006 森
001〜005まで、細部を書き直したり付け加えたりしました。006以降でも、読み直して気になった部分は逐次加筆します。
目の前には木。左を向いたら変な虫が飛んでる。右を向いたらウサギのバケモノ。目が真っ赤で分かりやすい長い角がある。ワーオ、絶体絶命☆
「いやぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
「キュイッ!キュ!!キュッ!!」
やばいやばいやばい、状況整理もさせてくれないのかよ!! ここが森だってことしか分からん!!! あとウサギに追われてる!!!
とにかく走る、走る。森の移動には慣れてないから、ただひたすら足もとに気を付ける。転んだら死だ。多分。
全力疾走を始めて何分経っただろうか。元運動部とはいえ体力にはあまり自信がない。3分も経ってないんじゃないか? そろそろ限界になりそうな時、突然開けた場所に出た。変わらず森の中ではあるが……
ん? あれは……
༅
「キュッ?キュキュイッ?キュウ…………」
……やり過ごせた、ようだな。ギリギリだった。
小学生以来木登りなんかしたことなかったが、やたらでこぼこした木があって助かったよ。汗で手が滑った時はもうだめかと思った。つーかウサギの鳴き声はぷぅじゃねぇのかよ。
全力疾走の直後に息を潜めたせいで余計にめちゃくちゃ息が荒れてるが……生き延びた。
幸運を噛み締めていると、違和感に気付いた。
『あのウサギは視野が狭い。だから、物陰に隠れたり視界から外れる動きが有効。前方への跳躍突進が脅威だが、角の向いている方に進むため構えていれば避けることは難しくない。上へ跳ぶことが苦手。そして、あのウサギの名前は「一角兎」。』
知っているはずのない事実が頭に浮かんでくる。無意識的に、この情報を元にした逃げ方をして、俺は生き延びた。てことは、これは正しい情報……
落ち着こう。情報の整理が必要だ。まずこの場所は安全か?
俺がいるのは割と太い枝の上だ。この木自体が魔物、という様子はないな。俺の頭に浮かぶ情報には、木に化ける魔物はいるがダンジョンにしか出現しない、とある。同じ高さに飛行してる魔物も見当たらないし、枝が太いから地上からの直線の攻撃は通らない。ひとまずは安全か。
最悪一晩ここで明かせるが、枝から落ちるリスク、夜行性の魔物に襲われるリスク、そして疲労が抜けなかったり、溜まったりするリスクがある。
……この頭に浮かぶ情報は、おそらく神が与えるとか言ってた「知識」とやらだな。心当たりが他にないし。この知識がすべて正しいかは、また検証が必要だな。
そして、だ。この「知識」は割と面倒なシステムっぽい。知りたい、といちいち思わないと情報を引き出せないんだ。検索ワードが分からなかったり、何を知りたいのか分からない、って状況だと無意味ってことだな。
兎の情報が手に入ったのは、おそらく心の中で“一体なんなんだアイツは!” とか思ってたから頭に情報が浮かんできたんだろう。
にしても、神の野郎…わざとか知らないが全てに粗が目立つぞ。転移場所もこんな森だし、スキルの説明もないし。「合格」した俺がこんなスタートじゃ、他の奴らはどうなってるやら……
とにかくとりあえず、この「知識」から基本情報を引き出していこう。
༅ 10分後 ༅
パッと思い付く欲しい情報は得られた。そして、欠陥も分かった。とにかく基本的なことしか分からないんだ。俺が今いる場所もわからなかった。
だが、かなり大事なことも分かった。そのひとつが…
「『鑑定』!」
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○status
・基本情報
名前 黒野祐里
種族 人族
年齢 17
性別 男
・個体値
LV:1
MP:50/50
STR(攻撃):5
VIT(耐久):12
INT(知恵):17
AGI(敏捷):5
DEX(器用さ):7
LUC(運):10
・スキル
ベーススキル:
オリジンスキル:
ギフトスキル:『魔力創造主』『知識庫』『鑑定』
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このステータスだ。目の前に半透明の板のようなものが現れ、そこに、俺についての情報が書かれている。俺が触ることはできるが、掴んで木にぶつけようとしてもすり抜ける。盾にはできないようだ。
ステータスの内容は、まんまゲームみたいだな。STRなんかの表示が特にそう。変わっているところは、HP(ヒットポイント、体力)やSPの表示が無いところか。MPはあるんだがな。
そして、このステータスは、各項目をタップして詳しい内容を表示できた。以下の通りだ。
ベーススキル:
自力で習得するもの、環境によって習得するもの、魔導書によって習得するもの、オーブによって習得するもの、伝授によって習得するものなどを含んだ、基本的なスキル。
オリジンスキル:
根源から得るスキル。根源が、表層にスキルとして発現したものも含む。基本的に同じオリジンスキルを持つ者はいない。
ギフトスキル:
神から与えられたスキル。加護も含む。
『魔力創造主』:
魔力を消費して物質を創造する。レアリティ・クオリティは魔力の消費量で変化する。
『知識庫』:
神より与えられた知識。得られるのは基本的な情報のみ。得られる情報を選んだのは下級天使の独断と偏見である。その中から望んだ情報を引き出すことができる。途中で情報が追加される可能性がある。
『鑑定』:
目視した事象についての情報を得ることが出来る。意識することで知りたいことのみを知ることもできる。
スキルの分類については、まだなんとなくしか分からんな。オリジンスキルがかなり特殊だってことだけは理解したよ。
ギフトスキルだが、『魔力創造主』ってのが、俺が望んだ合格特典だろう。かなりチートくさいけど、「魔力の消費量で変化する」って部分がかなり気になる。初期ステータスで使えるかどうか。そこが問題だ。
そして、神の言っていた、「ある程度の知識と、それを得る手段は与える。」ってのが完全に残りの2つのスキルのことだな。この『鑑定』で今いる場所が分かるんじゃないか?
……なるほど。ステータスを見た時みたいに、発声がスキルの基本的な発動法か。……へえ?慣れれば発声しなくても使えるんだ。サンキュー『知識庫』。
「『鑑定』! おお!『シューケッツの森』?……ふむ、……ふむ。なるほど?え?これだけ?」
今いる森の名前は分かった。周囲のマップも下に付いてる。一面緑だけど。でもそれだけ。残念な結果と言わざるを得ない。
まあそれでも、今日中に森から出るのは無理そうってのは分かったしいいか。よし、次!
『魔力創造主』の説明文に書いてる魔力ってのは、ステータスのMPと同じものなんだろうか。とにかく、俺が神に望んだ内容からして、このスキルで地球の食料を手に入れられるんだろう。やってみよう。
「『魔力創造主』……うっ」
発声が終わると同時に体から何かが抜けていく感覚があり、驚いて手を引っ込めてしまった。くすぐったいような、気持ち悪いような、そんな感じだった。
おそらく、魔力だな。いや、MPか?違いが分かんないけど。そして……ご飯を作るのは失敗だ。失敗しても何も起こらないんだな。
だが、発動と同時になぜか理解した。どうやらイメージが足りなかったようだ。そうだ、ステータスはどうなってるかな?
「『鑑定』」
ふむ。MPの表示が「10/50」になってる。ひとまず魔力とMPは同じと考えるとして、だ。危なかったな。MPが切れると気絶する、という設定の小説を読んだことがある。
俺の今の感覚からしてMPが0になっても気絶はしないだろうが、かなり体がダルくなっていただろう。
あんまり小説の知識を信じるのも怖いか、これにも気を付けていきたい。
そういや、ステータスを鑑定するのにMPの消費は無かったな。鑑定がチートってパターン……ありそう……
ふと、自分の顔がにやけていることに気付く。検証に夢中になってあまり意識していなかったが、テンション上がっちゃってる。心拍数が上がってたのはウサギから逃げてたせいだけじゃないようだ。
「楽しいじゃないの、神さんよ」
あ〜あ。口調どうしたんだよ俺。独り言なんてめっちゃ痛いヤツじゃん。1人でよかった〜。
そんなことを思いながら、MPの自然回復を待つ俺であった。
(鑑定はチートじゃ)ないです。