060 後輩
順番間違えました。本当にごめんなさい……
「すごい……」
自身の欠損が瞬時に治り、心なしか顔色も良くなったフローラさんは再び固まっていたが、フロースからは呟くように驚嘆の言葉が漏れた。
「俺に恩義を感じられても困るんで一応もう1回言っておきますけど、フロースのお陰ですから。お礼も感謝も、フロースにどうぞ」
「そんな……そんな事ありえないわ。私は、怪我で引退した身とはいえ冒険者の端くれ。閉ざされたと思っていた冒険者の道をもう一度掴ませてくれた貴方に、感謝しないなんてことはありえないわ」
「……フローラさん、冒険者だったんですか」
「ええ。これでも、元Bランク冒険者だったのよ?」
確かに筋肉質だと思った、なんて言ったら失礼になるだろうか。後衛前衛のどちらかは分からないが、こんな世界では女性だから戦わない、なんて道理は無いのだろう。元の世界でも強う強い女性はたくさんいたけどね。レスリングの人とか。
「驚きました。じゃあ、冒険者としての先輩ってことですね」
「あら、てっきり貴族だと思っていたけど……貴方も冒険者? ……え、待って?冒険者ってことは、あのエリクサーは自力で……?」
「まあ、そうですね。あんまり突っ込まないでくれると嬉しいです」
「その若さで……自信を無くしちゃいそうだわ」
「……」
そうか、そうだよな。突然エリクサーとかいう高価らしいアイテムをポンとくれるような奴だ、貴族と思い込んでも無理はない。……それにしては、随分とラフに接してくれていたが。
にしても、このフローラさんの言葉は結構刺さる。数十回の筋肉断裂や謎の出血と、魔力酔いによる毎夜の吐き気・目眩に耐えた程度で高レベルのスキルや大量の魔力を獲得して、神様から頭のおかしいギフトスキルも貰って。楽して短時間で力を得たことには引け目を感じているのだ。
「俺はそろそろ帰ります、待たせてる人がいるんで」
「……ユーリさん、やっぱり、お金を払わないと気が済まないわ。……そんなに嫌なの?じゃあ、そうね。分かった、ちょっと待ってて?」
俺の表情を見てフローラさんはお金での支払いを諦めた。……俺どんな顔してたんだよ。
部屋から出ていったフローラさんを待っていると、先程まで呆然としていたフロースが声をかけてきた。
「ユーリさん……その、ほんとにありがとうございます」
「別にいいよ。俺使わないし」
「そうなんですか? ……私、あんなすごいの、初めて見ました。治癒魔法を勉強するために見せてもらったたくさんの魔法より、なんていうか、神秘的で……錬金術師を目指しちゃいそうです」
セリフが支離滅裂だが、その興奮はひしひしと伝わってきた。
というか、錬金術を使っている場面じゃなくて、薬品の効果を見て錬金術師を目指すのは珍しいんじゃないか? 普通の人なら冒険者になろうとすると思う。
「……冒険者は目指さないのか?」
「あぅ……その、私もともと、お母さんに憧れて冒険者を目指してたんです。お父さんから魔法を勉強してたら、こんな歳になって魔道学院に入ろうとしたのも、攻撃魔法の勉強をするために……。でも、お母さんが怪我をして、目から力が無くなって、夜に泣く声が聞こえてきて……
だから、私は冒険者じゃなくて、お母さんの欠損も治せるような治癒士になろうとしてたんです。学院でも、欠損を治せるような治癒魔法について調べようとしてました」
「……そうか、それで錬金術師に繋がるわけか」
「はい。冒険者には憧れていたし、今もその気持ちは残ってますけど、いつの間にか恐怖が大きくなって……ポーション作製専門の錬金術師は、今の気持ちの延長線上だから、気持ちが追いつきます」
錬金術師は、『錬金術』のスキルを使って魔道具やポーションを作ることができる。『錬金術』のスキルが無くても、下位のポーションなら作れるらしいが、素材の勉強が必要だったり、素材にかけるお金もバカにならないので、あまり人口は多くない──らしい。
しかし、ポーションはかなり需要が高いし、今はSランク冒険者に錬金術使いがいるらしく、増加傾向にある──らしい。
ちなみに、前半は本で読んだ内容、後半はギルドで受付嬢から聞いた内容だ。
「ま、なんにせよ学院に通うんだ、ゆっくり決めればいいさ」
「そうですね。でも、本当に……学院に入れて、ユーリさんと出会えて、良かったです!」
「 ……そうか」
フロースの笑顔につられて、俺の顔にも微笑みが浮かんでいた。




