080 顛末
事件の大まかな流れが説明されます。長くなってしまいましたが、既に知っている部分も多く意外と説明文は多く感じないと思います。
取っ付きにくいかもしれませんが、読んでくださると嬉しいです。
「ユーリ様、助かりました! 最初は疑ってしまって、本当に申し訳ない!」
「大丈夫ですよ、タイミングも悪かったですし」
「いえいえ! にしても、あの厄介な魔物を復活させずに倒せるのはさすがですなぁ! 自分も魔道王国兵の一員として勉強は怠っていないつもりでしたが、対処法が全く思いつきませんで……ああ、国王は自室にお下がりになっております。近衛に謁見の申し入れをしましょう!」
「ああ、頼みます」
あの後俺は、震舌達と戦っていた間ずっと背後で戦っていた兵士たちのフォローをした後、1度中庭に戻ってそちらの変異種も処理してきた。
お礼を言ってきた騎士の1人はそう言うと、廊下の奥へ走っていく。王城の廊下を走るとかめちゃくちゃ怒られそうなもんだけど……大丈夫なのか?
そう思っていると、奥から怒鳴り声が聞こえてきた。ふむふむ……? なんと失礼なことを、だって?
盗み聞きするつもりも無かったが聞こえてしまうので聞いていた、そんな状態を続けていると、怒鳴り声がしていた方から兵が2人やってきた。
「……ユーリ様、大変申し訳ございません、新入りが失礼を申しました。ユーリ様、我らが国王はユーリ様との面会をお望みです。よければ、お会いになって下さいませんか?」
先程のフランクな兵とは一転して、随分とへりくだった様子だ。
これが本来の、Sランクの扱われ方ってことだろう。なら、こっちもそれに合わせるか。
「そのつもりで来たんだ。合わせて欲しい」
「かしこまりました」
「あと、さっきの人はあまり責めないでやってくれ。俺が敬語を使ったのも原因のひとつだと思うから」
「それは……かしこまりました」
兵に先導されつつ歩くと、すぐに目的の部屋に着いたようだ。
兵士がコンコンと2回ノックをしたあと、続けて要件を言う。
「Sランク冒険者のユーリ様をお連れしました」
「通してくれ」
「はっ!」
短いやり取りの後、扉が開かれた。国王の私室と言うだけあってかなりの広さで、装飾も豪華だ。天蓋付きのベッドなんて人生で初めて見たな。
同じように豪華な装飾のあるイスに座った国王らしき人物の傍には、王妃っぽい人と娘っぽい人。さすがに『鑑定』するような勇気はないから、全員「っぽい人」以上の情報は無いのだ。許して。
「よく来てくれた、ユーリ殿。俺はエリフィンの国王、ブラン・エリフィンだ。よろしく頼む」
「Sランク冒険者のユーリと申します。お目通り叶いまして光栄の至りでございます」
「む……そんな口調だったか? ラズダムんとこの坊主から聞いてた雰囲気とだいぶ違うが……」
「ご勘弁ください。Sランクになっても私の根本は小市民。一国王の前とあらば、畏まってしまうものでごさいます」
「それにしては全く緊張しておらんようだが……まあ良い。それよりも、我らの窮地を救ってくれたこと、礼を言う」
「いえ。それが巫女様の存在を知らされた意味だと思いましたので」
国王は思ったよりフランクなようだ。威圧感も、今はそれほど感じない。まあ私室で威圧感全開な人なんていないと思うから普通か。
俺の発言に反応して、娘っぽい人が目を伏せる。あれ、もしかして娘じゃなくて巫女様の方? 国王とこんなに距離が近いとは、意外だな。
「そういう思考は、実は今代の巫女とは相性が悪いのだがな」
「……と言いますと? 」
「自分がこう動くことは巫女様も織り込み済みだろう、という思考はある種の思考停止だ。そこから更に状況を変えようとした時、その駒は死んだも同然。予測できない突飛な動きをすることもある。もちろん、直接指示が出せない場合の話だがな」
「なるほど。では、少し負担をかけてしまいましたね」
そうは言いつつも、あまり迷惑はかけていないだろうと心の中で独りごちる。なぜなら、最も手っ取り早い、俺と最初に面通ししておくという手段を選ばなかったのだから。
「いや、それでも今回はユーリ殿のお陰で随分楽だったと彼女も言っておった。アンナ、挨拶せよ」
「……お初にお目にかかります。王城にてこの国に仕えさせていただいております。レウル伯爵家次女、『未来視』の巫女。アンナ・レウルと申します。未来……いえ、今となってはもう過去ですね。過去にお世話になりました」
「これはこれはご丁寧にどうも。はじめまして。ユーリと申します。お世話してしまったということは、本性なんかもバレている感じでしょうか?」
「ええと……そうですね、えへへ。優しくしていただいて、ありかとうございました」
ふむ、よかった。少なくとも、『未来視』の中の俺はセクハラをはたらいたりしてなかったみたいだな。というか照れたような顔がかわいい。可愛いというよりかわいいという感じだ。
「アンナ、ミトスクルアーノと黒豹の動きを教えてやれ」
「はい。……ミトスクルアーノ男爵はユーリ様が黒豹のアジトを攻めたタイミングよりもかなり前から、既に黒豹から幹部2人を引き抜いていました。黒豹はいくつかの貴族と密かにつながっており、またスラム街の外含む裏組織を抑えていたため国としても手を出しづらい組織でしたが、そういったしがらみの無いユーリ様によってほぼ壊滅。同時刻には、以前より続いていた門を超える抜け道を作ろうとする動きもありましたが、そちらは無事に抑えました」
「なるほど。あの時点で相当人手が分散していたんだな」
「その通りです。黒豹はボスが無能なため、呆気なく……とはいっても、ユーリ様程のお力があってこそでしたが、問題なく処理出来ました。しかし、ミトスクルアーノは黒豹の誘拐部隊からユーリ様に目をつけられたと察知したようです。そして、ウィズィ様の手から逃れいよいよ追い詰められた男爵は、黒豹から引き抜いた2人の幹部と共にとある計画を立てました。大量の、魔物を──赤い変異種を使った作戦です」
なるほど、俺に狙われたのは気付いてたのか。Sランクになったんだし冒険者ギルド調べたらいろいろ出てきそうだけど、そこまで情報に敏感だったとは。
「おおまかな作戦はこうです。学院のイベントで人が集まるのを利用し、生徒と観客たちを人質にします。さらに、闘技場の周囲に毒を発生させる魔道具を設置し、人質を逃がさないように。そしてそれと同時刻に、赤い変異種を率いた錬金術師レファ・アークストーンとミトスクルアーノは王城攻め。エメ・ローブは王城周辺で門番のような役割を与えられました」
エメ・ローブ……そいつが毒薬飛ばしの女か。闘技場の方は陽動というよりも囮のつもりだったのか。それで、俺に赤色を潰されて国王を脅せなくなったと。
そうか、『未来視』の巫女がいるから、人質がいると嘘をついても意味ないんだな。
でも、男爵たちは一体何の目的で王城を……?
「彼らが王城を攻めた理由は大きく2つ。ひとつは、王族と専属近衛にしか利用が許可されていない超長距離転移の魔道具の奪取または使用。もうひとつは、王城のてっぺんに存在するスキルオーブの奪取です」
「そこからは俺が話そう。王城の天辺に保管されてるスキルオーブは3つ。『千里眼』『洗脳』『隠者』だ。『千里眼』は距離を無視して全てを見通し、見た場所に転移することが出来る。『洗脳』は人の脳を騙し、記憶や認識をいじる。『隠者』は全ての視線から──それこそ『千里眼』からでさえも逃れて隠れ、あらゆる魔眼と『鑑定』系統のスキルを弾く。いや、弾くというより何も見えなくなる、というのが正しいか」
あれ、おかしいな。なんか聞き覚えのあるスキルがあるなぁ? なんだよ、『隠者』お前そんなに凄いやつだったのかよ、もっと速く言ってくれよ。
……『隠者』がコートに付いてるのは内緒にしておくか。「あなたの国で大事にしてる国宝、俺も同じの持ってるんですよ~」なんて言ったら、殴られても文句は言えまい。
にしても『千里眼』か。小説だとあるあるだよなぁ。転移の効果もあるスキルなら、『暗視』とか『遠視』のスキルレベルを上げただけじゃ統合進化してくれなさそうだな。真面目に転移系のスキルを取っておくか?
「3つのスキルがあれば、この国から逃げた後もどうとでもなるからな。『洗脳』であれば、逃げる必要性すらなくなる。どこから聞きつけたか知らんが、狙いたくなる気持ちも分かるというもの」
「となると、やはり闘技場の赤い変異種を潰しておいたのは正解でしたね。人質が有効だと面倒な事になっていたでしょう。しかし、毒を発生させる魔道具は俺はノータッチです。そちらは……」
「問題ない。既にクレイ──泥人形達を向かわせている」
「クレイ? はあ、まあ、処理済みならいいんです」
「クレイってのは議会の生み出した傑作で、まあほとんど人間みたいな魔導人形だ。はぁ、まったく議会の野郎どもに護衛を回さなきゃもっとスムーズに片がつけられたんだが……無駄に有能なのが面倒すぎるんだ、アイツらは」
議会? 初めて聞いたワード……だよな、多分。少なくともパンフレットには絶対乗ってなかったし、ウィズィ達との話題にも出てこなかったのは確かだ。
「とにかく! 俺たちは感謝しているのだ。ちょうどいいし学院の学年対抗戦のついでに大々的に表彰するのはどうだ? いや、こんなことがあったし対抗戦は日を改めるか……とにかく、お前に何か報酬を……ああもう、対等に話すって難しいな! しばらくやってなかったから言葉遣いが変になる!」
国王が突然発狂する。一人称が俺でワイルドな割に鷹揚な口調をするのが違和感だったんだが、やっぱりちょっと無理してたのか。
「お前もお前だ! 一応対等だってのに頑なに敬語!敬語!! 敬語!!! いい加減調子狂うわ!!!」
「そうは申されましても……」
「臣下か!? お前は俺の臣下なのか!? 俺たちは対等なんだぞ!?」
「ブランー? いい加減になさ~い? 救国の客人の前なのよ~?」
「げっ、アルメダ……コホン。すまん、取り乱した」
「ふふ、相変わらずですね、国王さま」
王妃の怒りで国王の発狂はおさまったようだ。このやり取りはいつもの事なのか、アンナはとても微笑ましそうに彼らを見ている。
「あー、その、すみません。国王様、今更ですけど敬語、辞めますね……」
「お、おう……助かる……」
どうするんだこの空気……
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国王……ブラン・エリフィン(34)
王妃……アルメダ・エリフィン(秘密)
2人とも若々しいこともあって、ユーリはアンナを彼らの娘だと勘違いしました。それほど、アンナの立ち位置が彼らに近かったと言うことでもあります。
娘ではないと明かされてから、「さすが『未来視』、めちゃくちゃ大事にされてるな」とユーリも思ったことでしょう。しかし、当然普通なことではありません。国王のフランクさがあってこそですし、平時は専属の護衛とメイドに周囲を任せています。




