039 索敵
「何があった!」
「う……はぁ、はぁ、た、助けて……」
子どものもとへ駆けつけた俺とルチルはすぐに事情を聞こうとするが、子どもの息切れが酷く思うように喋れない。
(なぜ周囲の人達は反応しない?……困惑してるのか?)
「とりあえず……おい、これを飲め。下級ポーションだ……ルチル、周囲の警戒を!」
「了解!『気配感知』!」
HPとスタミナを回復できる下級HPポーションを飲ませつつ、子どもの状態を確認する。見える位置に外傷はない。
ポーションの効果で息切れが収まってきたのを見た俺は、周囲の変な視線を嫌って子どもと共に路地の方へ移動し、再び訊ねる。
「何があった?」
「ミーシャが!連れてかれたんだ!!……」
気が動転していた子どもから、周囲の目線にも耐えながら根気強く話を聞き続け、何が起こったか把握できたのは数分後だった。
子ども──エーシャはやはり、スラム街で暮らしている浮浪児らしい。そして、ミーシャというのはエーシャと共に同じ家に住んでいる家族のような存在。ただ、ミーシャはかなり前から体調を崩していて、数日前にそれが悪化。いよいよ命が危ぶまれるかという時、不審な連中に強引に連れ去られたのだという。
「ルチル、どう思う?」
「人さらいにしても病気で弱っている子を狙う理由なんてないと思うけど……あるとしたら、死体を操るネクロマンシーかしら?でも、それなら直接死体を探した方が速いし子どもを狙うのは不自然か……」
「……その場にいたエーシャを無視して弱った方だけ連れ去る理由……ミーシャが特別なスキルかなにかを持っているとか」
「ありえなくはない、かも。病気で外に出ていない子のスキルがどうやってバレたかは分からないけど」
「目的があるなら余計に、命は無事な可能性が高いな。まあ急ぐに越したことはないか。ルチル、行くぞ」
わざわざ攫うってことは、生きていることに意味があるはずだからな。であれば、最悪なパターンは……そういう子どもに性的な欲を持ってる奴が黒幕の場合か。
「ユーリ、エーシャはどうする?置いていくの?」
「ああ。無視されたってことはこいつは相手の目的じゃないって事だからな」
「でも……子どもよ?不安がってる子を置いていくのは気が引けるわ」
「……言い合いしてる時間がもったいないな。ルチル、お前は残ってその子の様子を見ててくれ」
「分かったわ」
すぐに、コア・ネックレスから金属でできた卵を出す。この国に着いた時に偵察として飛ばした鳥型ドローンだ。大抵のものは俯瞰視点の方が探しやすいからな。
それを上に投げると卵が変形して鳥の形を取り、俺の意思に従って飛行する。
前回は、腹部と目の位置にあるカメラを直接俺の目に繋げたが、酔いやすく、処理が追いつかずに見逃すものも多かったので既に改良してある。俺の目の前に魔力でできた円形のディスプレイが浮かぶのだ。……縁取りが簡素すぎるな。覚えてたら今度改良しよう。
「見つからねぇ」
(アゲハに調べもの頼んだのは失敗だったか……タイミング悪すぎ!)
スラム街にはとうに到着して肉眼でも探してはいたのだが、ドローンからの映像にも怪しいところは見つからない。
「じゃあこっちだ……『四季風・夏風』『気配感知』」
スキルの名前をつぶやくと同時に、夏のかわいた風が流れてゆく。そして、風が広がるのと共に気配感知の範囲がどんどん広がっていく。
「いい風……見っけた!『魔道・天道』!」
魔力を使って加速し、目標を追跡する。目標の人数は4人、そのうちの一人が子どもを抱えている。ドローンを先に向かわせて確認したところ、女の子である事は分かった。ほぼ確定だろう。
(さすがに範囲広げすぎたか、頭いてー)
初期に森で虎に会った時に生えたオリジンスキル:『四季風』。なんとコイツ、ただ涼しくて気持ちいいだけじゃなかったのだ。
風に乗せて魔力を薄く広く散布することで、本来は至近距離にしか効果のないスキルの範囲を伸ばすことができるんです!薄く広げるから魔力に対する中毒症状は起こりません!すごい!便利!今ならなんとイチマンキュウセンハッピャクエン(裏声)!
そうそう、今朝本で読んだんだが、魔力に対する中毒症状というのがあるらしいのさ、この世界には。「魔力酔い」だとか「魔力超過」なんて呼ぶ人もいるそうで、症状には、魔力を上手く使えなくなったり、酷いとスキルが使えなくなったりするらしい。ギルドにも中々興味深い本が置いてるもんだ。
っと……1人になった瞬間テンション上がるとか相変わらずだな俺。とにかく急がないと。




