084 冤罪・囚
~黒野祐里side~
「はよーす」
「おはようございます、ユーリさん」
「あ、ユーリくん。おはようです」
「あれ、フロースメガネ変えてるじゃん。新しいのも似合ってんねー」
「そうでしょうそうでしょう。なにせ、父さんの手作りですからね!とは言っても、レンズの部分は他の方なんですけど……」
「へぇ! そりゃすごいな。あ、家族の話で思い出したけど、そういや学年対抗戦の時にお呼ばれしてたよな」
「ああ、そんなこともありましたね。でも、大丈夫ですよ。赤い変異種の情報で男爵が関わってるから気を付けた方がいい、って言うつもりだったみたいです。今はもう某男爵が犯人だって公表されてますからね~」
「なるほどね、そりゃタイミングが悪かったな。遅くなったけどお礼言っといてくれる?」
「了解です~」
学年対抗戦から早数週間。最初は敬語をかたくなに辞めなかったフロースも、俺がSランク冒険者だと知って逆に打ち解けてくれた。本人は「1周回って実感が死滅しました」と言っていたが、よく分からん。
そして、何故か知らないがこの学院──エリゼ魔道学院に途中入学してきた奴がいた。それも、誰もが知ってるような超有名人で……
「ユーリ様! おはようございます!」
「アンナ。今日は早かったな、おはよ」
「いつもいつも遅刻ギリギリではいけないと、なんとかメイドさんを説得してメイクを80%で仕上げてもらいました! 今日から遅刻とはおさらばです!」
「おお、それは良かった。遅刻ギリギリなのは見てて面白いけど、ちょっと胃が痛くなるからな」
「ウィズィ様、ラウル様、フロースも。おはようございます!」
「ええ、おはようございます」
「おはようございます、アンナ様。それと、私に敬語はやめてくださいと何度も……」
「あ、おはようございます、アンナちゃん」
「おい平民……私の挨拶を遮ったな? 身分の違いというものが分かっていないようだな……」
「ヒェッ!? わ、わざとじゃないんですぅぅう!!?」
なぜか、『未来視』の巫女であるアンナがこの学院の、高等部1年の、Sクラスに、入ってきたのだ。唐突に。ウィズィも珍しく驚いていたので、異常事態なのは間違いないだろう。いやホントに、訳分からん。
「相変わらずだな、フロースとラウルも」
「フロースさん、ゲームと授業以外では結構抜けてますからね……ラウルとは相性が悪いんですよ」
「確かにな、そんな感じするわ」
ラウルとは。メレディ伯爵家のご令嬢である。……この説明じゃ、誰も分からないか。こいつは、最初の頃俺とウィズィが話していると身分がどーだ貴族があーだと説教しようとしてきた奴である。
そいつがなんで俺たちといつも一緒に動いてるんだ。もうマジで何ひとつ理解できない。
「……あれ、今日って朝イチなんだったっけ?」
「〈魔力刻印基礎〉ですよ、ユーリさん。なんでいつもなんの授業があるか忘れてるのに、二限からの日も遅刻しないんでしょうか?」
「ああ、それはオカンの力だな」
「オカン……? ああ、ルチルさんですか。納得です」
「フロース……お前色々と容赦なくなったな」
「何言ってるんです? 私、いつもこんな感じですよ? それに、ちゃんとルチルさんは尊敬してるんですから」
「ああ、そう……ルチルはね……」
「落ち込む必要はありませんよ、ユーリさん! 大丈夫です! 尊敬ならその分私がしてますから! 誰も尊敬してなくても問題ありません!」
「アンナ……お前の優しさが今日は痛いよ……」
「ええ!? そんな!?」
今となっては、このカオスな状況が「日常」だ。いや、更にここからアンナ親衛隊に突撃されたり、決闘を申し込まれたり、嫌がらせされたり、ということも有り得る。そう、まだまだカオスのポテンシャルがあるのだ。恐ろしいことこの上ない。
だが、そんなカオスでも心地よかった。今どこで何をやっているのか、生きているのかも分からないクラスメイト達といた時を思い出す。あの心地よさと似ている、と。それも当然だろう。あの教室も、この教室も、確かに俺の「居場所」だった。
そこに居たいと思ってしまった。
だから、だろうか。
「冒険者ユーリ。貴様に貴族及び一般国民殺人の容疑、またそれとは別に、冒険者ランク偽装とそれを利用したいくつかの容疑がかかっている。付いてきてもらおう」
前の俺なら選んでいたであろう「即交戦」の選択肢は、選ぶことができなかった。
突然現れ、そう宣言したローブに身を包んだ集団は、逃がさないためか俺を包囲し、ウィズィ達を強引に下がらせた。
『天眼』付きの『鑑定』で覗いたステータスは、C級冒険者程度のもの。手練ではあるが、常人の範囲内だった。装備も常識の範囲内、戦えば普通に勝てるだろうな。
「そんな筈はありません! 証拠はどうなっているんです! 待ちなさい、国の恩人に対して何たる対応ですか! 控えなさい!」
「ユーリさんっ! ぐっ!? ちょっと、放して! 待って!!!ユーリさぁぁぁああんっ!!!」
「議会の所属か? だからといってもっと……こう、やり方があっただろう!?」
みんなの声が後ろから聞こえる。あの基本冷静なウィズィとラウルまで声を荒らげて、何を心配しているのだろう。いつも明るいアンナまで、そんなに必死になっちゃって。
……アンナの『未来視』は最低でも1ヶ月の間を空けないと再び未来を見ることができないらしい。ランダム性が強くてその辺も曖昧らしいけど、そうらしいのだ。だから、この騒動で俺が生きることは保証されていない。
でも、危険度でいえば、あの日あの時の王城の方が何百倍も高いだろうな。震舌や、アイツと一緒にいた……ナントカって女くらいの強者がそうそういるはずも無い。
俺の心持ちとしても、何も力を持っていなかった頃の一角兎のほうが死ぬ確率は高かったはずだから大丈夫だろという気持ちが大きい。
「ま、ちょっと待っててくれよ、お前ら。議会だかなんだかしらんが、ジジイのハゲを加速させてくるからさ」
冤罪をかけて白昼堂々と、しかも国直属の管轄下なエリゼ魔道学院の敷地内で連行できている。間違いなく、相手の権力は強大だ。戦力もそれなりだと予想される。クレイを作ったところらしいしな。
ウィズィだけならまだしも、フロース達やその家族にまで迷惑はかけられん。理不尽を受けるのは俺一人で十分だ。
やるとしても俺とルチルの2人で、だ。ルチルが何か目的を持っている以上、助けに来る確率は高い。周りを巻き込まないことを祈ろう。
༅
ガチャン、と牢の扉が閉まる音がした。暗すぎて、本当に閉まったかどうかも分からないけど。
すると、時間を空けずに暗闇から声が聞こえてかた。魔力は……感じない。『魔力察知』にかからないんじゃなくて、これは……
「ふん。こんな小僧にいいように言いくるめられたか。耄碌したな、ブランも。国王を交代するよう圧をかけるか?」
「よせよせ、それで扱いづらい駒が頭になったらどうするのだ。準備もロクにしておらんのにそんなことできるか」
「何はともあれ、この小僧の処理からじゃ。……先に言っておくが、その牢はスキルの発動を阻害する。脱出できると思わんことじゃな。逃げようとしたお主に処罰を与える、なんて無駄な時間はゴメンじゃわい」
「カカ、その通りじゃな。女子でもない者の苦しむ姿なんぞ、何の興味も意味もない」
「相変わらずじゃの、お前は。まったくいつまでサカっておるのか……」
何も分からない闇の中での戦いが、始まる。
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2つ(?)同時進行とかめっちゃ難しそうだし結末を上手く合わせるのも死ぬほど大変そうだけど頑張ります……
なるべく分かりやすいようにしたい所存。
儚い日常パートだったなぁ……




