表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/179

005 移

やっと異世界に行ける

 俺は再び光に包まれ、2度目の転移をした。俺があのジジイと話している間に何かしらがあったんだろう、クラスメイト達はかなり大人しくなっていた。

 全員が例の女に注目しているからか、後ろに転移した俺にみんな気付いていないようだ。


 俺が戻ってきたのと数秒差で、俺と一緒に飛ばされた4人も戻ってきた。転移の感覚に慣れないのか、転移が突然だったのか。そのうちの3人は驚いて辺りを見回していた。そして、合格者の一人である茶髪っ子が声を出そうとした瞬間──


「あ、おっかえりぃ!!! やぁーっと戻ってきたね、合格者組ィ〜☆ しゃべること無くなってたし気まずいから助かるよ~☆♡△」


 という高い声が響いた。その言葉の意味を理解したのか、女の方を見つめていたクラスメイト達が一斉に振り返り、俺たちを驚いた目で迎えてくれた。

 そして、前列にいたしの先生はわざわざ後ろまで走りよってきてくれた。


「良かったっ! 無事だったのねあなた達!」


「せ、先生… ううっ…良かった、先生もみんなも無事で……」


 自らの庇護者である教師を目にしたことでほっとしたのだろう、茶髪がしの先生に目に涙を浮かべて抱きついた。

 感動シーンのようなその場面に、やけに疲れたような声が割り込んで響いてくる。


「まーったく、みんな無事だってず〜〜~〜っと言ってたのにぜんっぜん信じてくれないんだからぁ。ま、いいけどね~☆ はーい、みなさんお待ちかねの説明のお時間ですよ〜☆ ちゅ〜も〜く☆」


 相も変わらずこちらの都合をガン無視した進行に、いい加減嫌になってきた。皆もそれは同じのようで、特にヤンキーは今にも飛びかかりそうなほどだった。


「さて、話を始めても良いかの? あれ、これどんな雰囲気?」


「「「「っ!?」」」」


 さっきまでいなかったはずの存在(ジジイ)が、気付いたら目の前にいた。それも、俺が会っていた時とは比べ物にならない威圧感、威厳、神々しさで。


「よいかの? さて、突然で悪いがお主らには、別の世界に行ってもらうことになる。拒否はできん。どうしても行きたくないというのなら、その世界、"ベテル"へ転移した後、自殺するがよい」


「なっ、てめぇ何言い出してやがる! 異世界だぁ!?てめぇは一体何なんだ!!!つーか拒否権無しだと!? ふざけてんじゃねぇ!頭いかれてんじゃねぇのか!?!?」


 我慢の限界だったのかヤンキーが突っかかっていったが、そのセリフは俺たちの気持ちを代弁したものだった。そのため、クラスメイト達に、話をぶった切ったヤンキーを非難する気持ちは無いようだ。

 むしろ、あの威圧感の中発言できるヤンキーに驚いているようだ。だが対照的に、神は冷ややかな目で睨めつける。


「ふん、身の程を知らぬ無礼な奴よ。まあ良いじゃろう、水に流してやる。じゃが、いちいち止められても面倒じゃからな、『この場において指定した者以外の発言を禁止する』」


 神がそう言った瞬間、どう頑張っても声が出せなくなってしまう。それどころか、声を出したくなくなって……? これは……あの有名な、言霊(ことだま)ってやつだろうか?

 とにかく神は、ヤンキーの……いや、俺達の疑問にいちいち答える気はなさそうだ。ヤンキーは鬼のような形相(ぎょうそう)で神を睨み続けている。


「お主らを転移させる目的は、"ベテル"との融和じゃ。互いの世界の住人を数人ずつ交換し、住まわせることになっておる。お主らには何も求めん。何をするにも自由じゃ。人を殺そうが、自分が死のうがな。じゃが、1人でも良い。何かを為せ。特に合格者。お主ら5人には期待しておるぞ」


「お主らの身体は転移させるに当たって、世界のルールに準拠した能力に変化しておる。じゃが、能力の強さはそのままじゃ。つまり、“ベテル”に転移したばかりでは今と何も変わらんと言うことじゃな。そのため、初めは平均よりも能力が低い状態になる。まあ、この差はすぐ無くなるじゃろう。そう気にせずともよい」


「"ベテル"は、お主らが言うところの剣と魔法の世界。基本となるのは『スキル』の力じゃ。基本スキル、ギフトスキル、オリジンスキルの3つがあるが、おそらくギフトスキルとオリジンスキルはあの世界にはほとんど持っとるやつはおらんじゃろう。詳しい部分は転移した後調べるがよい」


「もちろん、魔獣や魔物といった敵もおる。龍はまた別じゃが…まあそれはいい。あとは……あー、そうじゃそうじゃ。お主らが亜人、と呼んで区別しておる者も存在しておる。エルフや獣人などの亜人……半人じゃな」


「ベテルは、地球と親和性が特別高い世界じゃ。まあ、だからこんなことができるんじゃがな。使う言語はお主らと同じ、固有名詞も同じじゃ。つまり日本語じゃな。なぜそんな世界が存在するのかは……長くなるから説明せぬ。まあ、これについては気にするだけムダじゃろうな」


「まあとにかく、さっきも言ったが詳しい部分は転移した後に自分で調べよ。ある程度の知識と、それを得るための手段は与えるからのう」


 神の大雑把な説明をかなり集中して聞く。1つも聞き漏らさないように。生死に直接関わってくるかもしれないからか、クラスメイトからも必死さが伝わってきた。しかしそのクラスメイトの中には、説明の途中で泣き出した奴や、呆然として聞いてない女子もいる。胸が割とあるな。彼女の幸運を今から祈っておこう。


「さ、もう大体説明したかの。長々と説明するのは面倒じゃし、もう良いじゃろう。そろそろ始めようか」


 神が、(おごそ)かながらもやり切った感を出して言うと、クラスメイト達は俺たちの方を見てくる。ああ、そうか。彼らは合格者について何も聞かされてないのか。

 しかしながら、神はそのことについて説明する気は無いようだ。皆の視線の意味に気付きながらも無視している。


 まあ、“ベテル”とやらに転移したら情報共有すれば…… 待て、転移はまとまって行われるのか? 安全な場所に飛ばされるのか? しまった、食料について願うんじゃなくて安全な場所への転移を願うべきだった!


 手遅れな気付きに後悔し、頭を抱えていると、神がこちらを見て一瞬ニヤリとしやがった。ああ…圧倒的絶望感……



「さあ! 人間よ、新たな世界で新たなる生を歩め! さらばじゃ!」



 なんにせよ、地球にいるよりは未来が明るいだろう。とりあえず、上空スタートじゃないことを祈ることから始めようか。




 そうして俺たちは再び光に包まれ、その姿を消した。それぞれ、二度と帰ることのない地球を、家族を想いながら。

評価お願いします。

下の☆を★にすると評価できます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ