078 応酬
目の前で頭のてっぺんだけハゲた爺さんが喋っている間に、騎士の方にはフォローを入れておいた。『魔力創造主』で鉄杭を創造し、左手で狼に投擲しておいたのだ。それによってなんとか、騎士たちは体勢を立て直すのに成功したようだった。
「それで爺さん、あんたは何者なんだ?」
「ワシか? ふむぅ、お主からは女の匂いがするからの、つまり英雄! よかろう! ワシはレファ・アークストーン! 軍事国家ランパード出身の天才錬金術師、助手募集中じゃ! 今は、黒豹の一員としてお主の足下に転がっておるナントカ男爵に雇われておるのぉ」
「……情報量が多いな。まぁ、とにかくお前が全ての元凶ってのは分かったよ」
「あぁん? なーにを馬鹿な事言っとるんじゃ。全ての元凶とやらは、そこのナントカ男爵じゃろうに」
「……そうか、まあ両方処刑だろうし興味無いよ」
俺がそう言うと、レファという錬金術師はニンマリと笑った。
「なんじゃ、もういいのか? 普通はこういう時、悪役がどういった思想で、思考で、理論で、手段で、目的で、犯行を起こしたのか聞き出すもんじゃないのかのぅ?」
「そんなもん、捕まえた後に聞きゃいいだろ」
「美学の分からん奴じゃのう! そう無碍にするんじゃないわい!」
こんな話など無視して攻撃を仕掛ければいいとは思うが、この爺さん意外と隙がない。……気がする。この感じだと、近接は封じた方がいいかもしれないな。俺はスキルレベル1の『直感』を信じるぜ。
「そこのナントカ男爵が、ただお家の力を付けるためという真っ当な理由だけで子供を買い、何度も人体実験を繰り返していたと思うのか? だとしたら頭お花畑もいい所じゃのう!」
「いつまで喋ってんだいい加減うるせぇ!」
俺の『投擲術』で真っ直ぐ飛んで行った鉄杭は、レファの頭に直撃する直前で停止した。
徐々に失速したんじゃない。時間が止まったように、見えない何かに刺さったように。急に動かなくなった。周囲に特殊な結界を張ってる感じか?
レファは攻撃されたことを気にもせず喋り続ける。
「いやぁ、男爵の趣味はなかなかどうして理解できない物じゃった。幼子の死ぬ間際の表情が何よりの悦楽とは! そうして楽しむ副産物として何が得られた? 本当に武力は増強されたのか? めざましい技術を会得したのか!? いやいや、ただただ資産を食い潰すだけで、何も得ることは出来なかった! 失敗作を黒豹へ放棄し、いつかは何かが得られるじゃろうと、目の前の愉悦に囚われて現実が見えなくなっておった!」
「ふざけんじゃねぇ」
「ぉん?」
「てめぇも人体実験に関わってんだろうが。そこの赤色に人体が取り込まれてるのは聞いた。そしてそれに『錬金術』が関わってるのもな。それでお前は天才錬金術師なんだろ? 他人の黒いとこばっかり論って何がしてぇんだお前は!!!」
敵の前で怒るなんて特大の隙を見せるつもりは無かったが、抑えきれなくなっていた。
俺が怒りを感じてる部分はそこじゃないが、語気が荒くなってしまう。
「……白けるのぉ。怒って欲しいのはそこじゃないんじゃが。ワシが見たいのは、激昂したお主がそこの男爵の頭蓋を叩き割るところじゃよ! 真実を知った英雄が! 無実の子供を弄んだ悪の親玉を! 裁く!!! そしてそれを悪の一員として見ることこそ、何より悦ばしいもの……」
「……狂人か」
「何を当然なことを。ワシからすれば、狂っていない人間などおらんのだがな。正義に狂い、愛に狂い、力に狂い、己に狂う。それが人間じゃろう?」
「…………分かんねぇな。哲学者にジョブチェンジすれば?」
「……ふむ。その提案は受けられんのう」
後ろでは、依然戦闘の音が続いている。ライターだけでも貸せれば良かったが、説明する時間もなかったからな。仕方ない。
俺と爺さんの間の沈黙はしばらく続いたが、打ち合わせたかのように2人とも同時に動き始めた。
爺さんが動き始めた瞬間、空中に止まったままだった杭が地面に落ちる。『停止』か、『固定』か?どっちにしろ魔力消費はデカそうなのに、杭は止めたままにしておいたのが気になる。その辺が重要かもしれない。
「『召喚』・鉄犬。行け!」
かなり前に創った犬型ロボを召喚し、爺さんを襲わせる。『召喚』は、目印を付けた物・人を周囲に引き寄せるスキルだ。ただ、目印の種類が3つしかないから、目印の付け替えが面倒くさくて不便なポイント。
コア・ネックレスに箔刀をしまい、同時に風雹雷アリアーチェを取り出す。さっきの杭は魔力で覆ったりしていない完全な物理だ。それを止められても、魔力そのものを飛ばすこれならどうだ?
「雷装。よっと」
「ぐあっ!?」
通った。雷は速度特化だから反応も出来てないな。でもダメージもそれなりに入ってそうだ。これが通るんなら楽だな。まあ、証言とかあるし、生き残らせるのが可能ならそうしたい。……個人的には殺してやりたいところだけど。
「氷装」
「食らわん! ゆけ! 土人形!」
「え、止められた?」
…………なるほど。反応できないって方か。魔力物理関係なく、指定したものを止めるor固める能力っぽい。となると、自分の周囲全ての空気を固める大技も警戒しないとな。使ってこなかったら、魔力消費がデカいからとか、中で息が出来なくなるからとか、目に見えるものしか固められないパターンなんかが考えられる。
爺さんが発したけしかける声と同時に、彼の足下の床がせり上がって人型を形成する。土人形とは言っていたが、石でできてるから硬そうだ。
そいつらは一直線にこちらへ突っ込んできた。
「変形。黒炎雨アビストラーチェ。水装」
弓の特定の場所に魔力を流して剣に変形する。水で形作った刃は、切断力強化の特性を持つ。石くらいなら簡単に切れるだろう。
箔刀より切れ味は落ちるが、非常に安定している。なにより、ほぼ魔力だけで刃を形作っているため、折れても即座に再生可能だ。一応武器には『不壊』が付与されてはいるんだが、魔力で作られた刃は対象外なのだ。気付いた時の脱力感は中々のものだった。
なぜ爺さんは毒薬を使ってこない? という疑問が一瞬浮かぶ。が、単純な話だろう。最初に風で弾かれたから、やり返しが怖くて単純な投擲はできなんだろうな。
であれば、搦手には気を付けないといけないか……そう思った時には、もう遅かった。
「っ……」
平衡感覚が失われているのを感じる。目眩と吐き気もあるのか。でも、わざわざ使った毒薬がこれだけな事あるか? そう思った瞬間に咳がでる。
口を手で抑えると、違和感。手を見てみれば、そこには血がべったりと付いていた。
レファ・アークストーン。ミーシャを誘拐しようとした黒豹の下っぱが自害した時に使った、毒薬《3番》の製作者です。
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