019 冒
「でかいな。分かりやすさがとてもグッド」
なにせ、『冒険者ギルド』と看板にでかでか書いてあるからな。剣のモチーフもデカデカと飾ってある。
街の出入りが規制されてるってことは、冒険者の不満が溜まっていてもおかしくない。変なのに絡まれる、テンプレってやつが起こらないことを祈ろう。
「……おー。分かってたけどマジで広いな。天井たっけ〜」
ギルドに入ると、再びその大きさに圧倒された。学校の体育館くらいはあるんじゃないか?物語でよくあるように酒場を内包しているようで、その兼ね合いもあるのだろう。そして、驚いたことはまだある。それは……
「いや〜助かったよ! ちょうど人手が足りなくてさ!」
「頼むよ、食事代もカツカツなんだって! もーちょっと色付けてくれって!」
「ダメですって! もう! いい加減にしないとジンさん呼びますからね!!」
「いや〜やっぱ昼間っから飲む酒はうめえな! う、お前らそんな目で見んなって! 今日は休みなんだからいいだろ!?」
と、このように非常に賑やかだって事だ。街の出入りが制限された影響で、もっと閑散としていると思っていたが予想が外れたな。外がピリピリしてたから、余計にそう思ってしまう。
受付は……あそこか。看板があるな。「総合受付」「依頼受領」「完了報告」「素材買取」「手紙窓口」か。専用の受付は無さそうだし、「総合受付」でいいのかな。
「総合受付」の列は人がほとんどいなかったので、すぐに俺の順番が回ってきた。……驚いた。チンピラには絡まれなかったが、美人の受付嬢というテンプレはしっかり仕事をしているようだ。
胸元のネームプレートから、その受付嬢は「ミア」という名前なのだと分かった。茶色の長髪や眩しい笑顔から、活発そうな印象を受ける。
「こんにちは!本日はなんの御用でしょうか?」
「こんにちは。 (挨拶は『こんにちは』なのか。こんなところも地球と同じとは) ……冒険者の新規登録がしたいのですが、受付はここで良かったですか?」
「はい、問題ありませんよ! 新規登録でしたら、身分などをこちらの用紙に書き込む必要があります。代筆は必要ですか? こちらの代筆は代金がかかりませんよ!」
その言葉で、自分の小さなミスに気付く。
(ああ、しまった。文字が普通に読めていたから確認し忘れてた……日本語で書いて通じるのか分かんないじゃん)
「じゃあ、代筆お願いします、すみません」
「ふふ、謝ることじゃないですよ! ほとんどの方が代筆で記入なさいますからね。では、各項目の質問を順に言うので答えてください! では、まず。お名前は?」
「ユーリです……」
という風に、淡々と各項目を答える。質問は5つしかなかったのですぐに終わった。聞かれたのは、名前、魔法が使えるかどうか、魔物/モンスターを倒したことがあるか、今すぐにパーティへの加入を求めるか。そして最後は、犯罪を犯したことがないかの確認だった。パーティ加入以外の質問にはYesと答えておいた。
実際に魔法を使ってみせろとか言われなかったんだが、嘘つき放題じゃないか? などと思っていたら、それが顔に出ていたのか、ミアさんが教えてくれた。
「ふふ、不思議そうな顔ですね? 真偽なんて、この職には関係ないんですよ。その人が強いのか、依頼をこなす能力があるのか。それだけです。その分、受けた依頼を失敗すればお咎めなしって訳でもないんですけど……まあそれは、今から説明します!」
「?」
「冒険者について、ですよ。」
と言うと、コホン、と軽く咳払いした後に冒険者という職についての説明が始まる。心なしかキリッとした表情になった気がした。
「新規登録のあなたは、最低ランクのFからスタートになります。ランクはFからE、D、C、B、Aと上がり、Sが最高ランクになりますね。Sランクになれる人なんてほんのひと握りだけれど……あなたもそうだといいですね。肝心のFランクの証明証はこれになります、どうぞ」
「ありがとうございます。」
そう言って、何かしらの金属でできたプレートを渡された。くすんだ茶色で、見にくいが何かしらのマークが刻印されている。お礼を言ったあと証明証とは何か聞こうとしたが、それを遮るように説明が続く。
「証明証とは。このギルドに登録した冒険者である証明です。ランクが上がれば更新して、より豪華なものになります。ギルドと提携しているお店で少しだけ割引きしてもらえたり、そっちにある酒場で食事する権利を得ることもできますね。
まあそっちはおまけみたいなもので、本来の使い道は依頼受領と達成の報告時に提出することです。自分のランクを超えた依頼は受けられないから、その時に確認するんです。……なにか質問はありますか?」
「うーん……あそうだ、もしも証明証を無くしたらペナルティとかってあるんですか?」
「ふふ、あるとも言えるし、ないとも言えますね」
「?」
「あ、意地悪してごめんなさい! FランクとEランクの証明証は同じもので、もし無くしてもペナルティはありません。FランクからEランクの間は見習い期間みたいなものだから、誰でもなれるし、やめるのも自由なんです。でも、Dランクからは違います。まず、証明証を貰うのにお金がかかります。冒険者をやめる時には必ず証明証を返却しないといけません。
それで、故意かどうかに関わらず、もし無くしてしまったら、その金額がそのまま罰金になるんです。ランクが上がるほど責任も大きくなり、罰金だけじゃなく依頼失敗時の違約金なんかも増えるから気をつけないといけないのです」
「なるほどなるほど」
ミアさんは、なぜか分からないが話していくにつれて機嫌が良くなっていくようだ。......女性のおしゃべり好きって、こういうのにも適用されるんだろうか?
「さて、最初にしないといけない説明はこれくらいですね。Dランクへの昇格からは試験がありますので、まずはそれをめざすといいですよ!」
くっ、笑顔が眩しい、とてもかわいい。
なにはともあれ、冒険者についての説明を受け終わったので、さっそく1つ依頼を受けてみようと思う。
「なにが効率いいかとか全くわかんないな。いや当然だけどさ。」
と、いうことで。適当に右から3番目の依頼紙(?)を手に取って、受付へと持っていくことにした。
よくあるやつですね。ネタバレですが、作者の強い意思により、受付嬢が主人公に恋するパターンはありません。ごめんね
また、主人公が日本語を書いて伝わるか分かんない、と思ってる描写がありますが、神が説明した部分ですね。
小説でよくある、『言語翻訳』のスキルやらアイテムやらの効果と、純粋に日本語が使われている不自然な現状とがごっちゃになって勘違いしているようです。