071 議論
長くなってしまいました。今までの2ページ分くらいあります。
初登場人物がたくさんいますが、ここで覚え切る必要はまったくありません。なんかわちゃわちゃやってんな、とだけ覚えてくだされば十分です。
『けっちゃぁぁぁぁく!!! 30分の時間切れにより、残った人数で勝利判定が行われます! 今回は集計するまでもなく私から言わせていただきましょう!!!勝者は修学部2年チィィィィィィム!!!!』
『まさに力と力のぶつかり合い。属性優位を覆すような劇的展開こそありませんでしたが、どちらも力を出し切った良い戦いでした! 2年生とは思えない高レベルな魔法の応酬から、どれだけ予習しているのかも窺うことができました、教師としても嬉しくなってしまいましたよ』
『私は高等部から入ったんですけど、2年次の時あんなに強くなかったので! 不安になっちゃった人は安心していいですよ~!』
『励まし方はどうかと思いますが……本校舎組もいますからね。ミミさんの言う通り、心配はご無用ですよ? 2年次生のレベルが高かったので、ややこしい言い方になっていましたね、申し訳ない』
実況解説の声が響く。次は俺たちの出番だな。だがその前に。
突然だがこの学校のシステムについて少し説明しておこう。解説で出てきた〇年生と〇年次生には、明確な違いがあるのだ。
この学院に入学する際、初等部・中等部・高等部・修学部を選んで入ることができ、基本的には年齢が若い順に初等部から選択することになる。そうして入学すると、1年次生として専用の校舎で学ぶことになる。
1年が経過し学年が上がると、2年次生として別の専用校舎に移動して過ごすことになり、それぞれ初等部2年、中等部2年……と呼ばれるようになる。
3年次生も同じだ。
そして、ややこしいのがここからだ。3年が経過した生徒たちは「本校舎」と呼ばれる校舎に移り、学んでいくことになる。初等部として3年学んだ者は本校舎の中等部として更に3年、中等部だった者は高等部に上がって更に3年と、より深い部分を学んでいくことになる。
こう聞くと、本校舎の人数は千人を余裕で超えていそうに感じるが、案外そう多くはない。なぜなら、本校舎に上がる前に「卒業」する者が大半だからだ。特に、高等部に入学して修学部に上がる者は極端に少ないらしい。
それは、最初の3年で基本的な部分は終わらせているから。初等部は例外で本校舎は中等部が最も多いらしいが、それは置いといて。魔法を覚えた者の登竜門とも呼ぶべきエリゼ魔道学院で3年学べば、それなり(当人の意欲にもよる)の魔法の腕と、かなりの箔が付く。
噂によれば、高等部から本校舎修学部に上がった者は9割が平民で、残りの1割の貴族もすぐに辞めていくことになるらしい。
つまりは、2年生と呼ぶ時は、2年次生+本校舎の2年生全員を指す。単に2年次生と呼ぶ時は、入学してから2年目の人達だけを指しているってことだ。
さっきの解説では、高等部2年生にしてはすごい、というようなことを言っていたが、あれは多分2年次生のことを指してた、はしょった言い方だと思う。多分、言い方的にね。
高等部2年生には、中等部含めて4年間、初等部も含めたら7年も学んだ奴が混じってる訳だからな。
それに対して、今回のルールでは修学部2年生チームは2年次生のみ。本校舎修学部生は別のチームになっているから、2年学んだ奴ら50人のみで高等部2年連合とやり合って勝ったってことだ。とてつもないな。
これが分かれば、この学院で学年のややこしい呼び方は大体マスターしたと言っていいだろう。留年生のことは……置いておこう……
༅
「高等部1年次生はこっちだ! さすがに担任の顔を忘れた奴はおらんだろう! 私についてこぉい!」
クオーラ先生のテンションがおかしい事になっている。普段から高いが、今日は天元突破している。また後でエナドリ的ポーションセットを差し入れに行こう……
「入室申請!」
『魔力認証。確認。許可します』
「私は入らないから、こっちから順番に入っていけ! 前のヤツを押したりするなよ! ……よし、それじゃ、楽しんでこい! あそうだ、作戦フェーズで壁が無くなる時、危ないからトロい奴は壁から離れておくんだぞ!」
「「「はい」」」
「「「は~い」」」
「入室完了!」
『確認しました。入口を閉じます、近くにいる人は危険なので離れてください』
生徒のバラバラの返事を気分よく聞いたクオーラ先生は、宣言通り中に入ってはこなかった。
クオーラ先生の言葉に反応して土壁の入口が閉じられる。魔道具なのか、教師陣のスキルなのか分からないけど複雑なところまで設定できるんだな。少なくとも『魔力創造主』じゃ無理なレベルだ。
……いやどうだろう、部屋の造り自体は簡単だからシステムの方を集中的にイメージすれば案外いけるかもしれんな。
そんなことを考えていると、クラスメイトが鋭い口調で口を開く。この1週間で俺が名前と顔を覚えられたのはウィズィとフロースだけだ。もちろん、こいつの名前は知らない。
「先に言っておく。俺はお前らと協力するつもりは無い」
「……どういうことでしょう、ベル・イニティさん? 貴族である私が足でまといだとでも?」
「突っかかるなよ、リティア・ロンダール。そんなつもりは無い。俺の実力はこの中では1番下だろう」
「では?」
「アンタらと動けば目立ちすぎる。俺はさっさとリザインして抜けさせてもらう。後でネチネチ言われても面倒だからな、それだけ理解してくれればいい」
「……私としては別に構いませんが。孤高であるのもまた、貴族の在り方でしょう」
早々に離脱宣言した男と金髪ツインテのお嬢様の言い合いが終わると、また別の奴が口を開く。
「私たちは同じクラスの生徒です。私は共に戦いたいと思っておりますが、仲良くして頂けないのでしょうか……?」
「俺は居ないものと思ってくれ。そうしてくれた方が俺としても楽で助かる」
「残念です。同年代の仲間、というものに憧れておりましたのに……」
「ナノア、そんな奴ほっときなって。やる気の無い奴はどうせすぐSクラスから落ちていくんだしさ」
「そんな悲しいこと、考えたくもありません……」
……うーむ、貴族にもやっぱ色んな奴がいるんだなぁ。離脱宣言した奴も、厨二病とかではなく本心でそう思ってそうだし、聖女ですか?って聞きたくなるくらい柔らかい雰囲気の美少女さんもいる。バラエティに富んでるなぁ。
俺みたいな一般人には肩身が狭いところだ……ん?いやいや、さすがにこれは冗談だよ。
「みなさん、ひとまず落ち着きましょうか。……よろしいですか? 我々はSクラスですから、他のクラスを引っ張ることにもなるでしょう。なので、ここで先にリーダーを決めておきませんか?」
話が一段落したところに、ウィズィが手を叩いて話し始めた。
自分の話はもう終わったと判断したのか、先程離脱宣言をしたベルくんは壁に寄りかかって目を閉じた。やっぱり厨二病なのかもしれん。
「ウィズィ様。そのお役目、是非ともあなたに務めていただきたく存じます」
「右に同じですわ」
「……私も同じく」
「ツァルツァさん。リティアさんに、ラウルも。ありがとう。そうですね、異存なければ私が……」
「あれ、誰も出ないの? それじゃあ僕が反対側に回ろうかな」
短いやり取りでリーダーが決まりかけたところに割って入ったのは、明るい茶髪をした高身長の男。180センチ近くありそうだ。整った顔に、明るそうな顔。そして、周りと比べると少し質の落ちそうな装飾。少なくとも、ウィズィと同じ公爵ではなさそうだ。
「……ノブレス。貴方はそう言うと思っていましたよ」
「おや、そうかい? 公爵様に性格まで把握されてるとは、僕も捨てたもんじゃないかな?」
「有名ですからね、貴方は。ユニークスキル持ちの家系ですし、なによりその性格が厄介。無意味に場を引っ掻き回し、無用な混乱を生む……そして、全てが終わったあとにそれが重大な意味を持っていたと気付かされる。今回も、何か深い意味があるのでしょうか」
「ハハッ、変に期待するのは良してくれよ。議論を長引かせるのも、引っ掻き回しのも、趣味の範疇さ。もちろん、父上もそう認識してるよ」
ウィズィが額を抑えるポーズをする。言葉にこそ出していないが、やれやれといった風情だ。
「それで、どのような対案を?」
「うん。そこの彼……ユーリ君に任せたらいいんじゃないかな?」
「え?」
「はい?」
「ノブレス・レスレック! いい加減になさいな。家柄が足元にも及ばないお前が敬語を使わないどころかウィズィ様に反対意見だなんて……しかも、ウィズィ様より平民の方が良いですって? 手の込んだ被虐欲求かしら? だとしたら私、その思惑通りに手を出してしまいそうだわ」
「硬いこと言うなよ、リティア。まあ、君が貴族に固執していることは知っているけど、俺たちは同じ学院に通う隣人だろう?」
「貴方……勘違いしているのではなくって? この学院は貴賎の別なく受け入れる。それは事実でも、身分の差が無くなったわけではないのよ? ウィズィ様はお優しいから許されるでしょうけど、本来なら罰があってもおかしくないわ!」
突然巻き込まれた俺を置いてけぼりにして、議論は更にヒートアップしていく。
そんなにコミュ強じゃない俺では割り込む隙も見つけられない勢いだ。ウィズィですら、呆気に取られた顔をして固まっている。
「ちょっとリティア! ノブレスの邪魔をしないでくれないかしら」
「私たちはノブレスの発言に信頼を置いているの」
「「家柄にこだわるって言うのなら、私たちの発言も尊重してくれるわよね?」」
「この……オカルト好きの面倒な双子がっ……」
「あら、それってもしかして悪口?」
「驚いたわね、正面向かって口にするなんて」
「「それって貴族としてどうなの?」」
「まあまあ、アルタもベルタも落ち着いて。彼女も別に間違ったことを言ったわけじゃないんだから」
「「貴方がそう言うなら引いておくわね」」
モブだと思っていたクラスメイト達の度重なる発言の連続に、俺の頭は既にパンク寸前だった。仕方ない、顔と性格を覚えるのは一旦諦めよう。
……これ、やっぱ俺が拒否するのが1番簡単に収まるんだろうなぁ……嫌だなぁ……
「……下賎の身ながら、発言の許しを願います」
「! はい。ウィズィ・ラズダムの名において、この場におけるあらゆる発言の許可を与えましょう」
跪いてからの俺の発言で場は急に静まり返り、視線が集まる。……いや、それでも数人はこっちを見てくれなかったけど、それはまぁ置いておこう。
ウィズィがすぐに話を合わせてくれたので、とにかく場を収めることに尽力する事にした。
「ありがたく存じます。……ノブレス様よりご指名いただいたユーリです。Sクラスのリーダー、この場限りとはいえ……大変恐縮ですが、私では身に余る大役。能力も、身分も、到底及ばないでしょう。また、下賎の身ながら高貴たる皆様を率いるなど、私の精神には荷が重いものでございます。何卒、ご容赦下されば幸いです」
数拍、沈黙が続いたがそれもすぐに破られる。口論に参加していた金髪ツインテお嬢様によるものだった。
俺が辞退を願い出たことで、心做しか、お嬢様の口角が少し上がっているように見える。ポーカーフェイスができないお嬢様とはね。可愛いポイント1点!
「これで解決ね、ノブレス。本人が引いたのですから。そこの双子の首を掴んで下がりなさいな」
「うーん……ウィズィ様が仲良くしてる人だよ? 身分も能力も無いというなら、なぜウィズィ様に構ってもらえるのかな? それについてはどう考えているか、おきかせ寝返るかな、リティア嬢」
「どうもこうも無いわ。平民のことなど知りたくもない」
「おやおや、相変わらずだな……では仕方ない、本人に聞くとしようか」
爽やかイケメンがこっちに向き直る。やめてくれー、巻き込まないでくれー。大人しくしといてくれー。
そんな諦めが滲む棒読みの願いも虚しく、質問が投げかけられた。
「それで、結局君は何者なんだい? 迅速に答えたまえよ、ユーリくん?」
評価を押してくだされば幸いです。
いつも通りなるべく2000文字くらいでペース良く進めようとはしていたんですが、会話が途切れなくて……。申し訳ないです。
次話からは元の文量に戻せるようがんばります。




