033 赤龍
「俺と戦ってくれないか?」
「……は?」
いきなり何言い出してるんだこいつ。
「詳しい説明はまだできん。それについては戦いの結果次第だな。ただ、俺たちは俺たちの目的の為に動く。お前が俺たちの欲するモノを持っている可能性が高い以上、付き合ってもらうぞ」
「俺が持っている物……?」
そりゃあ、旅しながらも、ルチルに隠れていろんなものを創り続けてきたんだ。コア・ネックレスの中に収納されたアイテムはかなりの数で、こいつらが欲する物を俺が持っている可能性は高い。というか持ってなくても創れる。……だが、なぜその事をこいつらが知ってる?いや、ネックレスが関係ない全く別のことか?
ルチルが不思議そうにこちらを見てくるが無視する。
「なんにせよ、面倒事はパスだ。メリットも無いしやりたくないね」
「メリットか。じゃあ、前払いで金貨3枚、俺に勝てば更に17枚の支払いならどうだ?」
「悪いが金は欲してないんだ。これ以上の交渉には応じない」
「……そうか。そいつは仕方ねぇな」
シグはそう言ったが、その瞳はまだ諦めていない。
「じゃあ、悪いが人質を取らせてもらおう。戦ってくれないのなら、そこの……ルチル嬢を殺す。それがダメならこの酒場にいるヤツらを全員殺す」
「ちょっと!?」
「おい……冗談だろ?」
「さてな。結果を見てみるのもまた、お前の選択だ。尊重しよう」
「脅して選択肢をねじ曲げようとしてる奴が何言ってやがる……パスだ。ブラフに付き合う気は無い。行くぞルチル」
そう言って席を立ち、出口へ向かおうとする。その瞬間。
「おい……今本気で撃つつもりだったろ」
「すごい反応だな……当然だ、さっきからそう言ってるだろ。俺たちは俺たちの目的の為に動くと」
正気か?……いや、そんな訳がない。躊躇いなく無関係のヤツらを殺そうとする奴が狂気に染まってない訳が無いんだ。例え、俺が止めるだろうと踏んでいても、だ。
だいたい、銃を抜き、引き金に指をかける速度は常人では認識できないものだった。俺に止めさせる気なんて微塵も感じられなかった。
「チッ、分かった。戦おう」
「……悪いな。助かるよ」
「どこでやり合うんだ」
「ギルドが保有している訓練用の施設がある。そこの訓練室を貸切で使おう」
「分かった」
ああ、ツイてない。本当にツイてない。この世界に飛ばされて最初にいたシューケッツの森にいた頃の方が数百倍は平穏だった。一角兎が恋しい。
ちなみに、俺の考えごとが多いのはだいたいパッシブスキルの『思考加速』のせいだ。持ってると戦闘では特に便利だが、平時では邪魔……パッシブスキルの発動がオフにできないのは地味に面倒だ。初期に取ったスキル『不夜』が進化して『不眠不休』になったせいで、余計夜の時間が長く感じるので毎回不便に思う。
そんなことを考えていると、訓練室に着いたようだ。いらん事を考えていたせいで訓練用の施設とやらの外見を見損なったな。後で観察しよ。
「大丈夫なの、ユーリ」
「一応、負ける気は無いよ……相手は銃使いだからな。適当に負けるのが難しそうだ」
「そうじゃないわ。未熟な私でも、さっきの酒場で殺気が向けられたのは気付いた。ユーリが殺されたら……」
「なんだよ、心配してんのか?らしくないな。俺たちの関係性にはいらん感情だ。師匠としていいとこ見せるから、まあゆっくり見学しておけ」
今回の戦い……相手も手強そうだ。それに、遠〜中距離で戦うことはあまりしてこなかった。基本属性魔法くらいだ。それで銃相手にどこまでやれるか……魔法に拘る気はさらさら無いが、どこまでやれるのかは気になるところだ
「おいユーリ、できれば本気で来てくれよ?」
「お前次第だな」
「ハッ、そうかいそうかい。じゃあ、せいぜい本気を出させてやろうかね」
短い煽り合いが一段落したのを見計らって、俺とシグの間に立ったリコリスが口を開いた。
「……では、この私、リコリスが一応審判を務めさせていただく。決着は私たちの独断ゆえ、制限時間もない。武器防具の制限やアイテム制限、使用スキル制限もない。では。……開始!!!」
「先手必勝!『赤龍』ッ!!」
「チッ」
開始時点で俺とシグの距離はそれなりに空いていた。つまり、初撃を止められないのは分かっていた。
コア・ネックレスから武器を取り出し、手元に出現させる。それをそのまま、シグが放った赤い弾丸に向けて振るう。『思考加速』と高レベルのステータスがあるからこその力技だ。
振るった刃が、弾丸を切り裂いた、その瞬間。
ドガァァァアッという、大きな爆発音と共に後ろへ吹き飛ばされる。
「銃の性能か……」
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〇赤龍
シグ・ガレットの能力で生み出された魔導銃。魔力を弾にして放つ。純粋な魔力を込めただけで着弾点で爆発が起きる。火属性魔法、炎属性魔法を込めることができる。連射可能だが、魔力操作が難しい。
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"能力で生み出された"……?俺と似たようなスキル持ちか?シグ本人に『鑑定』をかけたいが、はじかれる……『隠蔽』か。俺の『鑑定』はレベル10だから、シグは『隠蔽』をレベルマックスで持ってるのか……油断できないな。
手にした武器に風の魔力を流し込むと、直剣から弓へと変形する。
「疾ッ!」
「うおっ!?」
突然の遠距離攻撃に驚いたシグだが、危なげなく処理される……銃で矢が相殺されたのだ。
俺が今手にしている「風雹雷アリアーチェ」は迷宮産。ギフトスキルを隠しながら戦うには丁度いい。
「『圧縮。刃の如き鋭さをもって、敵を穿て。【水閃】』!」
「チッ!」
シグが初めて回避を行う。水属性魔法は、火属性に対して有利を取れる。相殺は起こせない。
この世界では、火>風>土>水>火の順で有利が発生する。単属性が固定された武器は、常にこの法則に怯えているのだ。
シグが散発的に銃を撃ってくるのをなんとかいなしつつ、反撃の弓矢と水属性魔法で少しずつ押していく。
「ユーリ!そろそろ様子見も終わりにしようか!」
「……まあ、そうなるよな」
……当然である。シグはまだ、腰に差した銃の内、片方しか抜いていないのだから。
序盤の、主人公が1人っきりだといろいろおかしくなってしまう描写を強くするか検討中です。




