042 感謝
「ミーシャを助けてくれて、ありがとう」
「おう、気にするな」
目を覚ますと、1番最初にエーシャがお礼の言葉をくれた。俺としては、スラム街の孤児にお礼を言えるほどの心の裕福さがあることに驚いていた。
「エーシャ、お礼の言い方は誰に習ったんだ?」
「ミーシャ。いろいろ、教えてくれた。名前もくれたから、僕も名前を付けてあげた」
「そうか……」
ミーシャがスラムにいるということは……やはり、親が急な事故で亡くなった可能性が高いか。
いや、彼女の両親が莫大な借金を抱えていて、子どもであるミーシャがその借金のカタとして狙われたためにスラム街に逃げた可能性も高いかもしれない。その場合だと、借金取りの裏にいる真っ黒な連中が誘拐犯の仲間と考えられる。自然だ。
「エーシャ、ミーシャがスラムに来る前のことか、ミーシャの親のことは知ってるか?」
「えと……知ら、ない」
「そうか……そんな顔するな。怒ってないよ」
誘拐犯の仲間は、普通なら警戒して様子を見るだろうから、やはりミーシャが目を覚ますまで進展は望めそうにないな。
(アゲハ、そういえば昨日探ってもらった赤いオークの件、何か分かったのか?)
(あ、忘れてた……今言うってことはマスターも忘れてたんでしょ〜? そんな目で見ないでよ〜)
(……まあ、ゴタゴタしてたから仕方ないよな、うん。どっちも悪くないよ)
(あー!逃げた!)
(で、どうだったんだ?)
アゲハはジト目しながら報告を始めた。
(マスターがぶつぶつ言ってたから門のところに行ったんだけど、マスターが赤いオークを焼却した跡の調査報告書と、赤いオークが……変異種?だと思われるから警戒して門を閉じろみたいな命令書が重ねて置いてあっただけ。関連したものは他に見つけられなかったなぁ。あと、透過して中を見た限りだと門に攻撃能力無かったよ!)
変なところは無い……か。門に攻撃能力が無いのは予想外だったが。
折りたたまれた状態で収納されている場合のような、アゲハの透過では判別しづらい形である可能性はまだあるか。
(サンキュー、アゲハ)
(はいはーい)
アゲハ以外に生命体を生み出した方が良いだろうか……どうしても手が足りない感じがある。ただ、前回アゲハを創った後に技能神に呼ばれたことを思うと、なかなか踏み切れない。なにせ、控えてくれと神から直接言われたのだ。
難易度的な問題もある。俺がアゲハを創造できたのは、身近でイメージの固まっていた記憶の中の妹をモチーフにしたからだ。しかも、単純に難しすぎて同じイメージでもう一度やって成功するかも怪しい。
ままならないものだ。
「ユーリ、ご飯の用意できたけどミーシャはどう?」
「うーん、また起きそうにはないかなぁ……素人目だから確証はないけど……」
「そう……仕方ないわ。私たちだけで食べちゃいましょう。ほらエーシャ、こっちよ」
「案外、食いもんの美味そうな匂いを嗅がせれば飛び起きるかもしれんな」
「ユーリと一緒にしないで?ミーシャは女の子なんだから……」
「いや、食べ物の匂いで起きるのはお前の方だろ」
……なんで俺が睨まれているんだろうか?
新作『錬金術師と真理の石〜魔法使いの美女を添えて〜』を投稿しました。
新作の方はなろう感が薄いかもしれません。新作もこちらも評価是非お願いします。




