002 女
話は区切りがいい所で切るので長くなったり短くなったりすると思います。
「ん……んぅ……あと5分……」
しの先生は、寝起きが弱いのかアニメでしか聞いたことのないようなセリフを吐く。
普段わりとキリッとしているのにこの可愛らしい声は男子高校生的に刺さるものがあるな。だが同時に俺の社会的立場がゴリゴリと削られている気分なのでさっさと起きて欲しい。
揺さぶるのも「胸の揺れが見たかったのか」だなんていちゃもん付けられそうで怖いので、耳元で大きめの声を出す。そして、わっ、という捻りのない発声でしの先生がお目覚めになった。
「う、うるさい……あれ…? え!? 黒野くん!? わ、私もしかして寝ちゃって……って、え!?!?なにここ!?」
「おはようございます、先生。そして落ち着いてください。俺も起きたら突然ここにいて、わけがわからないんです。とにかく、みんなを起こしませんか」
「そう…そうね。ありがとう、落ち着いたわ。分かった、私もしっかりしなくちゃね。私が女子を起こすから、黒野君は男子をおねがい!」
俺が行動を指定したこともあって、かなりアウトな状況だったことは気付かれず有耶無耶になった。一安心だ。まあ、目が覚めたら知らない場所にいたんだから冷静になれないのも無理はない。
だからこそ、大人だから、生徒の前だからと冷静であろうとしている姿には素直に尊敬してしまうな。打算のない必死さがあるからだろうか?
だが……他のクラスメイト達は、まずい、だろうな。うちのクラスは37人。男子17人と女子20人、そして担任の篠宮先生で構成されている。こんなに人がいれば当然騒ぐ奴が出るし、怪我人が出るかもしれない。
こんな状況でメンツのキャラが濃いことがいい方向に作用するなんて、ありえない。分かりきってることだ。
ああ、きっとこのクラスの委員長になる奴は、きっと胃薬を毎日飲むことになるだろうな。
༅
さて、ここで愉快な俺のクラスメイトの一部を紹介しよう!
最初は呆けていたが突然泣き出した、眼鏡をかけている園芸部の女子生徒A!
その女子生徒Aに抱きつかれて、宥めているうちに自分も泣き出した茶髪長髪の女子生徒B!
「あらあら、こんな格好で寝てたなんて……恥ずかしいわぁ」とおっとりした口調で頬を抑える舞踊家のお嬢さんA!
「はっはっは! 本当にどこを見ても真っ白だな! いやぁ、ペンを持っていないのが悔しくて仕方がない! ここに好き勝手落書きできたらさぞ愉快だったろうに!」と宣う筋肉モリモリな男子生徒A!
「こっから出せ!」「ふざけんじゃねぇ!」「聞いてんのか!!?」と誰もいない空間に叫び続けているヤンキーA!
そしてそのヤンキーの取り巻きなのに、そいつに怯えているヤンキーB!C!D!
地獄絵図すぎる。もちろんこいつらは1部だし取り巻き以外の気持ちなら共感できるけれども。やっぱり地獄だ。
こいつら以外にも、ずっとブツブツ言ってる奴やら笑ってる奴やらで収集が付かなくなっている。
今はまだ5月。俺たちは2年に上がったばかりで、お互いのことをよくは知らない。1年の頃からの知り合いが数人固まってはいるけれど、全体を引っ張りまとめるリーダーはいない。小説でよくいるような、カリスマで体ができてるような奴もいない。
金曜、つまりは明日の5限とその来週に、2週にわたってクラス委員を決める話し合いをする予定だったから、まだ委員長とかも決まってない。
互いのことをある程度知ってから決めようっていうクラスの方針が仇になった形だな。
クラスメイト達がこうなってしまった要因の1つは、犯人からのアクションがなにもない事だろう。自分たちの状況を認識する時間がたっぷりあるのに、状況が何も分からない。事態が進まない。怖くなって当然だ。
そして、こんな地獄絵図であっても誰も動かないのは、動くと何かしらの危険があるかもしれないからだろうな。だが、この空間の端はどこにあるのか、出口はどこか。探らなければなにも分からないままだ。
……誰も行かないか。まあ、当然だな。最初に動くのは怖いだろうし、和を乱すのは良くないだろう。動かないことで悪いことは起きてないしな。酸素が薄くなっている様子もない。俺もしばらくは様子見をしようか。そんなことを考えていると、俺たちの前に謎の女性が立っていることに気付いた。
なんだコイツ!?いつ、どこから現れた!?
「あ、みんな遅れてゴメンね☆ ちょっとバタバタしちゃってすぐ来られなかったの(ノ≧ڡ≦)☆ てへぺろごめりんっ☆」
「「「「!?!?」」」」
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