらしいの。ごめんなさいね。それと契約内容の確認ね、分かったわ。紙を見せるから読んで。」
気前よく答えたアリアスに、真理と海斗はかなりの好印象を持った。
「ありがとうございます。確かに、先程話していた事と大差は無いようですね。」
「わかって貰えてよかったわ。」
そう言いながら、真理は紙にペンを走らせる。
「海斗もかこーよ。大丈夫そうだから。」
真理から安全保障が出た為、海斗もペンを走らせる。
「そうか!!じゃあ書くよ!」
そうして2人ともサインが終わると、紙が光りだし、光の粒子となって消えた。
「契約完了よ。転生の義は明日やるわ。今日はゆっくりここ、天界で寛いで行ってね。」
そうして、アリアス達は豪華な食事が用意してある広間へと移動した。
海斗 「アレ?今回俺出番少ない?」