018 壁
そういえば、門兵は俺の装備を見ても特に何も言ってこなかったな。考えられる理由は3つだ。
1、鑑定を使えなかった。スキルとして持っていなければ鑑定できないからな。俺としてはこのパターンだと1番ありがたい。
2、この世界では特に珍しくもない性能をしている。この場合、一般人が身に付けていてもおかしくないくらいありふれたものってことになる。もしそうなら……問題は特にないけどちょっとショックを受けてしまうな。割と自信作なんだが。
3、鑑定を使わなかった。これは、1と似ているようで全く違うものだ。門番という立ち位置の人間が、持っている『鑑定』を使わないというのは考えにくい。安全面から考えれば当然だろう。つまり……この世界では、みだりにスキルを使うことを問題視している可能性があるということだ。
3のパターンだと少々面倒だな。今の俺は、移動も食事もスキルに頼ってる部分が大きい。最悪、人里から離れて生活することも考えなければ。まあ、そうなったとしても特に痛手はないが。
せめて異世界の料理を食べないと心残りにはなるけど、困るのはそれくらいだ。
「ここら辺で入るか。」
そう小さくつぶやくと、空歩と飛翔を発動して空へと舞い上がる。
さて、この街の外観について全く触れていなかったが、まあそれについてはひとことで済む。見えてる部分は全部壁。それだけ。そこから分かる事といえば、それなりに大きな街だろうって事と、街の設計段階からダンジョンから魔物が溢れること(スタンピードと言うらしい)をかなり警戒しているってことだな。
つまりは、この街はダンジョンありきで成り立ってるってことだ。ダンジョンがある所に、街が出来たってことだからな。だから門番さんが言ってたように問題になってるんだろう。
「おお……」
外壁の上に立ち街を見下ろすと、思わず声が出てしまった。小説でよくある「中世ヨーロッパのような街並み」といった表現は、まさしくこれを指しているのだと実感したのだ。
俺は、旅は好きだが準備するのがめんどくさいから結局行かないっていうタイプだから、地球にいた頃は日本から出たことはなかった。海外に行きたいって気持ちはあったんだけどな。
その反動かは知らないが、ちょっと感動しちゃってる、気圧されてるともいうな。
「確かにちょっとピリピリしてるというか……なんとなくみんな暗めな感じはあるな」
門番の言っていたゴタゴタの影響なんだろうが……民を不安にさせてるっていう点からも、お偉いさんは相当無能なようだ。もちろん俺の個人的な意見ですけどね?
……本当はわざわざこんな厄介そうな所に行きたくはないんだが、やっと人の集まる所に来られたんだ。せめて地図の入手とギルドで冒険者登録だけでもやっておきたい。
『鑑定』で得られるマップは、ある程度の制限があるんだ。便利なことは間違いないけどな。
いろいろ弄った結果、拡大・縮小や場所の名称を知ることができる反面、一定の範囲までしか情報が得られない上に離れるほど得られる情報が減ると分かった。
一応、冒険者ギルドと冒険者についても説明しておこう。冒険者とは、言ってしまえばなんでも屋だ。雑用や仕事のサポート、魔物の討伐など、仕事内容は様々な種類がある。その中でも、最も比率が重いものがダンジョンの攻略だ。
ダンジョンを制覇すれば、魔道具やマジックアイテムと呼ばれる類のものや、高位の魔法が込められた「マジック・スクロール」、ミスリルやアダマンタイトという、非常に珍しい鉱石で創られた武器防具。そして、1番の目玉であるスキルオーブが得られるのだ。
この世界では、スキルオーブの価値がとても高いらしい。基本的にダンジョンでしか見つからない上になかなか見つからない、見つかったとしても『鑑定』や『基本剣術』『初等魔法』などの弱いスキルのものがほとんどだから、強いスキルが得られるスキルオーブを売れば一気に大金持ちだ。
まあ、俺は売らずに自分で使うつもりだけど。
この世界に来てどれくらい経ったかもう把握してないけど、とりあえず自分の力を振るって戦うのが楽しいことは分かった。
結局人生は遊びだ。別の世界に来てもそれは変わらないと気付いた。自分の命になんかこだわらず遊び倒す。……あの虎に感謝だな、「生きたい」だなんて俺らしくない思いを強く抱いたことで俺らしさを思い出せたんだから。
……あれ、そういえばまだ壁の上だった。さっさと街に入ろう。