083 転移・話
「みんな、ちょっと聞いてくれる? 一旦食事の手は止めてちょうだい」
「……しの先生?」
食べきれない量の料理を目の前に、食事もそろそろ終わりにしようかという雰囲気になった頃。しの先生が立ち上がって手を叩き、唐突に話し始めた。相変わらず切羽詰まった表情だ。
「……みんなも同じだと思うけど、正直私も現状を理解できてないの。いえ、あの白い空間からここに来るまで、理解できたことなんて一つもなかった。でも、私はあなた達を預かる教師として行動を起こさないと。だから、まずは情報の共有と整理から行いましょう」
「……俺はしのちゃんセンセーに賛成だぜ! よし、俺が仕切ってやろうじゃねぇか!」
「引っ込んでろマニ! お前はお呼びじゃねぇんだよ!」
「そーだそーだ! 野郎はすっこんでろ!」
「しのちゃんセンセーが好きなのは分かるけどちょっと酷くないか!?」
とぼけた調子の男子が登場したことによって、空気が少し軽くなる。しの先生の表情も、多少は柔らかくなった。
「そーは言ってもねぇ……アタシ、ずっとドッキリだと思ってたから白い部屋でジジイが喋ってたの全部聞き流してたんだよね。てか、誰かマジメに聞いた奴いんの?」
「お恥ずかしながら、私も千彩さんに同じです。私はてっきり、夢か何かだと……」
「ほら、あのマジメなこっひですらこうなんだよ? ……で、男子はどうなん?」
「いやぁ……お恥ずかしながら、異世界転移キタコレと思ってめちゃくちゃマジメに聞いてたんだなぁこれが」
「え、マニ? 授業中いっつも寝てるアンタがぁ? ……ってか、イセカイテンイ? って何?」
「はっはっは! オタクと呼ばれる未来に恐れず、この俺が教授してやろうじゃねぇか!」
「うっせぇぞマニ! 大人しくさっさと教えろ!」
「野次がうるさいのは英雄の定め……という訳で、まずは異世界という言葉から教えるけど──」
そんなやり取りをして、マニと呼ばれる男子が説明し始めた。しかしその内容は、みんなにとっては理解に時間がかかるものだったらしい。
男子は、「ちょっと違うけどゲームの世界に入ったようなもんだ」という言葉で理解を示していたが、女子の大部分はそうもいかなかった。私も、黒野祐里から話を聞いていなければそうだったでしょうね。
「そんで、えっと……スキル? ってのがウチらにもあるってこと?」
「ま、それがよくあるパターンって奴だな。ああ、そういやステータスとか無いのかな。テンプレだと……いや、ステータスの有無は五分五分か。ステータスが有ると無双パターンの確率高そうだしそっちがいいんだけど……」
マニと呼ばれた男子は、説明しながら時々思考に没頭することがあった。まあ、私達には理解できない内容だろうから気になりもしないので別にいいんだけれど。
そんな風に彼の独り言を流していたら、突然マニが叫びはじめた。
「ステータスオープン! うーん、ダメか。じゃあ、ステータス! ……オープンマイステータス! 開けゴマ! いでよ我がステータス! ……ダメなのか。やっぱステータスないパターンかな。でも、スキルがあるのは確定してるよな、神が言ったんだから。となると、ステータスはあるけどスキルがないと見れない可能性も……」
「ちょっと、ねぇ、ちょっと! 聞こえないの!?」
「んぬぉ!? ああ、すまんすまん! ちょっと気になることがあってな。……でも、ちょっと今は分かんなかったよ」
「……? よく分からんないけど、分かんないなら聞きゃいいじゃん。あの兵士さん部屋の前にいるんでしょ?」
「おお、それもそうだな!」
天啓得たり、という顔で席を立ったマニは、そのまま意気揚々と扉へ駆け寄る。そしてその勢いのまま、兵士を質問攻めにしだしたようだ。
扉越しで内容は聞こえなかったが、マニがすぐに戻ってきて教えてくれた。それも、満面の笑みで。
「やったぞお前ら! 勝ち確定だ! 俺たちの未来は輝かしい!!」
「なに訳のわかんねぇこと言ってんだ。そんで、何が分かったんだ?」
「そうだな、うん、要点をまとめると、俺たちはあの神様からさっき言った〈スキル〉ってやつを貰ってたっぽいんだ! そんで、その中に自分の状態を確認できる『鑑定』っていう力もあったんだ! お前らも使って見ればわかる、声に出せば使えるみたいだぞ!」
「へぇ……? それがあれば女子のスリーカップ覗き放題ってこと? 『鑑定』」
「うっわケイジまじサイテー!!!」
「ふむ……? ほう、なるほど? STRとかはないけどHPとMPはあるのか。中途半端というかなんというか……そういうゲームもあるけど、スキルでこんなに枠取るんならもっとあっていいと思うんだけど」
ケイジと呼ばれた男(いちいち面倒だし心の中だから次から省略するわね)の呟きで興味をかきたてられたのか、半信半疑で恥ずかしがっていた男子生徒達が一斉に試し始めた。そして、その様子を見て女子も少しずつ真似し始める。
途中で、「自分の手を見ながら『鑑定』すれば自分も見れるぞ」というアドバイスが男子から上がり、私もそれを試してみることにした。
「……『鑑定』」
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〜ステータス〜
名前:黒木瑠子
性別:女
年齢:16
種族:ヒューマン
職業:学生
レベル:1
HP:15/15
MP:5/5
・ベーススキル[P]
無し
・ベーススキル[A]
無し
・ギフトスキル[P]
『知識庫』
・ギフトスキル[A]
『鑑定』
・オリジンスキル[P]
無し
・オリジンスキル[A]
『睡眠』
称号
『異世界人』
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さっきマニが言ったことが本当なら、この「ギフトスキル」というのが神からもらった力──スキルなんだろう。そういえば、神もスキルに種類があるとも言っていたような気がする。
……ベースは基本、ギフトは贈与物なのはわかるけど。オリジンは……確か原点? いえ、原因だったかしら。じゃあ、オリジンスキルはスキルの原点……? よく分からないわね。
「ねぇ……マニくん? オリジンスキルってところに何か書いてるんだけど、何か分かる?」
「ええ? ホントに? 俺のステータスには無しって書いてるけど……黒木さん、ステータスを見ても?」
「いいわよ」
「じゃあ、遠慮なく。『鑑定』……ホントだ、スキルが書いてるね。うーん、これは……素質かなぁ? 異世界転移は、さっきも言った通り〈勇者〉っていう強力な力を得る人がいるんだけど、それ以外の巻き込まれた人が強い力を持ってるってのもあるあるなんだよ。だから、それかもしれない。それか、黒木さんが勇者かのどっちかだ。」
「勇者ぁ? そりゃいよいよゲームっぽくていいな!」
「……誰か、他にオリジンスキルってのを持ってる人いないかー? スキルの名前は絶対に言うなよ? 何があるか分かんないし。あと、あんまり他の人のステータスは覗かない方がいい。マジで。」
「あ、私もなんか書いてあるよー?」
「俺もあるな」
「私も、持っているようです」
「半分って程じゃないけど結構いるな。てことは、お前らは多分素質ある感じだと思う。んで、今は何も無い奴が後から覚醒して見返すってのがテンプレって奴だな~」
滔々と予測を語るマニ。地球ではここまで存在感を感じなかったから、逆に不自然に感じてしまう。
それだけじゃない。スキルの名前を伏せるように指示するあたり、かなり正しく現状を理解していて、それなりに頭も良さそうなのに。もっと情報を隠せば、自分が優位に立てる可能性も理解していたはずなのに。それを迷わず放棄するなんてね。
ただの「良い人」か、ただのバカか、狡猾かの3択かしら。
心の内で言いようのない気持ちが膨れ上がり、思わず彼に声をかけてしまう。
「ねぇ、マニ……くん? 貴方、本名はなんだったかしら?」
「ええ? クラス決まった時挨拶したのに……まいっか! 俺は三谷真二! みんなの頼れるムードメーカーさ!」
「……そう。覚えておくわ」
──要注意人物としてね。
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次話、主人公が出てきます。
〇クラスメイト公開済み情報
千彩……ギャルっぽい女子。意外とほかの女子とは仲が良い。
蛍……現段階では千彩を宥めた一言のみの出演。喋り方は、シロやアンティと似たポツポツ淡々タイプ。
黒木瑠子……視点の主。ユーリと少しだけ話した仲。あまり喋るタイプではないが、その分思考は巡らせる。気になったことも割と躊躇なく聞く。第1オリジンは『睡眠』。
こっひ……おしとやかで口調が柔らかい女子。周りからの評価は「可憐で儚く可愛い真面目さん」。
三谷真二……マニと呼ばれる陽気な男子。オタク知識あり。
ケイジ……セクハラ発言をした男子。
紅谷……不良。神・天使・国王・兵士、誰であっても噛み付く。でも、意外と空気が読めるので国王にはあまり噛みつかなかった。他のクラスメイトとは基本喋らない。
ガヤ……マニには容赦がない。「野郎はすっこんでろ」といったのは、ちょっとふざけて口調を変えたケイジ。
「合格者」の皆さん……どこにいるか分からない。
長いですね。覚えるの大変だと思うので、前書きに軽い主要人物紹介は付けようと思います。




