052 失敗
入学式は、想像していたよりも壮大なものだった。どうやら、今年に魔法を使えるようになった者だけが入学する訳ではないようだ。
7歳だったか、それくらいで魔力が規定値を超えていると入学できるし、刻印を行える者、魔法系のスキルオーブを買う見込みがある者、詠唱について一定以上の知識があり、学院卒業後研究の道を進もうと思っている者など。様々な募集要項があったようだ。
入学生代表の言葉はウィズィが行うと思いきや、別の男子が行っていた。どうやら王子様らしい。聞き逃してしまったが、確か第3王子と紹介されていた気がする。
「S、S……あれ、ここAまでしか無いじゃん。上の階か?」
今年度入学者は全員この校舎だって書いていたので、ロクに案内も見ずに教室を探したのが間違いだったようだ。絶賛迷子中である。
1階は初等部、2階は中等部のD~Sの全クラス、3階の俺がいる階がD~Aの6クラスだった。CクラスとBクラスが2教室ずつだから、6クラスだ。それだけ人がいるってことだな。
後にウィズィから聞いた話だが、毎年、この学院に入るために他国から人がたくさん来るらしい。今年は赤オークの影響でもっと少ないのではと思ったが、そうでも無いようだ。1年以上前からこの国に入って入念に訓練・勉強をしている奴がほとんどらしい。
上の階に行こうと思い踵を返すと、声をかけられる。
「お、アナタもAクラス?」
「ん?……君は?」
「私? 私はアレシア! 高等部Aクラスになった、火属性の魔法使いだよ! 」
「そうか。俺は……」
「おーい、アレシア? 貸してたペン返して欲しいんだけど……あ、また声掛けてたの? 」
「ユーリ! 教室上の階よ! ……あれ、お取り込み中?」
「「……あら?」」
顔を見合わせている突然の来訪者を見て、俺とアレシアも顔を見合わせる。アレシアが肩をすくめたので、こう返した。
「お互い良い身分だな」
「うん、そうみたいだね」
2人で笑い合うと、来訪者たる2人は不思議そうにしている。
「じゃあ、アレシア。俺の教室はここじゃないから」
「そうなの?」
「ああ。……そういや、名乗りの途中だったな。高等部Sクラス、ユーリだ。またな」
「! ……なるほど、そういうことね……うん、また!」
アレシアはニコニコしながら手を振っている。手を振り返すと、後ろからまた声をかけられる。
「ユーリ、私が修学部なのは言った通りだけど、高等部Sランクとは隣の教室みたい。そっちが終わったら呼びに来てくれない?」
「ああ、それを伝えに来たのか。了解したよ」
「ええ。行きましょ? そろそろ最初の伝達があると思うわ」
最初の伝達……ホームルームのことか? と、下調べの無さが露呈する疑問を抱えながらルチルの後を着いていく。
「じゃあ、ユーリ。後でね」
「ああ。こっちが終わったら呼びに行くよ」
さて、楽しもうか。という意気込みも漫ろに、教室のドアを開ける。視線がこちらに集まるのを感じる。……ふむ、俺が最後に来たんだとしたら、Sクラスは全部で18人か。階段状で後ろの方が高くなっている形は、アニメでよく見る大学の教室、といった感じだな。
黒板がデカいな。貼り紙のようなものも無いし、机にプレートがあったりもしない。既に着席してる奴らもある程度固まって座ってるし、席は自由みたいだ。
迷わず最後列の隅に着席する。ちなみに、今の服装はいつもの冒険者セットではない。あれはさすがに日本の常識が邪魔をした。装飾品が付きすぎてるからな。
ドレスコード:No.05・学生。この学院のためにわざわざ登録した、新しいチャンネルだ。目に見える装飾品は一切無し、服装自由な学院、ひいては街中においても目立たないを実現する普通の服装。ただし特殊効果もほとんど無し。破れてもすぐ直せる『再生』とか、汚れを落とせる『フレッシュ』のような無難で必要なものしか付けていない。
ドアを開けた時一身に集めた視線は、俺の服装を見た途端ほとんど無くなっていた。さすが俺、完璧なチョイスのようだ。今もこちらを見ているのは2人だけ、女子と男子が1人ずつだ。座ってる位置からして別グループだな。
などと考えていると、視線を向けていた男子──ウィズィがこちらに来た。
「ユーリさん、どうも」
「やあ、ウィズィ。どうした?」
「いえいえ、友人が1人教室の隅で寂しそうにしていたので、慰めに来ただけですよ」
「おや、それはありがとうと言わざるを得ないな。正直、思ってたのと違ってたから」
主語を抜いた今のセリフも、ウィズィには違うことなく伝わっているだろう。……この服装、あまりにも浮いているのだ。なぜなら、ここにいるほぼ全ての人間が貴族だから。豪華という訳では無いが、見ただけで高価な服だと分かるものを身につけていらっしゃる。装飾品も付けてるやつが多いな。
一般人の服装は、俺と、先ほどから熱い視線を送ってくれている女子しかしていない。……ここでは、俺たちの方が異端のようだ。
「服装に違和感がなくても、ここにいる殆どの者は入学前から面識があります。初対面のユーリがいきなり深い仲になるのは難しかったでしょう。……ユーリ、貴方さえ良ければですが、お話を聞いた後にでも服を買いに行きませんか? 」
「いい提案だ、是非頼むよ。とりあえず俺は、第一印象で失敗したし。諦めて孤独の道を覚悟することにしたよ。……ドレスコード:No.1・冒険者」
目の前で目を見開いたウィズィを見て、小さく笑った。
ようやくこいつの、微笑み以外の表情を見れたな。
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