閑話 世界を救おうとする一団は、スイーツの魔力に囚われる
「くっ……ここは?」
「シグ。やっと起きた」
「良かったですね。あと数秒遅ければ殴って起こすところでした」
俺が謎の苦痛と共に目を覚ますと、目の前にはアンティとリコリスがいた。少しだけ安堵するが、不可思議な状況がその安堵を押さえつけてくる。
「なんだ、ここ……?」
「分からない。でも、魔力はそこらじゅうから感じる」
「それに、武器もありませんね。非常に遺憾ですが、私は正直言ってお荷物でしょう」
「武器がない……マジじゃねぇか。俺の赤龍と青龍もない」
「私の杖もない。無くても変わらないけど」
2人の言葉に頭を抑えたくなるが、その前に状況確認だな。ゆっくりと辺りを見回す。そこには、ピンク、白、赤を基調とした謎の世界が広がっていた。道は薄いピンクで、道端には白い生クリームのようなもので装飾されている。
すこし遠いところに目を向ければ、ショートケーキのような物体が見える。しかし、あれがショートケーキだとは到底思うことができない。なぜなら……おおよその距離を考えて計算すれば、それが30メートル近い大きさをしていると分かるからだ。
「お菓子の世界へようこそ……ってか?」
「っ! シグ、その言葉は……」
「お店の看板に、書いてた言葉。……そういえば、お店に入った後、スイーツを食べてる途中から記憶がない」
「ああ……俺もだ」
「私もですね」
「となると……あの店の人間が犯人か」
「そんなこと、わざわざ言わなくても全員察してた」
「整理の為ですよ、アンティ。確かに無駄で意味の無いセリフでしたが、そう責めなくてもいいでしょう」
「そのセリフの方が傷付くんですけどねぇ!?」
2人とも、相変わらずだな。いつもと何も変わらない。武器が無くても、問題は無さそうだな。
「……んじゃ、とりあえずしばらく歩いてみるか」
「そうするしかない」
「遭難した時は無闇に動くのは禁物、という話も聞いたことがありますけど、確かあれは救助前提でした。それが最善でしょう」
「じゃあ、多数決。右に進むか左に進むか」
「右」
「右で」
「俺は左。よし、じゃあ右に行こう」
そうして歩き始めたが、やはり武器がないのは心もとない。作っておくか。
「『武器融合』……おい、チョコレートの枝と枝を融合したらパイの剣になったぞ! ペラペラだ、面白いな!」
「……うーん? どういった法則なんでしょう。いつもみたいに形や能力を引き継いでる感じじゃないみたいですね?」
「いや、いつもこんな感じだぞ。融合したらどうなるか分かんないし、剣と剣を混ぜて槍ができる時もある。まあ、そこまで変なのはめったにないけど」
「近くで武器にみたてられるのって枝くらい? まともな武器は無理かも」
「そうですね。まあ、無いよりはマシでしょう。剣の形をしていれば、私がなんとかできます」
リコリスはそう言うが、ちょっと難しいかもな。『武器融合』で得られた情報によると、この剣は……
「1回振ると崩れちまうみたいだ。お前でもちょっと厳しいかもな」
「……そうですね、刀だったら良かったんですが。1回で壊れてしまうのでは、一体しか倒せません」
「とにかく、俺も武器が欲しいし混ぜ続けてみるよ。もっといい剣か刀が出ればお前に回す」
「はい。とりあえず、その剣は預かりますね」
「ああ」
そうして、武器を作り続けながら歩き続けること約30分。ようやく、人の気配を感じた。どうやら、お菓子で装飾された家が集まった集落のようだ。
そして、そちらの方向から人の声が聞こえてくる。何か悪いことが起こっているようだ。
「タイミングが悪いな。この盾……〈オランジェットラウンド〉っていうらしいけど、2人は使うか?」
「いえ。私はこの〈ミルフィーユソード〉で十分です」
「私、オレンジ嫌い。いらない」
「そうか。じゃあ、俺が使うよ。行こう」
「うん」
「ええ」
装備の確認をして、すぐに声の方向へ走りだす。武器が十全じゃないからか、珍しくアンティが支援をかけてくれる。少し警戒しているようだ。
「『行こう、虹の向こうへ!』【赤】【黄】」
「助かります」
「悪いな。回復は必要ないくらいサクッと終わらせるよ」
「うん。まかせた」
すぐに、状況が見えてくる。ここまで1回も見なかった魔物が、人々を襲っているようだった。魔物も景色同様ピンクや赤を基調にしているが、景色とは違ってめちゃめちゃ気持ち悪い。
「リコリス、攻撃は任せるぞ!」
「了解です」
「私は襲われてる人を回復する」
「マーカーはあまり使いすぎるな、直接接触の【緑】だけにしておけ!」
「了解」
アンティと別れて、俺とリコリスは魔物の対処を始めた。リコリスは、『刀術』を極め、レベルmaxを超えてEXまで伸ばした天才剣士だ。今彼女が装備しているのは刀ではなく剣だが、彼女は『剣術』もレベルmaxの有力者だ。オリジンは刀関係だから、今は意味ないな。
俺が盾で魔物の攻撃を受け、逸らし、殴り飛ばし、リコリスが一瞬でとどめを刺す。俺の『盾術』のスキルレベルはそう高くないが、人々とアンティの方へ魔物が行かないようにするくらいは余裕でできる。
魔物を掃討するのは一瞬だった。いや、それは盛ったけど。すぐに終わった。
襲われていた人々に話を聞いてみると、どうやら近くに魔物の親玉が住み着き、それから怯えてロクに安心して寝られない日々が続いているらしい。
……俺たちと同じように、あの店でスイーツを嗜んでいた民間人かとも期待していたが、違うようだ。
「さてさて、この世界からでるヒントは何も得られず、か……」
「いっそ、ここに永住しますか? ここなら、世界の崩壊から逃れられるかもしれませんよ」
「冗談だろう? これが人為的なものである可能性が高い以上、世界が終わればここも終わるさ。この世界をそう長くもたせられるとも思えないし……なにより、それはフェノンへの裏切りだ」
「私もいや」
「ですね。言ってみただけです。ここで貴方が頷いていれば、後でフェノンにチクっていましたけど」
「さすがリコリス、賢い」
「汚いの間違いじゃないですかね!?」
と、ここの人達に通された民家(お菓子でできてる)でそんな詮無いことを話していると。突然、甲高い声が響き渡る。悲鳴だ。
魔物はさっき倒したのになぜ? という疑問が浮かぶ。俺とアンティ、リコリスは一瞬顔を見合せると、すぐに動き出した。
「何があった!?」
「あ、アイツです! あの魔物が……!」
「……展開もなにもあったもんじゃねぇな」
「先程の話に出てきた親玉でしょうね」
「やるか」
「了解です」
「『行こう、虹の向こうへ』【赤】【橙】【黄】【パーp」
「待てアンティ」
アンティが【紫】を使おうとしたので、慌てて止める。【紫】はデメリットのある能力だ。しかも永続の。こんな所で使うべきじゃない。
しかし、止められたアンティは不服そうだ。ジト目でこちらを睨んでいる。
「なんで止める。相手は結構強そう。安全策を取るべき」
「バカ。現実ですらないこんな世界で使うのは勿体ないだろうが。それに、俺とリコリスなら問題なく倒せる」
「シグが刀を作れていれば100%と言えるレベルです。今回は刀がないので、100%ですね」
「どっちにしろ100%じゃねぇか」
「当たり前です、私ですから」
「なんつー自信だよ」
リコリスと俺のやり取りになにか感じるところがあったのか、固かったアンティの表情がほぐれる。
ったく、何を心配してんだか。こっちは「いい気分転換にはなるか」くらいの気持ちでいるってのに。
「『武器融合』【分解】。〈ドゥーブルチャクラム〉×2。いくか」
「『投擲』メインで行くのは珍しいですね」
「【橙】貰ってんだ。攻撃に入った方がお得だろ?」
「……イマイチ分かりませんが。とにかく行きましょう」
「……へーい」
雲みたいな羽をはやしたクマと対峙し、さてさて、遊んでやりましょうか! ……と、意気込んだその時。
「って……あん?」
「これは……」
クマの姿が薄れていく。視界がぼやける。持っていたはずの武器も、いつの間にか消えていた。リコリスの方を見てみれば、消化不良だとでも言いたげに、眉を寄せている。アンティは、何が起こっているか理解できず、しきりに辺りを見回している。
「どういうタイミングだよ」
「展開もなにもあったものでは無いですね」
「すみません、すみません! ほんっとーーにすみません!!!」
気付けば、俺達の前で頭を下げている女性と、その女性に頭を押さえられている少女が目の前にいた。
少女の気配が少し変だな。亜人か? 左右を見れば、アンティとリコリスがおり、その他にも数人が棒立ちになっていた。
「この子、夢魔の血が入ってるんです。でも、いい子で、仕事も頑張ってて……! でも、間違ってお酒を飲んでしまったみたいで能力が暴走しちゃったんです!!! 本当にすみませんでした!!!」
「……アンティ、どうだ?」
「彼女が夢魔とのハーフなのは本当。でも、探してる能力は持ってない」
「そうか、残念。なあ、俺達は気にしてないから、スイーツ代、ちょっとオマケしてくれたりしないか?」
「も、もちろんです! 今日の分は全額こちらの負担ということで……!」
「お、ラッキー! じゃあ、あんたも頑張って」
「……ありがとう、ござい、ます」
夢魔の子に声をかけ、俺達は店の外に出た。空は青く、晴れ渡っている。空がピンクじゃないのがこんなに落ち着くとは思わなかったな。
ふと、リコリスが残念そうに呟く。
「ハーフで、しかも若い割に強い力を持っていたので期待しましたが……ハズレでしたか」
「こらこら、人をハズレ呼ばわりするんじゃない」
「……でも、私も残念。ユーリくんの時よりは、残念じゃないけど」
「ああ、アイツなぁ……アイツも変な能力持ってたな。『四季風』だっけ? 風に種類があるなんて、聞いたこと無かったなぁ」
「戦ったのを見た感じ、ユニークも持ってそうだったけど、探してるのとは遠そうだった。残念だった。……私の魔眼がもっと使いやすかったら、すぐに見つかってたのかな」
「悩んでいても、落ち込んでいても仕方ありません。ほら、行きますよ。世界を救わなければならないんですから、止まってる暇はありませんよ」
「……だな」
「うん」
そうして、俺達はまた進み始めた。いつ終わるかもわからない、人探しの旅を。……いや、世界を救うことができる能力探しの旅を。
止まるわけにはいかない。大きなものを、背負っているから。俺達の目には、希望が宿っていた。
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前回に引き続き、世界を救おうとするとあるグループのお話でした。今回は、シグ、アンティ、リコリス側でしたね。
夢魔……亜人である魔人の1種。亜人のほとんどは魔帝国ベルベットに住んでおり、夢魔も例外ではない。ただ、夢に誘われる習性の影響で、亜人の中でも国の外へ出る割合が多い種族でもある。
夢に誘われ、夢に誘い、夢を産み、夢を食べると言われている。魔力が多い傾向にあり、外見は人間とほとんど変わらない。ただ、背中に極々小さい羽があるだけだ。




