088 朝会議
~クラスメイトSide/幽崎白夜視点~
「もういい加減いいだろ? 様子見でテメェらとつるんでたが、俺らは俺らで勝手にやることにしたんだって」
「紅谷もたまにはいい事言うね~。保護してくれてる国王様のお願いだったからここまで一緒にやってきたけどさぁ、ダンジョンを攻略できる力はついたんだよ? 後は個人で高めていくべきなんじゃないかなぁ?」
「ケイジてめぇ……俺に便乗してペラペラと喋ってんじゃねぇ!」
「おおっと! こわいこわい、そう詰め寄らないでくれよ。男に近寄られて喜ぶ趣味はないんだ」
「……チッ」
「え、いや、ちょっと2人とも!? 急に何言い出してんの!?」
朝食が終わり、今日からまた新しいダンジョンを攻略していこう、という時。不良もどきバカの紅谷とセクハライケメンのケイジが、急にそんなことを言い出した。
「みんなと力を合わせる。それが1番安全で、早く強くなれる方法だっていう話だったでしょう? どうして急にそんなことを?」
「……さっきも言ったろ。“いい加減いいだろ”ってよ。急にじゃねぇ、最初から考えてたんだよ。それに……クラスで一丸になって知らない世界でも力を合わせてあーだこーだと。俺以外にもいると思うぜ、なにキレイゴト言ってんだって思ってる奴はよ」
「紅谷くん……そんなこと言ってる場合じゃないでしょう? この知らない世界で、お互いのことを多少なりと知っている顔ぶれがあるのは、心の支えになるはずよ」
「しょうもないキレイゴトしか言えねーのかよ、教師ってのは? 説得できなさそうなら説教しようってのもムカつくぜ。……とにかく、もうアンタらと会うことはねぇだろう。わざわざこれを言いに来たのは、あの国王に説明できないのは可哀想だと思ったってだけだ。じゃあな。もう会うこともねぇだろ」
紅谷はそう言い切ると、こちらの反応を待たずに踵を返し扉から出て行った。紅谷の言いように面食らって固まっていたしの先生は、扉の閉まる音で我に返り、追いかけていく。
そして、俺たちはその様子を見守るだけだ。だれも、しの先生について行こうとはしなかった。
「あれ、ケイジは一緒に行かないのー?」
「いやぁ、1人でやっていきたいってのは本心だけど、紅谷と違ってまだ何も準備できてないから……今すぐってのはちょっとね」
「ふ~ん。さっきあんなにイキイキとしてたのに、出て行かないのちょっとダサいね!」
「相変わらず容赦ないね、依鶴ちゃんは……にしても、みんなしの先生追いかけなくていいの?」
「いや、紅谷とかいてもいなくても変わんないっしょ。キョーチョーセー無かったし、むしろいない方が助からない? アタシは嬉しいなぁ」
「千彩さん、クラスメイトをそう悪く言うものではありませんよ。……いえ、もうクラスメイトではないので、良いんでしょうか? 学校に通える状況ではありませんから……いえ、でも退学したわけでもありませんし……」
「いやいや、まずヒトの悪口ゆーのがダメだって。混乱してるこっひはいつにも増してポンコツだねぇ」
彼らの話す内容から少し分かるとは思うが、紅谷に対するみんなの認識はこうだろう。“愛想が悪いイメージ通りの不良っぽいけど、言動の端から馬鹿では無い気がする。” 俺もそう思う。
他のクラスメイトとはまともに喋らないし、ダンジョンでも勝手に突っ込んで行って魔物を倒し、隊列を崩していた。アレで弱かったら、真っ先に死んでいただろうな。
また、紅谷は目上の相手でも容赦なく噛み付くけど、手を出しちゃいけない相手は理解してる。空気も自分なりに読んでる。悪い言い方をすれば、小物だ。なんでわざわざ悪い言い方をしたのかというと、個人的に嫌いだからだ。
多分、俺たちに別れを告げに来たのも、国王を敵に回さない為だろう。国王のスタンスを大雑把に言うと、「保護したげるからウチのダンジョン攻略進めてね。しなくてもいいけど、国力としてカウントできるくらい強くなってくれると嬉しいな。あ、保護するんだからウチの国所属でいいよね? 当然だよね?」という感じだ。
俺たちと別れても強くなるつもりだとアピールしたなら、国王は別に気にしないだろうな。
そして、紅谷と仲が良くもない俺たちには、彼を引き止める理由がない。しの先生を追いかけるわけが無いな。
しの先生以外のメンツからすれば、そんなあっさりとした朝の一幕だったのだが。以外にも、大きな波紋を引き起こすことになった。
「てか、ウチらも数人ずつに別れない? 正直、こんな人数ならダンジョンクリアできて当然じゃん。他の人らより多くて恥ずかしかったしさ? どう?」
「ぱーてぃ、というものでしょうか? 実は私も、少し興味があったのです。大所帯で移動するのも大変でしたし、私は千彩さんに賛成です」
「おや、古瀬さんが賛成なのはちょっと以外だなぁ。お淑やかだし、安全な攻略したいと思ってたよ」
「あっさ。ケイジ、それ偏見でしかないじゃん。こっひはそんな弱い子じゃありません~」
「はは、確かにそうだね。ごめんよ古瀬さん」
「いえいえ~。ですが、舞に限らず、伝統を担う家の人間は意外と苛烈なのですよ~」
「はいはい、それは置いといて。で、どうよパーティ? てか、こんな大所帯で攻略なんて強くなれるもんもなれないっしょ?」
「まあ、人数がいるだけで難易度は下がるだろうねぇ……マニはどう思う?」
「難しい問題だな。男女差別する訳じゃないけど、ああいうダンジョンってのは女が襲われやすい。だからって男女混合のパーティだと今までなかったいざこざが起こるだろうしさ。俺としては今のまま、大所帯で攻略してチマチマ強くなった方がいいと思うかなぁ」
「ふむふむ……そういう問題もあるのですね。興味本位とはいえ、軽率な考えでした……」
「いやいや、そう落ち込む事じゃないって! にしても、ひららちゃんって意外とアクティブなんだね~」
三谷真二。場の盛り上げ役としてボケをかましたり浮かれたことを言う反面、この世界での状況認識や知識、思考は目を見張るモノがある。この世界に来て、飛躍的に評価が上がった人物の1人だ。
俺や褥、黒木さんや紅谷のように、物静かでロクに戦闘にも参加しない奴らとは正反対だ。なんというか、モチベーションが高いんだよな。
こうして、皆がパーティを作って数組に別れる流れになっていた中で、冷静に問題点を挙げられるのも、さっき言った状況認識力の高さによるものだろう。
しかし、マニの冷静なコメントでも、場の流れを止めきることは出来なかった。ダンジョン攻略がトントン拍子で進んだせいか、ロクに怪我人すら出さずに魔物を倒してこられたせいか。
マニ以外の面々は、口にこそ出さなかったが「まあ、なんとかなるでしょ」というような雰囲気を出し、パーティに別れ少人数でダンジョンに挑むことが決定したのだった。
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ようやく、「こっひ」の名前が出せました。古瀬ひららさんです。クラスメイト全員分あだ名まで考えてあるのですが、発言の多い千彩や真二の使う呼び方ばかりになってしまうんですよね。
章が始まる前に紹介パート書いとけば良かったなぁ……
そういえば、全キャラ誕生日はまだ考えてないです。異世界組はやってたけど、クラスメイトは身長や胸の大きさ、髪型髪色も考えてないですね……考えること多すぎる。大変だ。




