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008 鮭

前話のステータス書き直しました

 じゃん。これが今日の朝ごはん、さけのおにぎりだ。水は昨日生み出したのがまだ残ってるからそれを。だが、体を拭いたりトイレの処理に使ったりしたからこれでこの水は終わりだな。


 異世界感のない食事だ……でも美味しいからオールオッケー。でも、木の上で寝たから背中が痛いのがマイナスポイント。減点です。


 ペットボトルの処理はどうしようか、とすこし迷う。そして、疑問が浮かんでくる。


(これ俺の魔力でできてんだよな?消せないのかな)


「『鑑定』…おお、いけるのか」


  『鑑定』すると、是と返ってきたのですぐに実行する。魔力の消費もなく、念じるだけで消すことが出来た。


(なんていうか……食事より異世界感じるのがペットボトルって……なんだかなあ……)


  『知識庫』によれば、この世界の食料自体は、地球と同じものが揃ってるらしい。もちろんというか、食品改良されていないために質で大きく劣るものもあるようだ。しかしその分、魔物から採れる肉などを使った料理が多く、しかもそれが美味しいらしい。

 ちゃんと異世界は異世界らしい食事文化を持っているんだな。安心したよ。ぜひとも食べたいところだ。


 ……だがしかし。今の俺にとっては人里に出ることすらままならない。ということで。


「『魔力創造主(マジックメイカー)』×2!」


 創り出したのは、穂先が鉄の槍、そして小さな鉄球だ。この2つは今のなけなしの魔力で作った貴重な武器だ。大事に使おう。


(靴は少し汚れてるけど問題なし、MPはないけど問題なし、さて……)



(森抜けのお時間だこんちくしょう!)



 ──〇──〇──〇──〇──〇──〇──〇──



 なぜ急に祐里が森を抜けようとしているのか。その答えは、昨日の深夜にあった。


 初めは普通に寝れていたのだ。しかし、不意に感じた顔の上の痒みのような違和感で、突然目が覚めた。ほぼ無意識で動いた右手が、その違和感の正体をつかむ。……赤いムカデだった。

 その形を認識したその刹那、ほぼ反射で遠くに投げ捨てた。そして、叫び声をあげるその瞬間、こちらを見上げる二つの赤い眼に気付く。驚きと咄嗟の警戒とで、ムカデを投げた姿勢のまま、動きを止める。


 謎の威圧感と、数メートルの距離があるはずなのに漂ってくる獣くさい匂い。それらの主は、どう考えても赤い眼の持ち主と同一だった。



 バクバクと、自分の心臓が煩く鳴っている。そんな音、赤い眼の持ち主に届くはずがないと分かっているのに、赤い眼の持ち主の正体すら分からないのに、強く、強く祈る。


 何分経ったか、何かのアクションを起こすべきかと祐里が迷い始めたその時、木々の間から突然光が刺しこんだ。それはこの世界の月の光。年に一度、何故か赤く光るという特性を持つ特殊な恒星のひとつ。その光で、こちらを見ている者の正体があらわになる。



 虎だ。青白い月光が、その顔を映し出す。照らされているのは顔だけだが、それだけでも十分に全体の大きさを察せられる。5メートルじゃあ収まらないほどの大きさだろう。


 この大きさの虎なら、今俺がいる枝の高さ程度軽いジャンプで届きそうなものだ。

 いつ死んでもおかしくない。なぜ俺はまだ生きられているのか。そんな思考が祐里の頭をよぎり、今更のように濃密な死の気配を感じた。

 彼の人生において幾度目かの死の気配は。だからこそ、より強く、生存本能を揺さぶった。


 生きたい、と。今までの祐里とは正反対のそんな思いが心を占めていく。


 その時、突然強風が彼の顔を打ちつけた。


 思わず目をつぶる。腕で目を庇いたいが、虎の顔が脳裏に浮かび、なぜか結局、動かすことができない。


 そして、目を開くと。


 ……虎の影はもう、知覚できる範囲にはなくなっていた。




 《オリジンスキル『四季風』が解放されました。》


 ──〇──〇──〇──〇──〇──〇──〇──



 ただただ、この森からさっさと逃げることだけを心に決めた。あんなバケモンのいるところには誰だって長居したくないだろう。



 あの時、突然脳内に流れた声。あいつが言っていた、解放されたオリジンスキル『四季風』は、ステータスにもしっかり表記されていた。



 ──────────────────


 ○status


(前略)


 ・オリジンスキル

【四季風】四季にまつわる風がスキルとして昇華されたもの。MPを消費せず、大気魔力を使用する。


 ◎春・・・『春風』『春一番』『鹿の角落とし』『春疾風(はるはやて)

 ◎夏・・・『夏風』『神立(かんだち)』『やませ』『温風』『涼風(すずかぜ)

 ◎秋・・・『秋風』『初嵐』『野分(のわき)』『やまじ』

 ◎冬・・・『冬風』『木枯らし』『居吹(いぶき)』『神達風(かみたちかぜ)


 ──────────────────


 アホだ。どう考えてもアホ。何回見直してもアホ。1つのスキルではあるが、その実16のスキルを内包している。お徳用パックかよ。というかこんなに多いと迷って逆に使いにくいだろ。

 あとなんか効果が妙に俺の好み突いてきてるのもなんか腹立つ。



 ちなみに、その鑑定結果は以下の通りだ。


 ○春

『春風』・・・穏やかで温かい風。

『春一番』・・・春の強い風。

『鹿の角落とし』・・・強い風。使用条件:晴天

『春疾風』・・・非常に強い風。

 ○夏

『夏風』・・・穏やかな潮風。

『神立』・・・夏の強い風。

『やませ』・・・強い風。使用条件:山を背にする

『涼風』・・・涼しい風。

 ○秋

『秋風』・・・穏やかで爽やかな風。

『初嵐』・・・秋の強い風。

『野分』・・・暴風。使用条件:一定以上の植物の存在

『やまじ』・・・局所的な強風。

 ○冬

『冬風』・・・穏やかな寒風。

『木枯らし』・・・冬の強い風。

『居吹』・・・一定時間吹き続ける強風。最短で3日。

『神立風』・・・非常に強い風。


 16回、わざわざ『鑑定』って発声したんだぜ。めんどくさいことこの上なかった。いつになったら略せるようになるんだろう。一応、暇さえあれば周りのもの全てに『鑑定』かけてはいるんだけど。


 ま、それは置いといて。明らかに戦闘用じゃないスキルが混ざっている。各季節の名を冠する『○風』スキルがそうだ。存在意義ェ……

 しかし、特に俺好みなのがこの『〇風』シリーズだ。好きな時に好きな季節の風を吹かせられるって?最高すぎませんかねそれ。存在意義は俺が作った。


 効果の説明が被ってるスキルもあるな。ただこれは、気軽に効果を試せないような説明だから当分はお預けだ。

 風が強すぎて辺り一面平地になったりしたら……散策は楽になるかもしれないが、魔力に釣られてどんな魔物が出てきてもおかしくないからな。あの虎みたいなのはさすがにそうそう出てこないと思うけど。


 そして最後の気になる点。MPは消費しないけど魔力を消費するってところだ。一旦解決ってことにしといた疑問がまた表れてしまった。

 だが……そう。俺には鑑定様が付いている。あの時は思い付かなかったが、鑑定すればいいだけだ。


「『鑑定』!」



 〇魔力・・・空気中に漂っている、特殊な、力の源。体内を介さず、直接魔力を消費するのは、オリジンスキルと魔術のみである。大気魔力と分かりやすく表記する場合もある。



 〇MP・・・魔力を生物が体内に取り込み、自身の力としたもの。これを消費することでスキルや魔法を使用できる。



 なるほどなぁ。だからステータスの表記にはMPしか書いてなかったわけか。


 ……そして、だ。魔術と魔法、ですか。また新しいの出てきたねぇ。


「……『鑑定』」




 〇魔術・・・特定の行動や事物を介し、魔力を消費することで、過去の伝説、伝承、神話などを再現する。



 〇魔法・・・MPを消費し、様々な現象を起こす。スキルの一種ではあるが、中でも特殊なもの。




 んん?魔法も魔術もいまいち分かんねぇな…

 特定の行動や事物を介しってのはどういうことだろう……

 あ、そうだ。知りたいことを意識して『鑑定』すれば分かるんだっけ? 魔術の方に意識を集中して……


「『鑑定』」


 ──────────────────


 魔術一例


「起源六書」水の章、水竜鎮事の記述を元に施行


 記述一部抜粋:「水竜の怒りを鎮めるため、贄として巫女を捧ぐ。其は雨天、水の月にて水の日。竜の属する"水"の重なりし刻、贄は天へ導かれん。」


 施行詳細:水の月、水の日、そして雨天という条件が重なった日に、贄としてとある村の巫女を捕え、使用。その村は、起源六書の当該部分を引用した「水竜祭」を毎年水の月、水の日に行っており、当日、祭事を執り行った一人がその巫女である。

 場を整えたことで、逆説的に竜の存在を証明し、魔力を消費して水竜が顕現した。ただし、再現に「水の刻」という条件を使用したため、水竜は4時間弱の経過をもって消滅。死者約150人に留まった。


 ──────────────────


 ……えぇ。いや。うん。やり方はだいたい分かったけどさぁ。なんでこんな重い内容なん……

 これ、魔術は禁止されてるとか普通に有り得そうだよなぁ。神話とか伝説の再現って……どれも大規模になりそうだしなぁ……


「はぁ……」


 思わずため息が漏れる。せっかく異世界に来たんだし魔法とか魔術使いたいよなぁ……


 よし、とりあえず、森を抜けてからは魔法を使えるようになることを目標にしようかな。んで、大丈夫そうだったら魔術にも手を出していく感じで。




 と。はい。以上の『鑑定』やら考察やらを終えた後、朝食を創造し終わったあたりで、冒頭に戻るわけだね。



 俺が武器に選んだのは槍と鉄球。


 まず鉄球。これは完全に投擲用だ。小学生の時にソフトボールをやっていたのもあって、投げるのは苦手じゃない。得意って程でもないけど、投擲だったら、『四季風』で多少は補正できるんじゃないか、と思ったわけだ。常に追い風を吹かせられるしな。

  ま、正直鉄球の投擲を風で補正とかほぼ無理だろって思ってるけど。


 次に穂先が鉄の槍。ほんとはボウガンみたいな飛び道具が良かったんだけど、あいにくと構造を知らないし弓だと当てられる気がしない。わりと消去法で選んだところがあるな。

 積極的な理由としては、一角兎をしとめるのに相性が良さそうってのがある。


 あとこれらは、割と構造が単純な上、鉄球は質が悪くてもなんら問題ないから『魔力創造主』との相性がいいはずなんだ。実際、2つ同時の創造に成功してるしな。





 ……準備ができた。





 行こうか。



 《スキル『マルチタスク』を獲得しました》

虎かわいい。

でも虎ちゃんはペット枠には来ないんだなぁ(盛大なネタバレ)(今のところ)

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