閑話 世界を救おうとする一団は、厄介事に首をつっこみ続ける
初登場の人達です。でも、頑張って名前を覚える必要はまだないです。
「……はあ。やはりアンティがいないと効率が悪すぎるな」
「辛気臭い顔しないでよ、モア! アンティちゃんとリコリス、シグの3人はバランスが良いもの! ボジションが微妙な私達より優先して、組み合わせると強いあの子たちが一緒になるのはいつもの事でしょ?」
「まあ、それは確かにそうなんだが……ん? ニコはどこ行った?」
「……あら? さっきまでそこであくびしてたけど……」
「おいおい、さっさと探さないと民家を壊したら面倒だぞ!」
モアが焦った様子で捲し立てる。うっさいわねー、焦ってもいい事ないのに。
というか、私の能力忘れたのかしら。ちょっと気が動転しすぎじゃない? うん? むむむ、キガドウテン……なんか技っぽくてかっこいいわね。
「焦る必要ないでしょ、ニコちゃんには魔法陣付けてるから、いつでも呼び出せるわよ。ほら、こうやって……」
「うわあ!? びっくりしたー! バレさんがやったの!?」
「そうよー、ニコちゃん。勝手にどっか行ったら心配しちゃうでしょ、ちゃんと声かけてね?」
「お前は心配してなかっただろ……」
「うん! わかったー! ねぇ、見て見てー! この人たち、女の人をつれさろうとして……あれ? いない?」
あらら。呼び戻したタイミングが悪かったわね、人助けの途中だったなんて。
モアは、頭を抑えて苦々しい表情。相変わらずね。
「よし! じゃあ、その場所に行きましょうか! 私達も一緒に行くわ!」
「ほんと!? やったー! いこ、いこ!!」
「たーだーし! 敵を爆発させちゃダメよ! もちろん私達を爆発させるのも、おうちを爆発させるのもダメ!」
「ええー、うーん、わかった! 爆発しない!」
「ほら、モアも行くわよ! もうちょっとこっち来て!」
「はあ……お前らといるとこんな事ばっかりだ……」
ぶつくさ言いながらも言うことは聞くモア。ニコちゃんも、こんなのを慕うくらいなら私の方を慕ってくれたらいいのに! でも、名前に星が入ってないから無理なのよねぇ……偽名なんだし変えちゃおうかしら。
「はーい、行くわよ~」
「あははは! わーい!」
「はあ……」
私は掛け声と同時に、足元に魔法陣を展開する。さっきニコちゃんを呼び戻した時の位置情報を組み込み、逆展開した転移術式は私達を一瞬で別の場所へ飛ばす。
そこでは、複数の人達が入り交じった暴力沙汰の騒動が起ころうとしていた。まだ睨み合っているけど、突然の乱入者である私達に気を取られているみたい。
女性が複数人いるから、どっちのグループが敵だか分からないわね。……あと、この様子じゃ兵士さんが来るのも時間の問題ね。
「あらあら、これはまたすごい場面ね」
「うおー! たおす! 全員たおす!」
「待て、ニコ。とりあえず誰が敵か判明しないと。……さあ、お前たち。全ての存在を知らせておくれ。どこに立っているか教えておくれ。どちらを向いているか教えておくれ。『便利で元気な目印達』」
「あら、今日のスキルはそれ? 楽しそうなスキルね!」
モアがスキルを使うと、彼の体から飛び出した色とりどりの魔力が飛び跳ね、近くにいる人達に取り憑いた。青は味方、赤は敵、白は無関心、黄色は不明を意味するのだと、なぜかはっきりと理解できた。よくよく見てみれば、その魔力には顔がついている。モアから出てきたとは思えないくらい可愛いわね。
詠唱のあるスキルにしては効果が単純だけど、ここからいくつか展開するか、副次効果くらいはありそうね。
「ニコ、行っていいよ。赤いのが付いてる人は敵だ。でも他の色が付いてる人は気にしなくていい。こっちの攻撃は当たらないから」
「ほんとう!? わかった! たおしてくるー!」
やっぱり副次効果があったわね。赤色……つまり、敵のマーキングに重きを置いたスキルみたい。ニコは、言うことをちゃんと聞いて爆発はしないようにしてくれているみたい。でも、彼女が振り回している、私の身長くらいありそうな戦斧は、床の舗装や民家の壁なんて簡単に破壊してしまうでしょう。
しょうがないわね、私が補助しましょうか。
「並列展開。無属性魔法『強化』」
「俺も離れた奴くらいは処理しよう。『柵穿つ霞の閃光、一点貫く魔鯨の飛沫。視線を目印に走り抜けろ』【風閃】」
私が床と建物を強化すると、モアが風属性魔法でニコの補助をする。にしても、相変わらず汚い詠唱ね。調子が下がっちゃうわ。
でも、兵士が来るまでやるつもりだったから、少しでも多く倒すのはいいことね。ニコはまとまった敵を倒すのが一番得意だし、離れた敵を狙ってるのもさすが。
なんだかんだ言って、この2人は仲良いし相性も良さげなのよね~。まあ、スキルの話になるとモアに相性も何もないんだけど。
モアの第一オリジンは『トリックスター』。毎日0時ちょうどに、ランダムなスキルに変化する、っていう使いやすさも使い込みも愛着もへったくれも無いスキルね。それだけに頼るのは流石に、っていうことで『風属性魔法』をレベル8まで上げたことは凄いと思うわ。まあ、私は光闇無まで含めた全属性レベルmaxだけど。
っと……見た感じ、探してる対象に当てはまる人はいないわね。はぁ~あ、いつまで探し続ければいいのかしら。フェノンも、私とアンティちゃんを組ませてくれれば良かったのに。そのほうが、もっと効率的なのに!……まあ、アンティちゃんは私に苦手意識持ってそうだし、仕方ないか。
「あ、来たわね。ニコちゃ~ん、終わりよ~!」
「はぇ!? むむむ、わかった! モア大丈夫?」
「うん? 俺は大丈夫だよ。ニコは大丈夫か?」
「うん! 大丈夫!」
「じゃあ、私が対応しておくからちょっと待っててね」
「ああ」
「わかったー!」
集まってきた兵士達は、警戒の表情でこちらを見ている。当然のように臨戦態勢だ。さすがにまだ顔は知れ渡ってないみたいね。ここいらには映像関係の魔道具はまだまだ少ないみたいだし。
暴漢達は、腰が抜けて逃げようとする人もいなかった。というか、逃げようとしてた人はモアが優先的に狙ってたしね。だから、兵士とある程度は問答する余裕もあるでしょう。
「……控えなさい。私はハッピー=ハッピー・バレンタイン。Sランク冒険者よ。ほら、ギルドタグ。見える?」
「は、え、なっ……あの色、ミスリルか!? 腕から取り出したってことは本物!?」
「しっ、失礼しました! おい、お前ら! 武器をおろせ!」
その気になれば、今からの事情聴取さえ無理やり拒否できる。それがSランクギルドタグの威力だ。だから、タグを見せただけで、兵士達は臨戦態勢を解いた。取っててよかった、と呑気に考えていると、後ろでニコちゃんとモアの会話内容が聞こえてくる。
「かっこいい! 私もやりたい! わたしたちはクゼシチセー!」
「落ち着け、ニコ。最近その名前で悪さしてる奴らもいるらしい。そいつらを潰すまでは我慢だ」
「がまん! ううー、わかった!」
「よしよし、偉いぞ。……ふぅ、そろそろ昼メシの時間だな。長引かないといいんだが」
「ごはん! おなかすいた! 食べる!」
ニコちゃんが……お腹を空かせている……ですって!?
「ちょっとアンタ達!? 急用ができたわ! 事情聴取は後にしてもらうわね! それじゃあ!」
さてさてニコちゃん、今日のごはんは何にしましょうね~♪
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ハッピー=ハッピー・バレンタイン(偽名)ちゃんは、作中でもかなり強い方だと思います。まだそんなに人出てないけど。
指標として言えば、震舌や咎より強いです。
そして、割と可愛い名前だけど略し方が難しくて、ニコ含む周りの人からはバレさんと呼ばれています。モアはバレンタインと呼んでます。




