064 魔斧
「風雹雷アリアーチェ。雷装」
ダンジョンでゲットしたこの弓も、久しぶりの出番だ。ずっと『創武器術』ばっかり練習してたからな。でも、能力をそれとなく隠したい時はやはり使いたくなる。かっこいいし。
風雹雷アリアーチェは、風、氷、雷の属性で攻撃できる。変形後の黒炎雨アビストラーチェは、闇、炎、水属性だ。が、炎と氷、そして雷の属性は、一般に発展属性と呼ばれるものである。
闇属性は基本属性ではないが発展属性でもないという、また違った微妙な位置にあるんだが……話がズレたな、とにかく、俺は『発展属性魔法』のスキルをひとつも持っていないのだ。しかし、俺はこの武器を両形態扱うことが出来る。なぜか。各属性魔法のスキルが必要ないからだ。
この武器の使用に必要なのは、各属性の魔力であり、各属性魔法のスキルではないのだ。つまり、属性魔力と属性魔法スキルは、別物。魔力をその属性に変換できるからといって、その属性の魔法スキルが使えるわけではない、ということだ。
しかし、この武器は誰でも扱えるのかというと、そうでもない。魔力を各属性に変換するのは、基本的に各属性魔法のスキルしかないからだ。俺は、以前に大体全部の魔法スキルを取得していた経験があったのと、魔力操作のスキルレベルが高い──魔力操作が上手い、という下地があるからできているだけだ。
うーーーん、ややこしい。
俺が指を離すモーションをしたのと同時に、雷で形作られた矢が瞬きよりも早く敵を撃ち抜く。
雷装は速度が尋常じゃなく速いが威力が低い。そのかわり、痺れて動きを阻害してくれる。
「氷装」
言葉と同時に弓に新たに氷でできた矢が生み出され、冷気が少し漏れ出す。……なんて言ってはいるが、言葉と同時に矢を生成したのは俺なんだけどね。
先程と同じように、指を離す。氷の矢は、貫通力と重さがある。試したことはないが、多分人間には効果的なはずだ。イノシシには効果的だったし。……盗賊を殺した時に試しておくべきだったか。
「終わりました。下に行きましょう」
「……っ!あっ、ああ。了解です」
鑑定能力を期待して創造した『天眼』スキルだが、隠蔽のカウンターを意識して創ったからか、ステータス以外の偽装や隠蔽を看破できるのだ。つまり、『天眼』と『気配感知』を合わせれば見破れないものはない、ということだ。彼らが隠蔽能力で死を偽装している可能性はない。多分。
……いや、『天眼』からも隠蔽できることをイメージして『魔力創造主』を使ったら、その能力も新たに創り出せるんだろうな。絶対やらないけど。
「……ここっすね。偽装してるけど魔力の継ぎ目がある。地下への入り口が……よっ……と、はい。先に降りますね」
地下の気配は動きが止まっている。逃げる準備だけはしといて、迎撃できればそれでよしって感じか。
階段を、ギリギリ姿を見られない所まで降り、鏡を創造して様子を伺う。一瞬で撃ち抜かれたが、囲まれてるのは見えた。……この人達、割と暗殺者向きの能力持ってると思うんだけどなんで真正面から迎撃しようとしてるんだろう……
結界を貼って階段を降りきる。飛んできた針のようなものは全て防げている。
と、黒装束の後ろから斧を持った大男が出てくる。割と高さに余裕がある設計だったのは、コイツのためなのかもしれないな。天井にはいくつか罠が仕込まれてそうな魔力も感じるから気にかけていこう。
「はん、結界使いか。そりゃ下位兵には荷が重いわけだ」
「……あんたがボス?」
「なわきゃねぇだろ。俺は上位兵、レブラス。くだらねぇ正義感で突っ込んでくるアホを潰す仕事をしてるんだが……ところでお前、命乞いでもしてみねぇか?」
「ボスじゃないならいいよ。道を開けてくれ」
「……あぁ? 随分と……大きく出たなぁッ!!!」
片刃の斧が素早く振り下ろされる。それなりに魔力を込めていた結界は容易く切り裂かれ、回避を余儀なくされる。
「魔道具だな」
「もう気付いたか! そうだとも! これは魔斧エスタフルード! 黒豹の集大成ってやつだ! 脳天ぶちまけなァ!!!」
素早く斧を振り回すレブラス。大振りでは当たらないと既に分かっているようだ。
「『創武器術』」
「ッ!」
出し惜しみなく、いつもの動きでいこう。初手は投擲。腕の振り上げと同時にチャクラム──円状の刃物を2枚投擲し、左右への回避を牽制。返す振り下ろしで杭を6本投擲。これは斧を横にして防がれる。
分かっていたことだがこの男、思いのほか強い。
両腕を左に集め、刀を創造して居合一閃。相手の後ろに回る。斧をズラして上手く合わせられた。しかしまだ終わらない。右に切り上げた腕の勢いを殺さず、刀を消してそのまま右手を引き付けながら身を翻し、倒れ込むのと同時に蹴りを入れる。
「っぐ、おおぉぉぉお!!!」
レブラスは蹴りをまともにくらって後ろに仰け反った。もう余裕が無いようなので、このまま追い討ちをかける。
蹴りつけた状態から足を戻し、地面に付けると同時に蹴って後ろへ飛び込みながら、双剣を創造して切りつけ、意識を正面に向かせる。後ろで靴に付けている『空歩』を発動し、再び反転しながら飛び上がり、大斧を創造。相手は振り返ってすらいない。詰みだ。
……練習してきた『創武器術』のいい所を出せた戦いだった。武器を次々に変え、相手が処理できないスピード感、情報量で押し切る。やりたかったコンセプト通りだ。悲しいのは、使えるのが俺一人ってところと、普通にひとつの武器や魔法で戦った方が強いかもしれないってところだな。
邪魔が入らないように、下位兵と呼ばれた人達とウィズィの兵士を隔離していた結界を解除する。下位兵達は仕切りの向こうに蔓延させていた睡眠薬でぐっすり眠っている。
「じゃ、奥のボスっぽい人のところに行きましょうか」
俺の言葉に、仲間であるはずの兵士は身を震わせた。
魔斧エスタフルード……刃の部分から魔力を吸収し、注いだ魔力と共に切れ味を上昇させる。
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