048 過去
私がカタカナで「様」を「サマ」と書く時は、話し手が軽口またはそれに相当する軽さで話している時です。
例外は多分ないかな？
突然だが。『魔力創造主』は魔力から物質を創り出すスキルである。魔法やスキルを創造することはできず、魔力量の不足や未だ解明できないルールによって創造できない物もある。しかし、抜け道は存在する。
ダンジョンから産出されるアイテムの中に、スキルオーブという物がある。魔力を流すと中に込められたスキルを獲得できるという物だ。使用後のガワは個体を維持できなくなって魔力に還るという。
スキルオーブによって獲得できるスキルは、ユニークスキル──世界に1つしか存在しない非常に希少なスキル──以外だが、才能を越えて力を獲得できるため、冒険者が稼ぎと魔道具よりも比重を置いて探すというのは有名な話だ。王族や貴族がスキルオーブを大金叩いて買い取るというのも、よくある話だ。
……そう。創れちゃうのだ。スキルオーブが。しかも割と少ない魔力消費で。
余りにも反則だ。チートという言葉も甘んじて受け入れよう。望んで得た力ではないがな。まあ確かに、強大すぎる力によって食う飯に困っていないのは事実だし、文句を付けるのも気が引けるが。やりすぎだろうあの神。いや、メルルの方か？
なので、俺は自分で自分に枷を与えた。強い興味・関心がそそられた場合を除き、命の危機含むあらゆる場面でスキルを直接獲得することを禁ずると。
スキルオーブの作成によって俺が得たスキルは5つ。『召喚』『擬態』『詠唱形骸化』『病気耐性』『想像力』だ。
強力なスキルを新しく得て無双するなんて、つまらないことこの上ない。今ある力を補助した方が楽しいに決まってる。
ただ、創り出す装備に自重してないのにそんな縛りをして意味はあるのか？というのは、今でもたまに頭に浮かぶ疑問だ。
そして結論はいつも同じ。知ったこっちゃない。俺は俺のやりたいようにやる。些細な縛りで納得できているなら現状が正解なのだ。
༅
「ユーリ？」
ルチルの声で、思考の海から急速に浮上する。
「どうした……ああ、ミーシャ。はじめまして」
「は、はじめ、まして。ありがとう、ございます」
「気にしなくていい。ご飯はもう食べたかい？」
「えと……おいしかった、です」
「そっちのお姉さんにもお礼は言った？」
「その……はい」
「そうか。それならいいんだ」
ミーシャは、子供なら十分礼儀正しい方だろう。スラム街にいるとそれだけで浮いてしまいそうな程に。
「スラム街に来る前のことを聞いてもいい？」
「だいじょうぶ、です」
「そうか。じゃあ……」
そこからミーシャの事情を聞き出すのにかかった時間は、エーシャに聞き取りをした時と同じくらいかかった。
ミーシャがスラムに住むことになったのは、端的に言えば家庭内不和によるものらしい。ミーシャがヒューマンとエルフのハーフであるのは前に『鑑定』したので知っていたが、どうやら両親が軽いいじめのようなものにあっていたらしい。どんな種族でも受け入れるとはいっても貴族王族共にヒューマンなのだ。そういったものもあるのだろう。
自分達の血を引いた子供を晒しあげることで自分達は逃れようとしたのか、自分達の血の証明であるミーシャをいじめることで憂さ晴らしをしていたのか、なんなのか。結果として、ミーシャの両親はミーシャを置いて他国に移り、両親からもいじめられていたミーシャだけが残ったようだ。
ミーシャがいまいち理解していない部分も多かったが、断片的に覚えていた両親の言葉から推測するに、こんな感じだろう。
本人の口から語らせるには余りにも酷な話だったが、彼女自身の命の危機だ。つべこべ言っていられない。
さて、結界分かったのは、彼女の成り行きには誘拐される理由が無いということだ。両親の借金のカタというパターンでは無かったからな。
となれば、『発展属性魔法』が目的か、それ以外か。スラム街を対象にした炊き出しで『鑑定』されて『発展属性魔法』持ちだとバレたとか？……くそ、振り出しに戻った感じがあるな。
……いや。そうでもなかった。そうだ、未来を選んでくれた巫女サマの厚意を無駄にするところだった。
「あ、ルチル？ 俺、なんかSランクになったわ」
「……はい？」
うむ。今日もいい間抜け面だ。
評価お願いします！
後半ちょっと冗長になった気がするので、後から改正するかもしれません。
