068 報告
「これで最後かな。後で一応、ギルドで確認しとこう」
外はすでに暗闇が侵食してきている。スラム街には明かりがほとんどないが、そのせいで余計に歓楽街の明かりが存在感を放っている。
黒豹のアジトは、事前にドローンやアゲハと調べたところは潰し終わった。ハズレも3つほどあったが。
シグ達と別れた後、書類を(兵士さん達が)漁って証拠になるものを発見できたようなので、残党狩りに移行した。子供たちが囚われ、貴族に卸す順番待ちになっている状況は、吐き気を催した。
ただ、攫われていた子供の人数はそれほど多くなかった。アジト全てを合計しても3人。分散して捕らえておく意味があるのかと思わなくもない。
その3人を『鑑定』して気付いたが、全員魔法スキルを持っていた。ミーシャのように『発展属性魔法』ではなかったが、ミーシャが狙われた理由は魔法スキルを持っているからで間違いなさそうだった。
༅
「……ああ。任せるよ」
「ええ、お任せ下さい。わざわざお越しくださってありがとうございました」
「資料、俺は中見てないんだけどちゃんと追い詰められそう?」
「ええ。しらばっくれても逃れきれないだけの内容でした。黒豹の上位兵2人がどこにいるか分かりませんから、万全を期してから追い詰めにかかりますね」
「ああ。タイミングはそっちに任せるよ。口を出すつもりは無いから」
話し相手はウィズィ。そしてここは、ウィズィの家--つまり、ラズダム公爵家のお屋敷だ。黒豹の顛末についての報告と、着いてきてくれた兵士の昇給をそれとなく伝えるために来ていた。
「それで……その3人組というのは、ユーリさんと親しい方々なのですか?」
「うん? そうだなぁ……親しくはないと思うよ。顔見知りってのが、1番しっくりくるかな」
「黒豹の上位兵を、3対1とはいえ汗もかかず迅速に倒せるほどの実力者……できれば、適当な依頼を投げて繋がっておきたいところですね」
「……別に止めもしないし協力もしないけど、あいつらはあいつらで何かしっかりとした目的があるみたいだったから、もしかしたら断られるかもな」
「おや、そうですか。それでは、今動くのは得策ではないですね。またの機会ということにしましょう」
「それがいいよ」
何が目的かは予想も付かないが、目的の為なら金貨を払ってでも決闘をするような連中だ。関わらない方がいい。……うわー、これフラグっぽい……
「確か、数日後の……来週の風の日は学年対抗戦でしたね。遅くともそれには間に合わせるようにします」
「はいよ。あ、そういや学年対抗戦ってどんな感じなの?」
「あれ、ご存知無かったのですか。珍しいですね。では、ご説明致しましょう。いいですか、学年対抗戦とは──」
ウィズィの説明によれば、学年対抗戦というのは、1種のお祭りらしい。この国には競い合えるような大きい学校が他に無い。そのため、内輪で競争心を煽る催しを定期的に開くのだという。
学年対抗戦は、年に2回。年度の初めに、新入生に上級生の強さやカッコ良さを間近に見せ、憧れを抱かせる。どちらかというとオリエンテーションの意味合いが強いのが1回目。年度の終わりに、学んだことを全てぶつける本気の戦いで、順位付けもするガチンコの試合が2回目なのだそうだ。
それとは別に、「魔導大祭」という学院祭とか、王宮の中を見学できる催しとか、他国の学園と交流があったりもするらしい。俺が調査不足なのは事実なんだが、あの教師も説明しなさすぎだろ。
それにどうやら、学年対抗戦や「魔導大祭」には国王が視察に来るらしい。なんでも、国王が理事長であるというぶっ飛んだ事実があるからこそなのだという。そういや、何かの本で読んだなそれ。学院を作った初代国王を引き継いでここまで来ているんだったか。
「エリゼ魔道学院に入るものにとっては常識と言っても過言ではない内容ですから、おそらくあの教師の方も最低限の説明で済ませたのでしょう。それにしても、杜撰な態度ではありますが……」
「良かったよ。ウィズィから見てもその感想なら、俺がおかしいって訳じゃなさそうだ」
「……おっと、学年対抗戦のことを聞かれたのに少し話がズレてしまいましたね。最低限の内容についてだけ話しておきましょう」
「頼む」
曰く。学年対抗戦は、主に2つのイベントを総称してそう呼ぶ。団体戦と、個人戦の2つだ。午前が団体戦、午後が個人戦。校舎や校庭、体育館なんかとは別に存在する、特別な場所で行われるそれは、超大がかりなものらしい。
現在の在校生は総数2000オーバー。そのうち、年齢を鑑みて参加出来ない初等部の生徒を除いたたくさんの生徒が参加するのだ。在校生が2000人とか、控えめに言っておかしい。……でも、各国からこの学院のためにたくさんの人が来るって言ってたし、おかしくはないのか?
「年度始めの学年対抗戦は、各部活動や委員会などのコミュニティが新入生を見初める場でもありますから、在校生より新入生の方が気合いが入るものらしいですよ?」
「部活動に委員会かぁ。やっぱそういうのもあるんだな。入った直後の勧誘とか無かったから、疑問に思ってたんだよな」
「ああ、なるほど。風紀委員と生徒会の取り決めで、年度始めの学年対抗戦までは勧誘禁止と厳しく決められているらしいです。特に、今の生徒会長はNo.1。序列一位の方ですから、どんなに反抗心のある方でも従っている状況のようです」
「そりゃ面白いな」
序列か……それが学年対抗戦で決まってる感じかな、順位付けがあるって説明してたし。ゲームのランキングみたいで割と好きなシステムだ。そういう競い合う雰囲気も、やる気が出て好きだなあ。
「しかし、また来週と別れ際に言ったのに、すぐ会うことになってしまいましたね。少し恥ずかしいです」
「おぉ……可愛げのあるやつだなお主……」
「……はい?」
同じ状況の反応でも、シグよりウィズィの方が寛大な心で微笑みたくなる。これが可愛げというものだよ、シグくん。大衆に好かれる雰囲気と言う奴だ……っと、適当なこと考えてる場合じゃないな。さっさとエーシャ達のところにもどって報告しよう。ルチルも結界の前で待ってるだろうしな。
「一応、俺の方でもアジトが残ってないかギルドで確認しとくから。もし残ってても適当に潰して、また来週に報告するよ」
「ええ。本当は当主も会いたがっていたのですが、お急ぎのようですから。またの機会があれば、その時にぜひ」
「気を利かせて悪いな、助かるよ。ラノアのことも頼む。じゃあまた来週に」
「ええ、任されました。今度こそ、良い週末を」
ウィズィの屋敷を、兵士に見つめられながら出る。ラノア──黒豹のアジトで戦った人体実験の被験者は、結局未だ目覚めていない。そして、療養に関する人材も施設も充実しているウィズィに任せることになったのだ。もちろん、目覚めた時に襲われる危険性も伝えておいた。
そこから拠点へ帰る足取りは、心做しか軽いものだった。それは、ひと仕事終えた達成感からか、数人の子供を救えた喜びからか。それとも、晩ご飯にようやくありつけるという安堵からか。
本人のみぞ知るところだ。
物語としては動きがありません。申し訳ない。
顛末とゴタゴタが片付いたことでユーリで喜んでんな、ということだけ把握してもらえれば幸いです
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