061 贈与
「戻ったぞ~」
「ユーリさん!」
「お腹すいてないかー? お菓子もあるぞ~」
「食べるー!」
エーシャとミーシャの家へ戻ってくると、エーシャが走りよって来た。求められるままに、プチシュークリームをコア・ネックレスから取り出して渡す。
ルチルと話し合って、黒豹の片がつくまではエーシャたちのそばに居ることにしたのだ。
ちなみに、アイテムボックスの役割を持つコア・ネックレスは改良に改良を重ねて容量もかなり大きくなり、内部の時間停止というテンプレ機能までついている。
「もうすぐ外に出られるからもうちょっとだけ我慢してくれよ?」
「我慢したらご飯くれる!?」
「そうだな、胃もある程度強くなっただろうしなにか良さげなものがあるか調べといてやろう」
ルチルは学院の図書館に行ってるんだったな。俺の用事が予想より早く終わったから先に帰ってきたが、暇な時間が長くなりそうだ。
地球にいた頃は、スマホやパソコン、読書やゲームでいくらでも暇を潰せた。こっちの世界に来たばかりの頃は、暇を楽しむこともできたし魔法やスキル、魔物やダンジョンについての考察や調べ物・訓練で無理やり暇を潰すこともできた。しかし、今となっては……読書と訓練しかやることがない。異世界小説のテンプレである、「紙は高価で貴重」が適用されていないのは、幸運だった。
ふむ、こうしてみると案外異世界は肌に合わないのかもしれない。魔法やスキルのある世界、いくらでも楽しんで遊び尽くせると思ったが、『魔力創造主』のおかげでご破算だ。イージーモードと言う奴か。
……ま、それでも地球よりは居心地が良いのは間違いない。向こうはいるだけで罪悪感に心が圧迫されるからな。
さて、やることといったらいつも通り読書か訓練かアイテム創りの3択だな。
……“絶対壊れないトランプ Ver.4”でも創るか。
༅
コンコン、と外から音が聞こえる。扉を叩く音だ。
「ルチルおねーさん!」
と、エーシャが声を上げて扉に駆け寄ろうとするので、肩を掴んで落ち着かせる。
「待て待て、俺が出る」
「っ!……はい」
エーシャは頷いて恭順の意を示すと、後ろに下がった。
俺は扉に近付きながら、屋根の上に待機させている鳥型ドローンの視覚を確認した。金髪、目の色は角度的に見えない、耳はエルフ耳。胸は慎ましい。『気配察知』では魔力で隠蔽している様子はない。ルチルだな。
扉を開けると、ルチルの翡翠色の目と目が合う。
「おかえり」
「ええ。戻ったわ。お腹すいちゃったからご飯にしない?」
「はいよ」
短くやり取りを済ませ、席に着く。エーシャ達は会話の途中で既に座っていた。うーむ、いい動きだ。
「てな訳で、いつものスープとパンです。エーシャ達も、そろそろ別の物食べていいと思うのでおにぎり付きだ。いただきます」
「いただきます」
旅の途中でルチルにも移った挨拶をしている間にも、エーシャ達はすでに食べ始めていた。おにぎりという謎の物体は様子見でまだ触れないようだ。
エーシャ達に聞いたことだが、教会で定期的に炊き出しがあるらしい。孤児院のような施設は無く、治安もよろしくないスラム街にある程度住人が残っているのはそのお陰だろう。エーシャ達以外にも子供がいるらしい。道端に死体が放置されたところはまだ見ていないが、誰か管理しているのだろうか?
……物語だと、ヤクザ系の方々がナワバリにしているってのがあるあるだけど……あれ、これフラグか?
んで、何が言いたいかというと、その炊き出しではクズ野菜と(極小量の)干し肉のスープが配られ、頻度はあまり高くないと言うことだ。何かを口にする頻度が少なく、固形のものを口にしないと胃が弱くなってなんかよく分からんがやばい……らしい。
お察しの通り、地球で得たあっっっっさい知識だ。確かあれは、断食後の話だったはずだが、まあ、何があるか分からないし。備えて悪いことはないだろう。
「あそうだ。ルチル、これあげるよ」
「むぐ……んっ。……え、なに? 怖いんだけど……」
「今日の用事で報酬として貰ったものだ。俺いらないからあげる」
「……? ペンダント? この石、なんか変な感じがするんだけど」
俺が渡したペンダントを手に取ったルチルは、それを訝しげに観察している。ペンダントとルチルの目の色が似ていて絵になっているな。
徐に『鑑定』をかけるが弾かれたようだ。かなり驚いている。
「俺の『鑑定』も弾かれたから落ち込む必要はないよ」
「……結局なんなのこれ? 変なものだったら返すわよ?」
「『鑑定』結果そのまま言うけど、〈精霊石のペンダント〉らしいよ?」
「……はい?」
ルチルの驚き顔も板に付いてきたな。しかし、やっぱり変なものだったか。
『鑑定』が弾かれたと言った直後に『鑑定』結果を伝えるという矛盾は、話し手が俺なせいか疑問を抱かれなかったようだ。
「精霊石? 本当に?」
「まず間違いなく。どうしても信用ならないってんなら、一応手段はあるけど……」
俺のレベルmax『鑑定』は弾かれたが、コンタクトに付与した『天眼』は通ったのだ。『天眼』は隠蔽系を看破できるイメージで付いたスキルだから、見た結果が偽装されている可能性はほぼ0だと思う。
「……いえ、この変な感覚は多分、精霊が集まっている感じなんだと思うわ。言われてみれば、精霊の加護を使った時と似た気配を感じるもの……」
「すごいな、俺じゃあ魔力を纏ってることしか分からないよ。それをくれた人も、『鑑定』できない何かの魔道具みたいだってことしか分かってなかったし」
「多分、実際に精霊の力を借りたことがないと、分からない感覚なんだと思う。というか、ユーリは精霊の加護無しであんな強い魔法が撃ててるのね。驚きだわ」
「ほとんど、魔力量とスキルレベルのゴリ押しだよ。すごいもんじゃないさ。ミーシャみたいに、発展属性魔法を持ってる方がすごいと思うよ」
「それは確かに」
丁度おにぎりにかぶりついたところだったミーシャが目をぱちぱちさせてこちらを見るが、話を振られた訳ではないと分かると再びおにぎりに意識を奪われた。
「それで、そのペンダントの効果は、『精霊の加護』を擬似的に得ることができる、つまり魔力消費が抑えられて魔法の強度が増す。そんで、既に『精霊の加護』を持っていると、効果上昇と大精霊を知覚できるんだってさ。大精霊が何かは知らないけど」
「え、ほんとに!? 嘘でしょ!? 大精霊って、あの大精霊と!?」
「お、おう……どうしたんだ急に」
テンションが急に上下するのは俺のお株だったのに、奪われてしまったか。
ルチルは何やらぶつぶつと呟いていたが、特に『無属性魔法』で強化もしていない俺の耳では、何を言っているのか聞き取ることはできず。結局、よく分からないまま話も終わってしまった。
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