029 風閃
作品タイトル、ほぼ決定のつもりです。デュアルワールド・ローカス。かっこいい……かっこよくない?
そういえば、この赤いオークは普通のオークより動きが速くて力も強いんだよな。ポーカーに集中してたからさっきまで気付かなかったのは内緒だ。
ちなみに、『鑑定』結果はこれ。現在値ね。
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〜ステータス〜
名前:赤色3号
性別:男
年齢:26
種族:オーク?
職業:斧術士
レベル:52
HP:512/621
MP:152/173
・ベーススキル[P]
『怪力(2)』
・ベーススキル[A]
『斧術(4)』
・ギフトスキル[P]
無し
・ギフトスキル[A]
『硬化(4)』『凶暴化(5)』『衝撃波(2)』
・オリジンスキル[P]
無し
・オリジンスキル[A]
無し
称号
『被検体34番』
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“赤色3号”に『被検体34号』ねぇ……不穏な空気しかしない。てか、「オーク?」ってなんだ「オーク?」って。俺に聞くんじゃねーよ。
ルチルの【吹降紙】を防いだのは、ギフトスキルの『硬化』によるものだろう。『衝撃波』で相殺したりしてなかったし、魔力の気配を感じたし。
硬い相手ってことなら、一点突破で奴の防御を貫くのが効率のいい攻撃ってことだ。もちろん、ルチルが使える攻撃の話だ。俺がやるなら……まあだいたいなんでもいけるだろう。剣で切っても槍で刺してもいけると思う。弓は……魔道具じゃない弓だと厳しいな。札術は……物理ならいけるが、技能だと【ブラックジャック】とかなら……まあ結局カードの引き次第になるか。
(いかんいかん。集中しよう)
湧いてくる雑念を振り払い、練った魔力を詠唱に乗せて、世界に魔法という奇跡を起こす。
「ま、一応手本だしな。『風属性魔法』第四位階でいくか。……“収束、圧縮、解放。我指す先を穿ち貫け。”【風閃】!」
「……グルォ、グォオオオォッ!!」
……初めてコイツの鳴き声を聞いたな。
詠唱は4節だが、収束と圧縮という意味がやや被った語彙のせいで、50程度の魔力が持っていかれる。魔法自体に込めた魔力と詠唱に使った魔力がほぼ同じって事になるな。だがその分、威力はかなり高い。
指先に圧縮された空気が、指向性を持たされ赤いオークに向かって一直線に解放される。髪の毛程の太さのそれはかなり威力を秘めている。拳銃など目ではない程にだ。オークの皮膚を貫いた【風閃】は、狙った通り相手の心臓を破壊した。
(『鑑定』……致命傷だな。)
『鑑定』も使ってHPを確認し効果的であることを確認すると、ルチルの元へ向かう。
「おいルチル。言いたいことは分かるか?」
「うぅ、分からないわ……ごめんなさい、師匠」
「……まあいい。宿についてから説教と説明だ」
「了解よ……」
自分がしたミスを悪いと思っても、そのミスの理由を理解していないと同じミスをするからな。それに、今回のは割と最近教えた内容に関するミスだし。
「……って……あん?なんだこれ」
「師匠?」
「オークのHP減少が止まった……ルチル、離れろ」
「え!?りょ、了解!」
ルチルは、ミスを悔やんでいる最中にも関わらず、すぐに切り替えて指示に従う。こいつに色々教えたくなるのは、こういった部分が好ましいからかもしれないな。
「グォオオオォオ!グルルァアアアア!!!!」
「急に元気になったな。傷もそのままなくせに、HPの減少は完全に止まった……心臓を潰しても動くってことは、魔力か。んー、スキル『凶暴化』か、コイツを操っている奴がいるかのどっちかかなぁ」
「グォアアアアア!!!!グルァアアア!!!!」
「……う、うるせぇ……さっきまでかなり静かだったじゃねぇかコイツ……」
心臓を潰してダメなら、頭部を潰す。それでもダメなら、体を細切れに。それでもダメだったら消し飛ばす。うむ。完璧な作戦だな。
「恨みはないが……理不尽を享受しろ」
俺が最近習得した、『創武器術』。『魔力創造主』により即興で武器を創り、そして消して相手を翻弄し圧倒する技術だ。
「シッ」
距離を詰めつつ、右手に両刃の剣を創造。オークの振り下ろした斧と打ち合う寸前、創造した剣を消去。オークの斧は力のままに地面へ振り下ろされ、オークがバランスを崩す。勝機。剣を振っていた力のままに手を上へ伸ばした俺は、奴が使っているものにも劣らない両刃の斧を創造する。
「グオオッ!!」
「潰れろ」
創造した特大の斧を片手でそのまま振り下ろす。バランスを崩していたオークは斧から手を離してでも頭部を庇おうとしたが、間に合わない。我ながら、えげつない戦闘術だ。初見で対応できる奴はなかなかいないだろう。
オークの頭部は真っ二つに割ったため、かなりグロい事になっている。これ、耐性がない人が見たら吐くだろうな。
「さすがに頭を潰したら動かないか……てことは『凶暴化』だった可能性の方がちょっと高いかなぁ」
そう言いつつ、念には念を入れて、オークの死骸を焼却する。討伐証明の耳を剥ぎ取るのも忘れない。
「火属性はスキルレベル1だから魔力込めてカバーしないとだな……“火よ、全てを灰燼に帰す神の炎よ、骸を葬送せよ”【炎弾】」
『神』の名は伊達ではない。詠唱に入れると、アホほどMPを消費する。しかも、基本属性魔法をレベル8まで上げた時に(多分)もらえる『神気』というパッシブスキルが無いと発動すらしないのだ。……今のところ、俺しかサンプルがいないから情報に間違いがある可能性が高いけどね。
そして、『神』の名を詠唱に含んだ魔法は、アホほど消費したMPに釣り合うだけの、かなりの効果をもたらす。赤いオークの骸も、しっかりと焼却できた。
「ユーリ、終わった?」
「ああ。待たせたな。」
「大丈夫よ……あのオークが復活する前はともかく、復活後はどうあがいても死ぬだけだったと思うから……」
「……そうだな」
「ちょっとは否定してくれてもいいんじゃない?」
そう言ったルチルは、少し拗ねた表情を見せる。
「悪い悪い。デリカシーって奴は親に食われちまったんだ」
「はぁ……面倒になったのが分かりやすすぎるわね……」
「悪いって……今日の飯代は奢るから許してくれない?」
「ホントに!?ふふふ、しょーがないわね!私、今日はオーク肉を食べたい気分なの!いい店探してよね!!!」
食い物で機嫌を直してくれるだけ、男に優しい良いエルフだよ、まったく。
戦闘シーンめっちゃむずい……『創武器術』は今後のメインにしたいんですけど、描写がすごく難しいですね……




