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058 彼女

「さて……それじゃ、フロースの家に行くか」

「はい。ウィズィさん、先に失礼します」

「ええ、また明日」

「ウィズィ、例の件、俺はいつでもいけるからそっちの準備ができたら教えてくれ」

「分かりました、おそらく明日には決行出来ると思いますよ」

「了解だ。それじゃ」


 魔道学院で、正式な授業があったという意味での初日を終え、現在は既に帰宅時間になっていた。帰宅と言っても、この学院には寮が付いているし、俺のように宿屋へ帰る者もそれなりにいるようだ。


「フロース、ちょっと待っていてくれないか」

「はい? ……ああ、なるほど! 彼女さんですね! わっかりました!」

「……ん? 待て待て、彼女ってのはなんだ?」

「え? 修学部にエルフ族で美人の彼女さんがいるんですよね、すごく噂になってたよ?」

「……ふむ。異世界とはいえ学生は学生。やはり色恋には食い付きが……」

「ユーリさん?」

「ああいや。なんでもない。ルチルは彼女じゃないんだよね」

「そうなんですか?」

「そうなんですよ。……冒険者として一緒に活動してただけだよ」

「ふむぅ……冒険者って男女混合のパーティだと恋に発展しやすいと聞いたことがあります……分かりました! 恥ずかしくて誤魔化しているんですね!」

「違うんだが」

「いえいえ、問題ありません! 言いふらしたりしないので大丈夫ですよ! 種族を超えた恋……やっぱり素敵です!」


 できれば彼女ではないことは広めてほしい部類だったが、フロースはトリップしていてこちらの声が聞こえていないようだったので諦めることにした。

 フロースを置いて、隣の教室に向かう。


「どもー。ルチルいるー?」

「あ、ユーリ! ちょっと待ってて!」


 修学部の教室は、すでに人がほとんどいない状態だった。ルチルはノートに何か書き込んでいて、誰かとだべったりはしていなかった。

 ルチルはすぐに作業を終わらせ、荷物をまとめて教室から出てきた。


「急がなくてよかったのに。悪いな」

「別にいいわよ。待たせる方が悪いわ」

「今日は少し用事があるから、寄り道するよ。着いてくる?」

「どっちでも……いえ、図書館に行ってるから、自由ってことにしましょう」


 昨日、入学式後に学内の案内された時、俺も図書館の外観は目にしたが、かなり立派な建物だった。まだ行けていないが、今から期待が高まるな。


「了解。俺も早めに図書館に篭もりたいところだ」

「修学部は必修授業もないから、やろうと思えばいくらでも図書館に篭もれるわよ? やっぱりこっちが良かったんじゃない?」

「……かもな。でも、基本からちゃんと勉強したかったし、実際面白い内容の授業ばっかりだった。あながち失敗ってわけでもないさ」

「まあ、クラス対抗戦で戦えるっていう点では私としてもありがたいことかしらね」

「ああ……ま、当たったらその時はよろしく頼むよ」


 俺のクラスでは担任から詳細を聞いていないから、なんとも言えないのが正直なところだ。代表を決めるタイプなら貴族が優先される可能性も高い。


「あ、フロース。こっちの世界に戻ってきたか」

「恥ずかしい……変なところを見られちゃいました……」

「あらユーリ、用事ってこの子のこと?」

「ああ。勝負に負けたんでな」

「ユーリが勝負に!? ……あ、そっか。戦闘じゃないのね」

「その通り。それじゃ、今日は解散だな」

「ええ。また明日の朝に」

「はいよ~」


 ルチルと別れると、フロースがすぐに口を開いた。


「ユーリさん、私の家は商業区画の外周側、鍛治街の方です。ちょっと遠いので、浮遊板を使って行きましょう」

「浮遊板? ……ああ、大通りの。了解だ」

「不便ですよねー、あれ。……あ、もちろん魔道具自体は便利ですよ! でも、名前が統一されてないのは不便だと思っちゃいます」

「……名前が統一されてない?」

「あ、知らなかったです? 作ったのが偏屈な方らしくて、作り上げた魔道具全ての名付けを放棄してるらしいんですよ」

「へー、俺が会ったらぶん殴られそうだな……」

「はい? なんでです?」

「たまに魔道具とか創るんだけど、名付けがめちゃくちゃ適当だからさ……適当な人ならいいけど、理由があって名付けをしてない人なら俺は嫌われそうだ」

「なるほど……そういう見方もできるんですね……」


 そんなたわいも無い話をしながらフロースの先導について行くと、すぐに商業街の外周側に到着した。

 レンガ調の建物が多くなり、店頭に武器が並んでいるせいか雰囲気が物々しい。店の奥からは、カーン、カーンという、おそらく鉄を打っている音が聞こえる。

 なんとなく、煙突から黒い煙を立ち登らせているイメージがあったが、ここでは見られなかった。


「いい雰囲気だな。用事がなくても遊びに来たいくらいだ」

「内側と違って、ここら辺にはベンチすらほとんどありませんからね……冷やかしも、あまりやりすぎると敬遠されるかもしれません」

「そりゃ残念だ。……フロースの家は、奥の方でいいんだよな?」

「そうです。お店を覗いて行くのも全然いいけど、先にうちに来てくれると嬉しい、です……」


 今もそうだが、昼からずっとフロースの表情が晴れないままだ。最初の挨拶よりも敬語が下手になってるし。気もそぞろ、と言うやつか。


「んじゃ、先に済ませよう。……そう心配するな。聞いた限りの様子なら、間違いなく治せるから」

「……はい。そう願ってます……」


 あんまり信じてなさそうだなぁ。ふむぅ。信用されてないだけか、他の要因があるのか……ま、当人を見てみないとなんとも言えないな。

ルチルとユーリが放課後に一度会って行動方針を決めていたのは、示し合わせた訳ではなく、冒険者として過ごすうちに付いた癖です。無意識です。


続きが気になる!

はよ次の話を投稿しろ!


という方、ぜひ下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えていってください!

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