045 伯爵
「伯爵様、なぜ私がSランクになると仰るのですか? 私はまだなると決めたわけではなく、何も事情の説明も受けておりませんので……」
「おや、そうだったか。では、私の事もまだ?」
「はい。何も伝えられておりません」
「シリウス……お前と言う奴は」
「いやいや、そこは僕悪くないでしょ!? 合図を送ってから5分も経たずに来たそっちのせいだよ!」
「む……確かにそれもそうだな。いやすまん、シリウスに任せるのが不安すぎてつい、な。急いで来てしまった」
「ああ、いえ。私は別に気にしておりませんので」
レウル伯は、存外に物腰が柔らかい人のようだ。だからこそ、このシリウスと上手く付き合えているのだろう。堅物貴族とシリウスが話すところなど、想像もしたくないからな。
「では……初めに私の家について説明しようか」
「伯爵家についてですか?」
「ああ。この国の貴族形態はかなり特殊なのは知っているかい?」
「貴族形態が特殊……ですか?」
「そうだ。この国は都市国家だから、貴族が持っている土地は貴族エリアの中、自分の屋敷がある場所だけだ。公爵だけは厳密には違うが、ややこしいから置いておく。別荘もほとんどの者は持ってない。そんな中で貴族を貴族たらしめるのは、過去の栄光か、商売または魔法含む武力だ」
どうやら、この国の最も大きな収入源は、他国に貸し出したり売ったりする魔道具によるものらしい。商業国家と名乗っても良いくらいだ、と笑いながら言うレウル伯は、本心からそう思っているようだ。
レウル伯の言葉は、俺の中にあった貴族というイメージを壊すようなものだった。自分の領地から搾取した税金で贅沢をする悪徳貴族なんて、テンプレを想像していたから余計にだ。
「そんな中で、我が伯爵家は非常に特殊な立場にある。我が家は代々巫女を排出する一族で、その巫女は神の言葉を直接賜ったり、未来を予知したりと強力なスキルを持っているのだ。我が伯爵家の収入源は、巫女の能力に払われた国からの莫大な金が主だ……巫女の力だけに価値を見出されている一族なんだよ」
「それは……肩身が狭くならないのですか? 周りとの相違が不和を招くのはよくあることですし……」
「クク、心配してくれるのかね? ……ふぅ、そんなことはないよ。巫女の力は強大だ。嫉妬は確かに多少あるが、感謝や畏怖の感情の方が大きいよ。過去に侯爵へ陞爵の話もあったが、それを断っている影響もある」
他の貴族からしてみれば、昇進の話を断るということは自分より上の位にはならないということだから、自尊心が保たれる、ということか。俺のよく知らない貴族の事情もありそうだな。
「ここからようやく本題だな……まあ、この話をこのタイミングですれば、ある程度予想はつくだろうがな」
「まあ……そうですね。有り得そうなパターンはいくつか思い付いています」
例えば、転移者であることがなにかしらの要因で見破られ、大きな力を持っている可能性からSランクにして囲い込もうというパターン。つまり、伯爵家の特殊な能力を餌に考えている場合だ。最初の冒険者試験でなにかしらバレていた可能性は高いからなぁ。
また、例えば、伯爵家の能力によって、単独で俺が特殊な能力持ちであると見破ったパターン。これは、少しひねくれた予想だ。魔道具を創り出せる能力を持つ俺を取り込んで、伯爵家の新たな武器としたい考えを持っており、昇爵を拒んだ過去の選択を後悔している場合だな。
そして、最も有力な可能性が……
「今代の巫女が言ったのだ。“Dランク冒険者ユーリをSランクへ昇格し、国として対等に友好を深めよ”とな」
……大筋の予想は当たったけど、巫女のセリフ内容は思ってたのと少し違ったな。恥ずかしいからこれは黙っておこう。うん。
評価お願いします!
「陞爵」が2回目に「昇爵」になっているのは、誤字ではありません。レウル伯は「陞爵」と言ったけど、主人公は「昇爵」と受け取った、というだけの話です。どちらも同じ意味なのですれ違いという訳でもありません。
物語のスパイスと言うやつですね。小さい事だけど。
ちなみに陞爵とは、爵位がなんらかの理由(功績を上げたとか)で上がること。昇進のことです。




