035 回想
私がその男を見かけたのは、冒険者ギルドのDランク昇格試験の時だった。
◇試験当日
この試験は、私にとっては特別なものだ。合格できるだけの実力はある、と思う。でも、もしこの試験に落ちてしまったら……私は再び、籠の中の鳥に逆戻り。いろいろなものに縛られたまま、数千年の時を過ごすことになる。だから、なんとしても落ちるわけにはいかない。
他の試験参加者を待ちながらそんなことを考えていると、変な男がやってきた。
その男は、依頼関係の受け付けカウンターに付かないために、冒険者達がなかなか声をかけられない高嶺の花であるミアさんから声援を受けたのだ。そのくせ、ものすごい美形という訳でもないから、ギルド内の男たちから殺気のようなものが向けられていた。醜い嫉妬ね。
彼は、普通のかけ出し冒険者のように、皮鎧に身を包んでいるわけでもなく。鉄の鎧と剣を携えているわけでもなく。魔法使いのようにローブと杖を装備しているわけでもない。見たことのない服装……強いていえば、ヒューマンの貴族の格好だろうか?まあ、あんなに地味な色の服を貴族が着ることは無いけれど。そして、見たところ剣も、杖も、何も持っていないのだ。
ただ、指輪や首飾り……ヒューマンの言葉ではネックレスだったか。そんな装飾品だけはたくさん身に付けていた。やはり貴族……いや大商人の類だろうか?だが、そうだとしたら冒険者の試験を受ける意味が分からない。
気になる。
どうしても気になる。
気付くと先程まで感じていた緊張はどこにもなく、彼への興味が頭を占めていた。
……どうしよう。『鑑定』をかけてしまおうか。本当に貴族や大商人なら、どうせ『隠蔽』を持っているでしょう。そうでないなら、『鑑定』をかけたことに気付くことはないはず。
……むむ、仕方ない。『鑑定』!
◇魔道王国宿屋
……その時の衝撃は、凄まじいものだった。多分、幼い頃に、森の外にも世界があると知った時よりも大きい衝撃だった。
昔、1度だけ見せてもらったAランク冒険者と同じくらいのレベル。彼よりも多かったスキルに、オリジン持ち。ギフトスキルも見たことが無いものだった。ユニークだろうか?彼くらいのレベルなら、『隠蔽』を使ってステータスを部分的に隠している可能性もある。私の『鑑定』のレベルではスキルレベルまでは確認できなかったけれど、きっとどれも高かったのだろう。
彼からの報復を恐れ、ステータスの衝撃もあって、気付いたら試験が終わっていた。合格って言葉で我に返ったのだけど、あれは心臓に悪かった。
そしてその後、彼となんとか話をする時間を作れた。質問していく内に、なんとなく悪い人じゃないんだろうなって思った。そして、これはとんでもなく最高のチャンスだと思った。私の目的のために、彼を利用する。強くなるには、どうしても師匠の存在は不可欠だから。
もしかしたら、彼に頼めば、何もかもすぐに解決するのかもしれないけど……やっぱり、私たちの問題は私たちで解決しなくちゃ。まあ、ちょっぴり巻き込んでるかもしれないけど。
いや。親しくもない他人の頼みを聞いてくれるほど、優しい男じゃないわね。ユーリは。彼自身の深いところには踏み込んでいないけど……歪。結果だけを見れば優しい人間だと思いそうになるけど、いろんなことろが……いえ。私の立場で彼を悪く言ってはダメね。
それにしても、もう少しだけ、特訓は優しくならないものかしら……
過去は過去です、という言い訳
書いてたら勝手にこうなってたんだ……しかたない




