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双世界の軌跡 〜クラスメイトと異世界転移したんだけど、めちゃくちゃ強くなったし地球に戻らなくてもよくないか? ~  作者: 楪 叶命
第2章 豹は虎の尾を踏み、虎は人々の怒りを買う

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066 落日

 だいぶ前に『思考加速』がレベルmaxになり、スキルが進化して手に入れた『高速思考』の中で、落ち着いて考える。

 明らかに、『魔道』・【天道】の効果は既に切れている。でも、それはおかしい。まだ戦い続けられるように魔力を込めていたし、スキル継続のために今も体に魔力を流して……あれ? なんでスキル使ってないのに魔力が消費されてるんだ?


「『簡易鑑定』」


 ───────────────────────

 〜ステータス〜


 名前:黒野祐里/ユーリ

 性別:男

 年齢:17

 職業:無

 レベル:183

 HP:16310/16352

 MP:26851/46537

 ────────────────────────


 MPが2万も吸われとるやないかい!? クソッ! これがこいつのオリジン『落日』か!?


「『水集え、(ぎょく)を為して飛べ!』第二位階【水弾】!」


 少年に向かって飛び出した水の塊は、進むにつれて急激に小さくなり、1メートル手前で完全に消えてしまった。

 最初に結界が破られた時は剣が当たった場所から解けるように突破された。多分あれが『魔力吸収』で今のこれが『落日』……このままここにいるのはまずい、一気に魔力を取られすぎると魔力欠乏で悪影響が出る……殺すか?


 本当に? 殺せるのか? 俺が子供を?


 ……ああ、そうだよな。何も知らない、分からない子供のうちに、抗いようのない不幸に襲われるなんて。理不尽だよな。分かるよ。


 そんなもん、潰してやるから。待っててくれ。




 ༅




 Sランク冒険者であるユーリ様が部屋の中に入ってすぐ。あまりにも濃密で吐き気が込み上げてくるような魔力が漂ってきた。その中で戦闘している音も、部屋の外まで聞こえていた。

 だが途中から、魔力がただ漏れ出してくるだけではなくなった。私たちの魔力が奪われだしたのだ。気付いた時にはもう遅かった。我々、公爵家直属の兵は5人ともがほぼ同時に倒れてしまっていた。1人は膝を付く余裕すらなく倒れ込んだが、それ以外の4人にも彼を心配する余裕などなかった。


 ああ、2日前ウィズィ様から直々にお話を頂いた時には、Sランク冒険者という伝説に会えるのだと喜んで立候補したが。……所詮私は、数度の戦いを見届ける資格すら持ち合わせていない、凡人だったのだ。

 今、仮に後ろから襲われたらどうなる? 抵抗もまともに出来ないだろう。全て、彼一人に任せて我々は待機しておくのが正解だったのだろうか。




 それから、数分もしないうちに、扉は開かれた。私が気を失う寸前、辛うじて見えた彼の顔は酷く歪んでいて、Sランクであっても、ああ、やはり人間なのだなと、そう思った。




 ༅




 スキル『落日』によって際限なく魔力を吸収し続けていた少年──ラ、ライア……だっけ。『鑑定』。ラノアか。その子に近付けば近付くほど、吸収の力は強くなるようだ。

 さすがにおかしいと俺も気付いた。2万以上の魔力を吸収して、たった3レベルの人間が耐えられるはずがないと。しかし、この子は生きている。であれば、考えられる可能性は1つ。


 おそらく、吸収した魔力がそのまま排出されているのだ。『気配感知』でうまく()()なかったのは、排出した魔力で妨害されていたからだろう。

 どう考えても、人体実験のせいで体内の魔力に関する器官がおかしくなっている。ステータスに色々書いてるのはそれだろう。……想像の3倍は酷い実験のようだ。


 たとえ「死神」という称号がつくほどに人を殺していたとしても、恐らくだがこの子自身に罪は無い。称号の順番が、「死神」の方が後になってるし。


 俺は、魔力中毒と魔力欠乏の同時発症を抑える方法を知らない。ミーシャの時は、治療院の先生に任せっきりだったし治療の現場を見せても貰えなかった。だが、救う可能性は一つだけ残っている。

 つい昨日使ったばかりだからな。もっと速く思い出すべきだった、あの奇跡の薬を。しかも都合良く、魔力酔いにはなりづらいときたもんだ。


「ふぅ……頼むぞ、『魔力創造主(マジックメイカー)』」


 パッシブスキルじゃないくせに、恐らく自動で発動している『落日』で俺の魔力が無くなってしまう前に、ありったけの魔力を注ぐ。注ぐ。注ぎ続ける。──そう難しくはなかった。魔力を奪われながらもエリクサーを創り出すことに成功した。

 創る途中、感覚でこれ以上魔力を注ぐ必要は無いと分かったが、無視した。『落日』によって魔力が奪われた影響で失敗にでもなったら、もう一度創造に挑戦できるほどの魔力は残ってないからな。


 そして、俺が『魔力創造主』で創り出すことができるのは、物質だけ。魔力で創ったからといって、完全に分解・吸収されることはない。……はず。


 慣れ親しんだ魔力欠乏による目眩と吐き気が襲ってくる。しかし、創ったエリクサーを飲ませるまでが仕事。帰るまでが遠足だ。創り出したエリクサーも、完全に魔力として吸収されることはないにしても、魔力を含んでいるのは事実。吸収される前に一瞬で終わらせよう。


「ミライの……時間ダ…………イシズえに……」

「っ……」


 すまない。力不足の俺では、これ以外に思い付かないんだ。すぐ回復する、許してくれ。


 コア・ネックレスから1本の刀を取り出し、未だに勢いよく短刀を振り回している少年の右手を切り落とす。それ自体は簡単だったが、刀が少年の体に触れる瞬間、刀を通じて何かが吸われる感覚と軽い痛みが襲ってくる。俺の魔力はもう残っていないのに……まさか、MPが無くなったから次はHPか?


 いや、もう終わりなんだ。スキルの考察もしなくていい。すぐにもう片方の手も切り落とし、完全に抵抗されなくしてから一気に近付き、左手で体を抱き寄せてエリクサーを流し込んだ。少年は、流し込まれた液体を拒否することは無かった。



 そうして、奇跡は俺の目の前で再び起こった。切り落とした腕も、ステータスに表記されていた状態異常も。全ては過去の存在だ。チートすぎるだろ。


「『鑑定』……よかった。うまく治ったんだな。さすが……って、え? …………女?」


 胸に目をやる。ステータスを見る。顔を見る。2度同じことを繰り返した後、俺は考えるのをやめた。


「そういや、兵士さん達が……」


 扉を開けると、壁に体をあずけた1人の兵士と目が合った。なぜか、少し驚いたような顔をしていた。

抱かれると予想される疑問と答えを置いておきます。少し長いから興味ない人はスルーで大丈夫です! 評価の方もよろしくお願いします!


Q.『魔力創造主』で全ての魔力を使い切ったのにその後すぐコア・ネックレスから刀を取り出せたのは何故か

A.場に魔素と魔力が充満していたために通常より速くMPが回復したためです。とはいっても、ラノア自身が再び吸収するので、アクセサリーでMP回復速度が上昇しているユーリでも効率は普段の2倍程度です。コア・ネックレスの使用(取り出し)にかかるMPは1なので、それで十分でした。


Q.なんで腕を切り落としたのに足は切らなかったの?

A.足を斬るくらいならさっさと抱き寄せて飲ませるのが1番はやい、と主人公が考えたからです。不必要に傷つけることを嫌ったから、というのも事実ではあります。


Q.エリクサーはなんで吸収されなかったのか

A.『落日』は本来、魔力吸収効果はオマケです。ただ、使い続ける程吸収効果が強くなる+実験の結果魔力を溜め込めなくなった体質のコンボでいろいろおかしくなっていました。一応、他人の魔力を吸い取るのは意図的にコントロールした結果でした。とはいっても、自我はほとんど無かったので「敵を排除しろ」という指示に従ったものですね。

主人公は場に作用するスキル(魔力を)はやめた方がいいと最初に考えたのに、そこの考察を深められずに直感と賭けで結構強引な行動をしました。


Q.レベル差がありすぎるのに、なぜこんなに接戦?

A.体内魔力も奪う『落日』により、身体強化類が機能しなくなったのは当然ですが、この世界のシステム上、HPがある限りステータス(高い身体能力等)は有効です。しかし同時に、魔力によっても身体強化は可能です。すぐに放出しているとはいえ莫大な魔力を常に吸収しているラノアは、その一部の魔力を『身体強化』に流し込み、強大な身体能力を得ています(これによる魔力欠乏の解決は見込めません)。同時に主人公は『身体強化』の類いは『落日』により全て機能していません。

スキル頼りで、ステータス強化のアクセサリーを作ってなかった主人公が悪い。

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