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077 救援

「いないのか……やっぱ王宮か」


 ドローンで当たりをつけた3つのポイントに国王はいなかった。

 そのポイントは、貴族のたくさんいる場所2つ、逆に人の気配が無いけど試合はしっかり見れそうな場所だ。一段と豪華でいかにもな部屋とか個室とかがあれば分かりやすかったんだけど無いみたいだ。


 アゲハが居ればここに残して探させたんだが、生憎(あいにく)今は屋台巡りをしていることだろう。というか、アイツは居ない時間の方が長いから期待するのは厳禁だ。


「ワープ系のスキルオーブを創るか……? いや、無理だな。行ったことがない場所に跳べるスキルは俺の常識じゃ創るのに時間がかかる。空歩で走るのが1番はやいはず」


 俺は方針を決めると、すぐに先程と同じように『四季風』で補助しながら飛び上がり、空歩で移動し始めた。


 眼下には、パニックが落ち着き始めた観衆の姿と、依然土壁の中で待機している生徒たちがチラリと見える。赤色変異種の補充は見える範囲には無いようだ。

 空を走りながら思考を進める。追撃が無かったのが気になるが、手下が瞬殺されて動揺しているのだろうか。有り得るのは、こっちが陽動で本命が王宮攻めなパターンとか、あれが全戦力でもう全部倒しちゃったパターンとかかな。


「街の被害は無し……王宮からは謎の煙と。学院は陽動か」


 煙が上がっているということは、既に戦闘が始まっているということ。思わず足に力が入り、バランスを崩しそうになるがなんとか堪えた。




「ッ!」


 王宮に近付き、塀の中が見えそうになった瞬間に何かが飛んできた。ほぼ反射で、土壁を創造して防ぐ。『気配察知』で直前に気付いたとはいえ、咄嗟に反応できたことに自分でも驚いた。


 飛んできたのは、どうやらガラス瓶の様だ。中身は毒薬かな。『鑑定』しようとしたら、追加で同じものが飛んできた。土壁を追加で創造して防ぐと、下から舌打ちが聞こえてくる。


「チッ。面倒なスキル持ってんな。でも無視して通したら後で怒られんだろうなぁ。やるしかねぇかぁ?」

「……人に毒薬投げちゃいけませんって親に教わらなかったのか?」

「あ゛ぁ゛? 親なんざいねぇよ!つーか()に親がいるやつなんてほとんどいねぇだろ! テメーらみたいな自分にとっての普通を押し付ける奴、死ぬほど嫌いだぜ!」

「そりゃ悪いこと聞いたな。それで、通してくれるのか?」


 荒々しい口調の女だ。短髪の部類だがボサボサした髪型のせいか長く見えなくもない。

 無視して無理やり通るのも手ではあるが、相手がいる場所と毒薬が飛んできた方向が違いすぎる。スキルの詳細が分からない以上、危険かもしれない。


 彼女が通してくれるならそれが1番だな。


「……よォ、お前強いか?」

「うん? まぁ、それなりにはな」

「ふん。そりゃ、強ぇ奴の答えだな。よし分かった! 俺はお前に気付かなかった。攻撃もしなかった。だから、お前はウチの雇い主とイカれたレファの野郎をぶち殺しといてくれ」

「それでお前は見逃せってことか?」

「そこまでは言わねぇよ。見なかったことにしてくれるんなら、有難いのは間違いねぇが……俺はアイツらが嫌いなんだ。アイツらが死んで俺が自由になれるんなら、それが最高なンだよ」

「分かった。じゃ、通らせてもらうよ」


 交渉成立だな。一応背中から襲われるのを警戒しておこう。

 そう思って王宮に突入しようとすると、再び声をかけられた。


「待て!」

「うぉ! っと、危ないな、なんだよ」

「レファの野郎は錬金術師だ、死ぬほど厄介な薬をいくつか持ってる! その中の一つに、空気に溶け込んでどーたらこーたらっつーモンがあったはずだ!」

「……助かる! じゃあな!」

「おう!」


 そうして俺は今度こそ、王宮へ突入するのに成功した。




 ༅




「あぶねーあぶねー。『反発する開かぬ心(エメ・グランセ)』が勝手に反応したから焦ったぜ。はぁ~あ、あんなバケモンがいるなんて聞いてねぇっつの」


 ユーリを見逃した女は、心底ホッとしたというように座り込んだ。


「まぁいいか。これでやっと黒豹から、本当に解放されるんだ……あ、さっきついでに毒薬も全部あげちまえば良かったな……嵩張るよなぁこれ、どうすっか……」


 女は、ぶつぶつと考えを漏らしながら立ち上がると、すぐに移動を始めた。


「なんであんな奴を敵に回したんだか……いや、あんな胸糞悪いことやってりゃそうなるか。となると、ここで見逃されたのはでかいか……」


 彼女がユーリと出会うことは、もう無いだろう。



 ༅



「箔刀・【一閃】」

「ガルルァッ!!?」

「……『魔力創造主(マジックメイカー)』。魂葬ライター」


 非戦闘員らしき人物を襲おうとしていた赤色の狼を切り捨て、一々魔法で火葬せずに済むようにオイルライターを創造した。蓋を開くと、炎が噴き出し死骸にまとわりつく。『神気』による浄化は望めないが、効果として浄化は付けたし、火力は十分だ。問題ないだろう。


「大丈夫ですか?」

「っ……き、君は? 何者だ?」

「Sランク冒険者のユーリです。これ、タグです。それより国王はどこに?」

「わ、分からん。エリゼ魔道学院に行っているはずだが、それはブラフだという連絡もあった。だが、王城に国王の気配はなかった! 」

「ふむ。とりあえず怪しそうなところを探してみるか。国王の私室はどこに?」

「う、上だ。王城は全部で4階、王族の住居は3階にある!」


 取り乱したまま、半狂乱の男が教えてくれる。怯えながらもしっかり教えてくれるのはありがたい。


「分かった。じゃ、アンタも行こうか」

「はぇ?」

「いや、普通に怪しいだろ。なんで王城に国王の気配が無いとか知ってんだよ。庭と3階辺りには人の気配が割とあるがここら辺には誰も居ない。そんなとこでウロチョロしてるのも怪しいポイントだ」

「そ、それは……!」

「はいはい、理由とかいーから、時間無いし。はい、拘束しますね~」

「え、おい!」


 コア・ネックレスから取り出したロープに魔力を通すと、意志を持ったかのように動き出して目の前の男を縛ってしまった。

 ユーリはそれを軽々掴むと、跳ねるように王城内へ飛び込んでいった。




 ༅




 城内にも魔物は入り込んでいた。人の死体がいくつかある。ただそれは、両手で数えられる程度で済んでいた。対して生きている人間は1階・2階には居なかった。しかし、床がどこも血まみれだ。無意識に拳に力が入る。

 生きている人が見えないのは、3階に直行しているから階段近くに居なかっただけか、3階まで逃げ込んだのか。上の階に逃げるというのは、人間の心理としてはおかしい。1階にいるなら普通は外に出るからだ。2階でもそうするんじゃないかな。

 外で戦っている人もそれなりにいたから、俺が気付かなかっただけで誰かを守っていたのかもしれない。


 3階にたどり着くと、一転して戦場になっていた。騎士の格好をした者たちが赤色狼の攻撃を防ぎ、後ろから魔法が飛んできている。オークはいない。まあ、3階にオークなんて居たら床抜けそうだしな。ここにいるのは狼とゴブリン、スケルトンだけみたいだ。


「! 何者だ! この魔物の主か!」

「いや、俺は……」

「総員警戒! 対象の武器は剣のようだ、魔道具に見える! 補助部隊は対魔法エンチャントを追加でかけてくれ!」

「あの……」

「隊長! 『鑑定』が通りません! ステータスの確認ができません!」

「ちょっとー?」

「赤色も無視できん! 攻撃は後衛頼りになるぞ!」


 騎士たちは慌ただしく俺を敵認定する。俺が口を挟もうとしても耳を貸そうとしない。

 とりあえず、腕からSランクのギルドタグを取り出し、騎士から見えるように掲げながら声を張って仲間アピールをする事にした。すまんウィズィ、ちょっと名前借りるぞ。


「俺はSランク冒険者のユーリ! エリゼ魔道学院の朋友(ほうゆう)であるラズダム家次期当主ウィズィ・ラズダムの要請の元、国王の助力に参った! 状況を教えてほしい!」


 俺の言葉に、騎士達は一瞬動きを止めてしまった。しかし、赤色狼達はそんなことお構い無しに襲いかかり、騎士の1人が盾を崩されてしまった。


「……まずはこいつらから処理だな。落ち着いて話もできん」


 階段を登る途中に『身体強化』はかけ直したから、赤色相手は問題ないだろう。そう思っていざ突撃しようとすると、真横からガラス瓶が飛んできた。さっきと似た状況だが、王城の敷地に入る前に飛んできたガラス瓶は、もっと鋭かった。速さの話ね。

 それに、俺が背を向けきってから投げていないのを考慮するなら、投擲主は戦闘慣れしてないな。


「『四季風』・【やまじ】」


 ガラス瓶の女から気化する毒薬の話を聞いていなければ、いつものように土壁を創造して防いでいたところだ。

 強い風に吹かれてガラス瓶は減速し、そのまま飛んできた軌道を帰っていった。そのガラス瓶をなんとか避けた投擲主は、怒りの表情でこちらを睨んできた。


「ぬぉ!? 危ないことするんでないわ!! 親に毒薬は人に投げつけるなと教わらんかったのか!?」

「いや、親いないし。しかも投げてないし」

「ぬぅ……エメのような返しをしよって……まあ良いわい、お主という慮外(りょがい)盤外の駒は今ここで駆逐するとしよう」

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せっかく妖精のお供という便利な立ち位置であるアゲハを登場させたのに、物語にあんまり関わってこなくてお怒りの方もいるでしょう。でも許してください。僕の言うことも聞いてくれないんです。

いつもいつもユーリの貯蓄をちょろまかして屋台をフラフラとして。透明になれるのを悪用して女風呂を覗きに行って(アゲハも女だからセーフ)。ユーリの頭の上を寝床にして休んでいる時なんかはとても可愛いんですけどね……


ユーリとしても、実妹の人格を想定して創造してしまったので無意識下ですこし気恥しさ・罪悪感・うざったさのようなものを感じているようです。アゲハ自身は特にそういったしがらみは無いようで自由に過ごして接しています。


メタいことを言えば、アゲハ登場の目的は

①生命創造を神に咎めさせる&それによってメルルと合わせておく

②主人公の過去に関する伏線

③ペット枠が4章まで出てこない予定だったのでそれまでの繋ぎ

④主人公とルチルの2人旅、という事実を軽くする(この辺の詳しいことはまた後々。)

でした。その点、目的は既に達成されているので、こちらとしては、後は可愛く可愛く描いてあげるだけです。



シリアスめな展開にちょっと似つかわしくない後書きでしたね。失礼しました。消して欲しいという要望があれば削除します。

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