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054 買物

「スラム街の話だ」

「それは……なかなか深い所の話ですね。確かに、あまり他人に聞かせたくはない」

「?……よく分からんが。ミトスクルアーノ男爵って奴がバックについてる黒豹って組織が、子供の誘拐を繰り返してるってのは知ってるか?」

「……本気で言ってるんですか?」

「本気も何も、目の前で起こったことだ。バックにいる男爵の名前は誘拐犯からの情報で、ギルドの情報顧問で裏付けも取ってることだ」

「それは……そうですか。確かに、あの方はあまりよろしくないスキルをお持ちでした。見て見ぬふりをしていましたが、そうもいきませんね」

「Sランクになったとはいえ、貴族を潰すのは面倒だ。そっちは任せていいか?」

「というと、黒豹の方はユーリさんが?」

「ああ。そのつもりだ」

「それは心強い。あの組織のせいで、我々もスラム街に手を出しづらかったのです。迂闊に刺激できなかったので」


 そんな訳で、ウィズィとの話し合いはほぼ理想通りの結果になった。俺の圧倒的な話術のおかげだな。……え? 相手が下手に出ているからだって? まあ、そうとも言うな。



「良いですね、似合ってますよ」

「ええ。瞳と髪の色が特徴的ですが、それにも合っているので私としてもオススメできます」


 さて、見てわかると思うが、今俺はウィズィと服屋の店員にマネキンのような扱いを受けている。いや、着せ替え人形と言った方が近いか。

 俺の話を聞いてもらったので、約束通り服を選んでもらっている。さすがに、いつまでも冒険者の格好でいるのは色々面倒そうだからな。

 それに、服を一式選んでもらえればそのままドレス・コードに登録できるから、ありがたいんだ。


 教室を出た後に隣の教室へ顔を出してルチルを呼んだが、俺がここで着せ替え人形になり始めてから店の外に出て行ってしまった。

 彼女は、今までの旅で俺に隠していないのであれば、買い物に時間をかけるタイプではない。機能性に問題がなければいいや、と言うくらい、サバサバしている。


「ふむ。こっちも合いますね。イヤリングが映えるのがとても良い」

「お目が高いです、さすがラズダム公爵家次期当主様。そちらはデッドリースパイダーの糸が使われたかなり高品質のものになっておりまして……」


 店員は、服を選ぶだけでなくセールストークも忘れずに逐一挟んでくるので、一着にかかる時間がえげつないことになっている。多分、もう2時間くらい経ったんじゃないか?


「ウィズィ、そろそろ勘弁してくれ……ルチルも心配になってきた」

「ああ、これはすみません。では、今着せている一式と、最初に試したのトップス、それとこれとこれ、これとこれをお願いします」

「いや、頼みすぎだろ。俺、一着で良いんだけど」

「何言ってるんです。同じ服を何日も着続ける気ですか?」


 ウィズィのその言葉に気付かされたが、普通は服を着替えるもんなのだ。なぜなら、洗濯が必要だから。ふむ。完全に盲点だったな。

 今の俺は、『フレッシュ』というスキルによって、体や装備についた汚れを落とすことができる。返り血を一瞬で消し去り、風呂も要らなくなる超便利能力だ。俺自身のスキルではなく、ブレスレットに付けている能力なためそれを外すと使えなくなる。


「問題ない。スキルで汚れは落とせるから」

「ああ、そういうことでしたか。でもダメです」

「なんで!?」

「周りは知ったこっちゃないからですよ。そんなスキルを持ってると知らない周りは、服を着替えない不潔な奴だと決めつけるでしょう」

「それは……確かに」

「まあ、冒険者の間ではそのようなスキルが重宝されると聞いたことがあるので、理解があったのでしょうが。今から過ごすのは全く別の場所ですから。少なくても3セットは買っておきましょう」


 ウィズィの言われるまま、服を購入することになった。もちろん、金は有り余っているので自分で払ったぞ。


「さて。では、私はこれで。護衛は隠れているので、お気になさらず」

「ああ。貴族も大変だな」

「まったくです。貴方の身軽さが羨ましいですよ」

「身軽ねぇ……ソロだったらその言葉に素直に頷けたんだろうなぁ」

「ああ……」


 言いたいことを察したのか、ウィズィが黙ってしまった。


「じゃあな、また明日」

「ええ。また明日もよろしくお願いします」


 ウィズィと別れた後、ルチルに尻を蹴り飛ばされたが、甘んじて受け入れた。

 待たせてごめん……

新人賞間に合わなかった……書くのって難しい……


さて、ぜひ評価お願いします!

新人賞用に(結果的に)書き溜めている新作の方は、投稿ペースが上がると思います。


また、ざまあ系?(もう遅い!ってやつ)も書いてみようかなと思ってます。その時はまた、告知しますね。


それでは、良いお年を!

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