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072 誰?

『さあ! 試合数が増えることで準備時間が長くなってしまいましたが、ようやく準備が完了したようです!』

「っ……時間切れか。仕方ないね。君の正体についてはまた今度、という事にさせて貰おうか」

「はっ」

「ではノブレス、リーダーは私で異論ありませんか?」

「もちろんですとも、ウィズィ様。差し出がましい口を挟んだこと、お許しください」


 待機場所にも聞こえてきた準備完了を知らせる声で一旦議論は終わり、追求からは逃れられたようだ。今日は運がいい日かもしれないな。

 議論に途中から混ざっていた双子姉妹が、鼻息荒く後ろに下がる。この一週間ほとんど私的な会話を聞いてこなかったから、関係性が全くわからん。爽やかイケメンの信者なのだろうか?


 と、そんな俺の頭の中など関係なしに、状況は進んでいく。


『観戦席の大画面に映される試合はランダムですが、貴賓席と団体席では試合を選択して見ることが出来るので、活用してくだされば幸いです。これは今回から可能になった機能なのですが、当学院の魔道具担当教員が徹夜して作り上げた代物ですので……』

『おお、最新鋭の技術を投入されている、ということですね! ゆくゆくは、全ての観戦席に備えられることになるかもしれませんね! 実に楽しみです!』

『ではではさっそくですが……第2試合を始めましょう!まずは10分の作戦フェーズです。5秒前からカウントダウンです、いきますよ~!!!』


 頭上から響く声が、すぐに始まると教えてくる。と、ウィズィが近寄ってきて小声で話しかけてきた。


「ユーリさん、すみません。庇いきれなくて」

「え、別に謝らなくていいよ。お前と一緒に居て目立ってないなんて思い込むほど呑気じゃないさ」

「……うーん。不必要にへりくだり過ぎでしょうか? 父上──現当主から、必ず怒らせるなと強く言われているのもありますが……」

「へぇ、やっぱそういうのがあるんだな」

「そりゃそうですよ。なんと言っても……っと、ここでは皆に聞こえてしまいますね」

「いや、聞こえるような距離とボリュームじゃ……いや、スキルがあるか」


 この世界に来てそれなりの時間が経つが、非戦闘時にはどうしてもスキルという存在を忘れてしまいがちだ。意識してもなかなかどうして忘れてしまう。地球から出てきたおのぼりさんの悪いとこだな。

 しかし、ウィズィが言いたいのはそこじゃなかったようだ。


「それもありますが……ふふ、貴族というのは地獄耳なんですよ?」

「……ふむ。覚えておこう」

『いーーち!!!ぜろー!!!!』


 土壁が地面へ沈み、壁を隔てて待機していた他クラスの顔が見えるようになった。祭りの始まりだな。楽しんでいこう!




 ༅




 作戦フェーズが終わり一斉に始まった試合を観ながら、2人の男女が話している。

 男は簡素な身なり。エリフィンではなかなか見ない服装でアクセサリーも付けていないが、服の質はそれなりに高い物のようだ。腰にはひと振りの刀。鞘からは質の高さが感じられないが、果たして刀身はどうだろうか。

 対する女はどこかの学生服を着ており、片耳に輝くイヤリングがとても目立っている。金色のそれは服装からは少し浮いている印象を与えるかもしれないが、明るい茶髪という彼女の髪色とマッチしているためか、不格好に感じる人は少ないだろう。また、男とは違って、武器らしきものは見当たらない。


「ザコとぼちぼちやる奴がほとんど……あいつはまあまあ。本校舎組……って言うんだっけ? まあまあやれるのはそいつらかな。にしてもアクセサリー多すぎだろ。貴族こわ」

「……しらな~い」

「……なあ、まだ拗ねてるのか? アレはほんと悪かったって。帰りになんか奢るからそろそろ許してくれないか?」

「ふ~んだ! いっつも私の言うこと聞いてくれないんだから! それにいっつも適当に奢ってごまかすんだから! 今日はもう騙されない!」

「頼むよ(とがめ)……そうだな、フランドールのテシーケーキを買ってやるから!」

「え! ほんとう!? さすが! 優しい!じゃあついでにエメリータルトとウォンズティーも買ってね!」

「分かった、分かったよ……」


 2人は随分と仲がいいようだ。ただ、女が追加で頼んだ二つはかなり財布に響くようだ。男はまゆをしかめて頭を抱えている。


「あ、見て見て! あの子すごいよ!」

「うん? おお、ユニークスキル……いや、ユニーク魔法だな。他人が使った魔法をコピーする感じか?」

「うーん、見た感じちょっと威力下がってるね! でもその分連射性能に振ってる感じかな? 最初の詠唱の後ずっと効果続いてるし、集団戦だと強そうだね~」

「多分、1回の詠唱で1つの魔法をコピーし続ける、別の魔法をコピーしたい時は詠唱しなおすくらいの縛りはありそうだ」

「あの子含んだ複数人で襲われたらどうする? やられちゃうかな?」

「何言ってんだ、(とがめ)なら封殺できるだろ」

「違うよ、震舌(しんぜつ)が襲われたらの話だってば!」

「それこそ何言ってんだ、だよ。あんな()()()な魔法、どんなミスをしても1発すら当たらねぇさ」

「なにそれ、可愛げなーい!」


 と、2人が楽しげに話しているところに声をかけてくる男が2人。ユーリが見れば「テンプレだ!チャラ男だ!」と感動しそうな格好をしている。


「よお、ネーチャン。ずいぶん楽しそうだな、俺たちともっと楽しいことしないか?」

「そーそー、そんな冴えない奴ほっといて俺たちと遊ぼうぜ!」

「……え、いきなり何? ていうかいま震舌くんをバカにした? したよね? 『偽金貨の譲り合い(フェイクトレード)』」

「おいバカッ!」


 (とがめ)と呼ばれた女が小さく呟くと、男達はまるでよくできた彫像のように動かなくなる。まばたきもせず、呼吸をしているかすらも怪しい。


「馬鹿たれ……()()()2枚も使って何やってんだよ。さっさと解除しろ」

「でも! コイツらが!」

「いいから速くしろ。騒ぎになったら面倒だ」

「むぅ……わかったよぉ」


 少女が渋々頷くと、唐突に男たちが動き出す。目がかなり乾燥したようで、身体機能によって涙が溢れている。きっと、怖くて泣いたわけではないだろう。……彼らの名誉のためにそう思うのが優しさだろう。


「……クソッ! マジでお前ら何なんだよ!」

「いいからはよどっか行け。コイツは抑えとくから」

「……ああクソ! 行くぞ!」

「ねぇ~、アイツら逃げちゃうよ? いいの? 私は良くないけど」

「いいの。俺は休憩に来てるのであって喧嘩に来てるわけじゃないの」


 結局、男が更に追加でスイーツを買う約束をする事で落ち着いたらしい。彼の財布の中身は殉職した。

評価お願いします。


タイトルに初めて記号が入りました。これからも時々やるつもりです。また、「・」は文字数にカウントしない感じで行くつもりです。「炎・氷」で2文字、みたいな。苦肉の策? その通りです。


また、心配しなくても試合の様子はちゃんと描写しますよ。もう077まで書き進めているので、ほぼ確定です。


あと、震舌くんと咎ちゃんは付き合ってません。

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