085 勝・捜索
~クラスメイトSide~
「……よし。ボス部屋と奥の宝部屋も記入してマッピングも完了したな。これで完全攻略だ! うおおおおお! やっとだぜ!!!」
「最下級のダンジョンとはいえ、やっぱり自力だけでクリアすると気持ちいいもんだな!」
「長かったわ……もっとポンポンスキルくれればもっと早くいけたのに」
「アホ、買い与えられたスキルで攻略って、それ自力じゃねぇだろ。いや、今回もそうだけどさ」
「前にも言われたじゃん、その考えは硬すぎだって。スキルを使いこなすのも育てるのも、その人次第だからいいんだよ!」
「全部そのまま受け売りじゃねーか。もうちょっとなんか考えなよ、マニ」
初めてダンジョンを攻略できた喜びに湧く大多数のそばで、別の内容に花を咲かせる人もいた。
「やっぱり、千彩のオリジンって反則だよねぇ……私も同じのが欲しかった!」
「ハハ、あんがと。でも、みんなの分もメイクしたげるの大変なんだからね?」
「そっちもだけど……私が言ってるのは、汗とか水でメイクが崩れないって方だよ!!羨ましすぎるよ!!!」
「アハハ……いや、それはホントにそうだわ。てか、これが無かったパターンとか想像もしたくないかも。怖くて」
「ウチらはその怖い状況なんですけど! うっっすいメイクしかできないのツラい! 学校じゃメイク禁止だからあっちの方がキツそうに思えるけど、中途半端にできる分こっちの方がつらいよ!」
「ちょ、ここみ近いって! やマジでゴメンって!」
やはり、女子と男子では多少なりと温度差があるようだ。男子に混じって喜んでいる女子もいるが、それは少数だ。達成感は確かにあれど、ハイタッチする程恥を捨ててはいなかった。
「あれれ、るこちゃんあんま喜んでない感じ? 」
「いえ。血まみれに慣れている状況が今更ながらおかしいと思っただけよ。嬉しさはあるけれど、ね」
「あは、変なの~! そんなこと気にするの、カノちゃんとしの先生くらいだと思ってたよ!」
「それは同感だけれど。私が言っているのは違和感の話よ。いくら「余り物」クラスだからって、動物を殺すことにここまで躊躇いが無いのはおかしくないかしら?」
「……るこちゃん、ホントに周りみてないんだね~。そんなくだらないこと、気にするようなマトモな人ほとんどいないよ~。だからみんなカノちゃんを避けるの。あの子はマトモだから。だからみんなしの先生と一線引いてるの。あの人は常人だから。……喋りすぎたね、また後で話そ?」
「……そうね。同じ部屋なのだし、いくらでも話す時間はあるでしょう」
我がルームメイト──滝田依鶴が諭すように言った言葉は、私の理解の範疇に無かった。私は周りをよく観察する方だし、カノと呼ばれる女子生徒やしの先生と他の生徒に溝ができている様子は無かった。
理解できない。その感情は、時に恐怖を煽り、時に攻撃的な感情を呼び起こす。嫌な感じだ。やはり、彼女──滝田依鶴は、嫌いだ。
私は、勝利に沸くクラスメイト達を後目に、一足先に拠点へ戻り始めた。
༅
「初めてのダンジョン完全攻略を祝してーっ!!! カンパーーーイ!!!」
食堂から、マニの乾杯の音頭が聞こえてくる。呑気な声だが、地球に戻りたいという悲壮感を隠した空元気にも思える。まあ、アイツのことならただ呑気なだけだろう。何も考えて無さそうだしな。
夕暮れに染まった空が、祝杯の始まりがいつもの食事時間より早めだと教えてくれる。あいつら、料理人や他の使用人達を酷使しすぎじゃないか? 国の偉い人間にでもなったつもりか?
「褥、どうだ」
「白兄、こっちっぽいよ」
「わかった。行こう」
褥が【縁魔の慧眼】で目標の場所を調べてくれる。間接的な捜索は確実性が低いから、眼が悪い俺より褥が適任だ。
捜索の目標は、①地球へ帰還する方法、②この世界に飛ばされた理由(召喚者がいるならそいつの詳細)③ここの国王の元にいて本当に安全なのか、の3つだ。
この世界に来てそれなりに時間が経ち、俺たちも相応の力は得た。そろそろ動いても問題ないはずだ。いや、動くのが遅すぎるくらいだろうな。
正直地球に戻ってもいい事なんてないが、それはそれ。帰る手段を確保しておくことは大事だ。
祝杯と称してクラスメイト達が騒いでいるのは、こちらで勝手に動くには丁度いい隠れ蓑だった。
……この世界は正直、地球よりも居心地が凄くいい。俺たち兄妹の白髪赤目もそこまでおかしなものではなく、【縁魔の慧眼】を使っても罪悪感や違和感がない。
向こうの世界で異物だった俺たちは、こちらの世界では一般人の範疇だったのだ。居心地が悪いはずもない。
そんな考え事をしていると、先行して道案内を務めていた褥が立ち止まり、こちらにも止まるようにアイコンタクトしてくる。人の気配がしたのだろう。
保険として『隠蔽』を発動するが、音を鳴らしては意味がない。慎重に身を隠した。
気配が消えたのだろう、すぐに移動が再開される。そして、間もなく目的地についたようだ。褥が部屋の前で足を止めた。
アイコンタクトで、中に人の気配が無いと教えられた。突然扉を開けるモーションをして、俺が心配しないようにわざわざ教えてくれたのだろう。
褥と共に鉄の扉を押して開ける。思い扉を開けると、中は書庫のようになっていた。書庫といっても、中には本棚が3つあるだけで、図書館にしては大きさがないというだけだ。いっちょ前に、図書館とか本屋独特の本の匂いはしてるけどな。
「こんなボロい書庫に情報が……?」
「ぽい。でも、ここにあるのは帰る方法だけっぽい」
「帰る方法はあるのか。国王は知ってて言わなかったって訳だ。黒いなぁ」
「ね。あと、他のふたつは全然見えなかったからどうしようもないかも」
「へぇ? てことは、召喚者はあの神で、召喚目的を知ってる人がこの世界にはいないってことかもな」
「だね。ちょっとめんどいかも。呼ばれた理由があるかもって気にし続けて過ごすのはダルそう」
本棚から適当に取った本を物色しながら褥と会話する。日本語で書かれているので、読むのには問題なかった。
「こっちの棚には無さそうだ。そっちはどう?」
「わかんない。背表紙に何も書いてないのめんどすぎ」
「仕方ないよ~、書かなくても分かるんだから仕方ないんだ。読むのはボクくらいしかいないしね~」
「「ッ!?」」
気配は無かったはずなのに、会話に誰かが混ざってきた。周囲を見回すが、誰もいない。いつの間にか俺の後ろに隠れている褥に目をやると、首を横に振った。どうやら、気配も無いままらしい。
「……何者だ。幽霊か?」
「違うよ~、そんな世界にしがみつく事しかできない奴らと一緒にしないでくれ違うんだ。ボクは妖精だよ~」
「妖精? 」
「そうだよ~、ボクは“書庫”の妖精ピュレニアなんだそうなんだ。だからそう警戒しなくていいよ~」
妖精。聞いたことはあるが、詳しくは知らないな。ファンタジーにたまに出てくる、羽の付いたちっこいの。それが、俺の知ってる妖精の全てだ。
「……で? 何の用だ」
「簡単だよ~、久しぶりにボクの書庫に入った子がいたんだもの簡単なんだ。少し話してみたくなっただけだよ~」
ボクの書庫、とはどういう意味だろうな。よく分からない。分からないモノに安易に触れるのは危険だ。すぐに立ち去るのが吉だろう。
褥にアイコンタクトで外に出ることを伝える。アイコンタクトでここまで意思疎通できるのは、やっぱり双子兄妹だからなんだろうな。ともかく俺は、褥が小さく頷いたのを見て、すぐに動きはじめた。といっても、攻撃を警戒しながら外へまっすぐ走るだけだ。
「あれ……もう出ちゃうの? 残念だなあ148年ぶりなのにもっと話したかったのにもう出ちゃうのか、でもいつでも待ってるからまた遊びに来てよ。姿は仲良くなるまで見せたくないけどさ……」
鉄の扉を閉めると妖精の声は聞こえなくなった。目的の情報は得られなかったが、在処がわかっただけでも十分、ということにしておこう。
捜索目標に、妖精の対処についての情報も加えておこうかな。とりあえず今日はこれぐらいにしておくか。
俺たちは、握っていた手を離してクラスメイト達の元へ歩き始めた。気付けば、外はもう真っ暗になっていた。煌めく星がうっとおしく感じる空から目を離し、視線を褥に移す。
褥は、この世界に来てから機嫌が良い日が多い。それは、俺としてもありがたいことだった。
手を伸ばし、頭を撫でる。サラサラした髪の感触は手に心地いい。が、その手はあえなく叩き落とされてしまった。
「……兄。そういうのは後にして」
「……すまん」
……双子であっても、女心は難しいようだ。
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後半は、幽崎褥、幽崎白夜の双子兄妹回でした。クラスメイトはトントン拍子でダンジョンクリアして調子に乗ってるけどその輪に入ってない人もいるよ、というだけでも伝われば幸いです。




