027 誘
ホールに戻ろうと思い通路の方へ歩き出すと、エルフ少女さんと目が合った。
「……ホールに戻るの?」
「ああ。そのつもりだけど」
「そう……」
(向こうから声をかけてくるとは。やっぱ『鑑定』されて興味を持たれたかな。)
しかし、会話はそこで途切れる。エルフ少女は何か言いたげだったが、それに付き合う義理も無い。さっさとホールに戻ることにした。
すると、エルフ少女は少し焦ったように俺に付いてくる。
「……ふむ。なあ、アンタさっき俺に『鑑定』をかけたか?」
「ッ!……ええ。やっぱり気付いてたのね。ごめんなさい。いろいろあって緊張しちゃってて、つい……」
「別に構わんが……そうだな、じゃあ、代わりにアンタを『鑑定』させてくれ」
やられたらやり返す。等倍返しだ、妥当だろう。俺のステータスが強者のそれであったからかは分からんが、気にしてるようだからな。モヤモヤを残すのは良くないし。健全な精神は大切だ。
「気を使ってくれたの? ……ふふ、勝手に怖い人だと思ってたけど、優しいのね。ありがとう。年齢を見られるのは嫌だけど……私が悪いから。『鑑定』していいわよ」
「そうかい、じゃあ遠慮なく。『鑑定』」
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〜ステータス〜
名前:ルチル
性別:女
年齢:112
種族:エルフ
職業:弓使い
レベル:21
HP:34/34
MP:35/65
・ベーススキル[P]
『気配察知(4)』
・ベーススキル[A]
『風属性魔法(3)』『弓術(2)』『遠視(2)』
・ギフトスキル[P]
『精霊の加護(-)』
・ギフトスキル[A]
『鑑定(4)』
・オリジンスキル[P]
無
・オリジンスキル[A]
無
称号
『精霊の加護』
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「……見ておいてなんだが、興味が無いもんを見る意味が無いな……」
「なっ!? 他人のプライベート見ておいてなんてこと言うの!?」
「先に覗いてきた奴が何言ってんだ」
「ぐっ……いや、それは確かに私が悪いんだけど……はぁ、ほんとにもう!」
この世界のエルフは、数多のファンタジーを裏切らない長命種だ。エルフの中でも特に長寿な者は、1000歳まで生きた例もあるという。だから、このルチルとかいうエルフは、人間の年齢に直すと11歳ってことに……なるのか?
いや、人間の寿命が100歳もあるのは、医療技術が発展している地球だからこそだとよく言う。この世界だと……分からんな。魔法があるといっても、回復魔法はかなり貴重らしいし……
まあいいや。分からなくても死にはしない。自分が死んでも気にしない俺なら、向かうところ敵無しと言ったところだ。
そこまで考えたところで、ホールについた。ミアさんは休憩中なのか、受付のカウンターには見当たらなかった。
酒場の隅を借りて試験官を待っている間、俺から声をかけて心理的な壁が旅に出たのか、ルチルがやたらと声をかけてくる。
「ねぇ、アナタ、そんなに強いのになんでDランクなの? 迷宮にも入らず、外の魔物だけでそんなに強くなったの?」
「急にぐいぐい来るんじゃないよ。面倒な。見ず知らずの人にそう突っかかるんじゃありません」
「だって……いいえ。その、ごめんなさい。」
まだ言い募ってこようとしたが、自制したようだ。にしても、やたらと絡んでくる。何が目的だこいつ。
しかしまあ、試験官が来るまで暇だし。少しはいいか。
「ま、試験官が来るまで暇だしな。1つずつなら質問に答えよう」
「……ほんと?じゃあ、えっと……さっきした質問でもいい?」
「いいとも〜」
「……なんでそんなに強いのにDランクなの?」
気軽なボケがスルーされた。まああの番組を知ってるわけもないので、俺が悪いが。
「そりゃあ、強くなった後に冒険者登録したからだな」
「てことは、高ランクの冒険者が師匠だったり?」
「そんなとこだ」
嘘である。まあ、その方が自然っぽいし。話を合わせるという超高等テクニックだ。陰キャは適性がなくて習得しづらいことで有名だ。
「外の魔物だけでそこまで強くなったの?」
「そんなとこだ」
嘘なのだ。ダンジョンに入れるのはDランクから。言えないことだから仕方ないのだ。ルチルが少しずつジト目になっているのは気にしないのだ。
「私とパーティを組んでくれない?」
「そんなとこだ」
「……」
「……」
「…………すまん」
口が滑った。
「にしても、突然なんだ?俺とパーティって」
「不自然ではないでしょう? アナタは強いし。アナタと組めれば困ることはないんじゃない?」
「……わざわざ不自然ではないって口に出すあたり、自然だと思わせたい意思が見え隠れしてるのは気のせいか?」
「…………気のせいね。もしくは、気付かなかったフリをしてくれるとありがたいかも」
ふむ。やたらぐいぐい絡んできたのはパーティが組みたかったから、と。だが。
「悪いな。試験が終わってDランクになったら、別の国に向かうつもりなんだ」
「そう……残念ね。アナタと組めれば……いえ、もうやめておくわ」
「ま、冒険者を続けてればまた会うこともあるんじゃないか?」
「そう、ね。……再会した時、私の事忘れてたら承知しないんだから」
「善処しよう」
絶対忘れてるという確信がある。わざわざ口に出すことはしないけどな。
と、そこで、試験室に通じる通路から試験官達が戻ってくるのが見えたので、そちらに向かう。
「ま、お互い適度に頑張ろうぜ」
「ええ。…………私は、適度に頑張るだけじゃ、足りないけどね。」
返事の後、彼女が呟くように言った言葉は、お約束のように、俺の耳に届くことは無かった。
༅
俺たちが無事、Dランクへの昇格を果たした数日後。
心の中が旅一色になった俺は、装備や備蓄などの確認を済ませ、いざ、魔道王国エリフィンへの旅を開始する。
……つもりだったのだが。
「私も一緒に行くわ」
「なぜお前が俺の宿の前にいるんだ……」
どうやら、アゲハとの寂しい二人旅ではなくなったようだ。
もう50話くらい書いたつもりだったから、話数見てビックリした。




