030 開門
赤いオークを無事倒した俺たちは、再びフライトボーd……じゃなかった、空飛ぶ魔法の絨毯(ver.板)……だっけ?に乗って、エリフィンへの旅を再開した。といっても、もう一時間もしないうちに門につくだろう。封鎖さえされていなければ、何も問題はないな。うん。
ちなみに、でかいフライトボードで移動しているんだが、カモフラージュで馬車の形をしている。見た目だけだけどな。馬も、生物ではなく俺の意思で動く謎の物体でできている。もちろん、『魔力創造主』によって生み出したものだ。
前に、俺の知らない知識は創造できないと記したが、理解していない物でも結果だけを知っており、その結果を十分にイメージできれば創造できるようだ。
実験結果をまとめると、こんな感じだ。
・知らない知識について書かれた本を創造しようとすると、失敗する。
・知らない知識を獲得できる魔道具としての本を創造しようとすると、成功する。ただし、何について知りたいのかをはっきりさせないと失敗。また、本の中身は何も書かれていない。
・構成元素などを理解していない、おにぎりや王水はは問題なく創造できる。ただし、もたらす効果はイメージの通り。本物との差異がある可能性大。
何度も似たようなことを考えてすまないが、一応これは、前に有耶無耶になって、その後に判明したことも含んでるから許して欲しい。
んで、なんでこんなことを整理しているかと言うと……
「どうしたもんかねぇ……」
「いや本当に。どうするのよこれ」
街の門が完全に閉まっているのだ。しかも、魔道王国の名に恥じず、門から魔道具らしいのだ。左右にスライドするのだろうということと、外から開く方法は見た感じ無いことだけが分かっている。
門を閉じたまま、外を確認する方法がある可能性を信じて門の前に待機するのが普通……というか他の奴ならそれ以外に選択肢はないだろう。
しかしこの私めは、過去に不法侵入した経歴を持つ剛の者。壁の上から侵入することもできるのだ。
「ま、仕方ない。外を監視していると信じて1日だけ待機してみよう」
「りょーかい。さすがに、この板で壁の上を越えるのはやりすぎだものね。」
「あー、うん。ソウダネ。」
釘を刺されたように感じるのはさすがに被害妄想が過ぎるだろうか?……まぁいい。
ふと、壁の上の方を見上げると、いかにもスピーカーですといった機械のようなものが目に入った。先程見た時は無かったはずだが……?
《おい、お前ら!赤いオークはどうした!?》
「ルチル、なんか声が降ってきたんだけど。どっから聞こえてくるんだ?」
「そんなの、いかにもなあの魔道具でしょう。ユーリの目線の先にあると思うけど?」
「あ、そっか。知らないフリするならもっとやりようがあったな……」
「それより、返事はどうするの?大声で返すだけで伝わるのかしら」
「あ〜、まあやってみてから考えよう。ダメだったらジェスチャーをがんばる方向で」
そう言って、だいぶ上の方にあるスピーカーに向かって状況を説明する。
「──だから、門を開けてくれ!!」
《ふむ、了解した。外門を一時的に開く。すぐに閉めるから、すぐ中に入ってくれ》
声がそう言うとすぐに、門が開き始める。かなり大きな門が音もなくスライドする様は、魔道王国の技術力を見せつけられているようだ。
外門、という呼び方からも察していたが、二重扉になっている。外門と内門の間に、10メートル程の距離があり、監視役がいるのも、その空間の横に備えられた詰所らしい。
「はやくこちらへ!」
「ルチル、行くぞ」
「ああ。」
「では、外門を閉じます!──こちら1番、お二人は中へ入りました。外門を閉じてください。」
衛士は、耳元を抑えながら通信を行って、門を閉めるよう指示を出している。
「なあユーリ、彼はひとりで何を言ってるんだ?」
「魔道具で離れたところにいる奴と話してるんだろ、『念話』みたいなもんだ」
「ああ、なるほど!さすが魔道王国、といったところか。衛士の一人一人にそんな高性能の魔道具を預けているとは……」
「確かに。他の街じゃあ見かけもしなかったが……他の国じゃあ、首都くらいじゃないと使われていないのかね」
魔道王国は、他の国々とは違って、首都たる街1つだけで構成されている。もちろん規模も大きいが、何よりも特徴的なのはその技術力。そして、技術力相応に軍事力も信じられないほど高い……らしい。なにせ、街1つで国と対等だと見られているのだ。
「ライトの魔道具か。外門と内門が閉まっても自然の明るさ……酸素が薄くなるのが怖いがそっちも何か対策してんのかな」
「……?」
小声で呟いた疑問点は、ルチルにのみ届いたようだが、酸素という単語を知らないために理解できなかったようだ。少し首を傾げるに留まった。
通信が終わり、衛士が話しかけてくる。
「こんにちは。長旅でお疲れかもしれませんが、少しだけお時間をください。私は、エリフィンの門兵を務めております、クレイと申します」
……さっき声を掛けてきた奴と別人か?声が似ているような気もするが……
「丁寧にどうも。俺はユーリ、こっちはルチルだ。冒険者をしている。敬語じゃないが許してくれ」
「ちょっと、私のセリフ取らないで!言うことなくなったじゃない!……え、えーと、こんにちは」
つい、いつものようなやり取りをしてしまい、クレイは苦笑する。
「はは、仲がよろしいんですね。二人旅をなさっているだけはある。えー、おふたりには、先程の言葉が真実であると確かめれば、一応解放となります。ただ、後々更にお話を伺いに行くかもしれません」
「ああ、問題ないよ。一応、あの赤いオークの討伐証明として、耳は切り取って来たんだ。それを見せればいいかい?」
「あ、そうですか?では、そちらも後で見せてもらいます。まずはこちらに……」
そう言うと、詰所の方へと連れて行かれる。壁の中に部屋がある感じだ……窓があって、そこから門を監視できるようになっている。詰所の中は意外と広い。なんとなく、壁にいろいろ貼ってあってごちゃごちゃしたイメージがあったが、なにもない。いや、何も無いというと嘘か。壁の一面には、外の様子が映し出されていたのだ。
「ユ、ユーリ!これ、外の様子じゃないか!?貴族がよく使う、シャシンとかいう魔道具じゃないか!?」
「シャシンじゃなくてカメラだと思うけど……そんな感じみたいだな」
「はは、外から来た方はこの国のいろんなところに驚かれますからね。僕らもその様子に慣れちゃいましたよ。……では、こちらにお座り下さい」
クレイは、部屋の奥の方へ行くと、何かを持ってすぐに戻ってきた。まあ、魔道具なんだろうけど。
「ユーリさんとルチルさん、でしたね。この腕輪をはめて、先程門の外で言ったことを、もう一度繰り返してください。『鑑定』持ちであれば、はめる前に腕輪を見てもらっても構いません」
この状況で使われる魔道具といったら……あれだよなぁ。だとしたら、エリフィンの技術力ってのは俺の想像よりかなり凄いぞ。
「……じゃあ、遠慮なく。『鑑定』」
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〇真偽判定具(腕輪)
・この魔道具を付けた状態で発した言葉の真偽を判定する。真実であれば何も起きない。嘘であれば、赤く発光しつつ装着者の魔力を封じ、拘束する。
・神聖魔法が使われているため、負の存在が着けると誤作動を起こす可能性あり。
・判定基準は、kf/yg*m×xの参照である。
・装着者によって大きさを変更する。ただし、初期よりも大きくはならない。
・装着者のMPが3000以上の場合、レジスト可能。
・製作者はバニー・クルーガー
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なんかいけないものまで見えてる気がするーーー
不自然かなぁ?




