156 神の御城
前回までのあらすじ
ほぼ誘拐のような手口で異世界へ転移させられた主人公・ユーリ含む寄せ集めクラス一派。
クラスメンバーとは完全に孤立した場所に転移したユーリはすごく便利なスキルを使いそこそこ辛い訓練をして力をつけ、諸々の問題をその場のノリで解決する。
ダンジョン産業とか奴隷制度とか国王とかに興味があって軍事国家ランパードへ訪れたユーリ一行は、その場のノリで異常事態に首を突っ込み不思議な館へ乗り込んだ。
館内はTRPGのようなシステムで動いており、スキルの発動にも確率が絡むような場所で詳細不明の化け物も存在した。
果たして彼らは館から脱出できるのか。世間を騒がせていた濃霧問題の原因は突き止められるのか。
「にしても広い館だな……」
無事魔物を撃退した俺たちは、一刻も早くトイレを見つけ出すために二班に別れて館の探索を行っていた。
とはいっても、不用意に部屋の中へ入るのは危険なことだというのは全員が理解していたので、あくまでもそれっぽい部屋がないかどうかを探すだけである。
そして、怪しい場所があればもう一方の班を呼び付けて全員で探索する。
結果的にトイレを発見したのは、班を分けてから2回呼びつけ合った後。時間にして約15分後だった。
「ふう……生き返った……」
「キショい。キモい。仕方ないことだとは思うけどその発言はさすがに引く」
「リーダー変更しましょう。魔法使いを新リーダーにしましょう。そうしましょう」
「う……すまんて……」
「大丈夫だ冒険者A、生き返ったのは俺も同じだ」
「慰めになってねぇって……てか名前覚えてくれよ……」
なんだかんだでみんな危なかったようで、ここのトイレがアホみたいに豪華じゃなかったらトレイの奪い合いになっていただろう。
あまり大声で言うのは憚られるが、女子の方も結構大変だったようだ。出てきた奴と目が合ったら睨まれたし。
いくらダンジョンに潜ることが多いせいでその辺の事情がキツめなことに慣れている冒険者相手であっても、デリカシーは大切らしい。すまん。
「とりあえず調べるべきは館から出る方法か? それとも例の煙の出どころ?」
「そういや、あの扉から霧が出てた割には館の中は霧も煙もないんだな。……そもそもこの辺りを調べてたのも霧の発生源を調べるためだし、順番はどうするにしても調査はしないとだな」
「そこは理解してるよ。だから、とりあえずの行動指針としてどっちを優先するかって話だ」
「それ決める必要あるか? 部屋を順番に調べていって原因とか怪しいものを見つけていくしかないんだから、意味ないだろ」
「……それもそうか」
欲を言えばまた2班に分かれて探索したいところだが、あのレベルの敵性生物が出てくるならそれは無謀だ。効率は悪いが、コイツの言う通り全員で一部屋ずつ順番に調べていくしかないか。
「よし、やるかぁ」
そうして始まった本格的な館探索。それは、正気を保ったまま行うにはそこそこの苦行だった。
重力がバラバラで30秒ごとに重力の向きが切り替わる図書館、血のように赤いドロドロした雨が降る部屋、部屋の中央に鳥籠があり、その中に小さな小さな竜がいるだけなのに肌にチクチクした痛みが走る部屋。異形の謎の食べ物が並べられ、そのうちいくつかが明らかに人間以外に齧られている部屋に、不思議な存在感を放つ水鏡が1つあるだけの部屋。
不思議なダンジョンだと割り切ることができれば多少はマシなのだろうか。それぞれの部屋が変に日本や地球の諸外国に近しい文化感をしているせいで、その異常性が際立って感じてしまう。
(不可視のパラメータに変動がありました)
またか。館の探索で何度か同じ声が聞こえた。他のメンバーも同じだろう、時々体がピクっと震えていた。……尿意とかのせいではないだろう。多分。
「変な部屋ばっかだけど、あのバケモノの気配は無いな」
「アイツらが出てきた方向にも変な部屋は無かったしな。とりあえず、これで1階の部屋は全部見たか」
「ああ。煙の発生源っぽいものは何も無かったな」
「てことはー、2階? 2階はそんなに広くなさそうだし、すぐ調べ終わりそうだね!」
「だね。1階の部屋を調べ直すことにならないといいけど」
それフラグかなと思いながら階段を上る。エントランスと階段の造りから、2階の方が部屋に割かれている面積は狭い。部屋数も4部屋+トイレだけみたいだった。
「こういうの左右対称じゃないの気になっちゃうわ」
「そうですか? それじゃあトイレの向かいにトイレを作るか、いっそ2階はトイレ無しにするしかなくなっちゃいますね!」
「選択肢はまだあるぞピンク髪。真正面のど真ん中に作るという選択肢だ」
「見栄え最悪ですねそれ」
2階に上がったからといって雰囲気が大きく変わるようなことも無く、探索は淡々と進んだ。
俺が学院で学んだ理論のどれにも当てはまらない魔法陣が大きく描かれた部屋、檻の向こうが完全な暗闇になっていて見ていると不安になってくるケージが並べられた部屋、人魂のような謎の発光体がいくつもフワフワと漂い異常な臭いが充満している部屋、1階よりちょっと簡素なトイレ。
そしてとうとう、探索していない部屋は一つだけになった。
いよいよ最後の部屋の前というところで、冒険者組のレンジャー、リュオンと呼ばれていた男が口を開く。それは軽い口調で、緊張する心中を隠すようだった。
「なんか……ちょっと楽しくなってきたな。気になるのは、霧の原因に繋がってそうなものがまだ何も見つけられてないことか」
「あの近寄りがたい正面入口の扉を突破できそうなものも無いしな。あの図書館をもっとよく調べれば何か出てくるんかね」
「……どうだろ。あそこの本には、どれも魔力が込められてた。不用意に開くのは、危険」
「お前がそう言うから結局あそこもまともに見れて無いんだぞ~?」
「落ち着けレンジャー。魔道具に対する魔法使いの危機管理能力で何回も助けられてきただろう」
「……そうだけどよぉ。やっぱり調べなきゃ何も始まらねぇって思っちまうよ」
「……とにかく、最後の部屋を見てからだ。また調べ直す時は図書館を最初に見ることにする。それでいいな?」
「了解だ、リーダー」
冒険者組の話し合いも済んだ。
全員の総意を受けてドアノブに手を乗せる。
その瞬間、俺の意志とは無関係に扉が内側へ開かれ、中からとてつもない光が溢れ出した。
「くっ……」
「まぶし!?」
光に包まれ、目がまともに機能しなかった為に咄嗟に発動しようとした『気配感知』は、GMによるアナウンスや確率での成功失敗の判定も介さずに念じただけで発動する。
館のシステムが崩壊したのか、この部屋だけ切り離されているのか。そう考えるのと同時に、『気配感知』で周りに3つの気配があることに気付いた。
胸元にはアゲハの気配が変わらずあった。そのことを把握した瞬間、館に入ってからアゲハが一言も発していないことに気付く。
(情報量が多い)
そんな思考が現実逃避のように考えを邪魔してきた頃、唐突に声が響いた。
「さ、目を開けなよ。もう光は収まってる。目も治っただろ?」
「……ホントだ。て、あれ? 日本人顔2人組じゃん」
「「……」」
声に従って開いために映るのは、いつぞやの空間によく似た真っ白な空間。どこまで続いているのか、壁や天井があるのかすら分からないあの部屋だ。
そして、正面に座っているのは1人の少年。見覚えはないし、声に聞き覚えもない。Tシャツに短パンでスカーフを付けているのが欧米感を漂わせていた。テンガロンハットでもあればカウボーイに憧れてる子供に見える。
俺の右後ろには、館で一緒に行動した日本人顔2人組。結局探索で一言も喋らなかった上、戦闘でもターンが回ってなかったから存在感がめちゃくちゃ薄かった。今4人きりの空間に招かれてようやく思い出したくらいだ。お前ら居る意味あんのと思ってたのは内緒だ。
「やあ、やっと逢えたね。本当はもっと早くに会うつもりだったけど、君らが館を空間ごと歪ませるからそっちのフォローで忙しくなっちゃった。んじゃ、自己紹介をしよう。僕は悪戯神ラジェ。混沌に汚染され、世界の破滅へ導く一徒だ」
「神……汚染? 世界の破滅?」
世界の破滅。その言葉で、俺の脳裏にいつぞやの決闘が思い出された。二丁拳銃を使っていたあの男──シグが口にした言葉。
《……俺たち救世七星は世界を救う為に動く。もうすぐ終わる世界から、人々を救うんだ》
世界を救う。その意味は──
「そうらしいね~。救世七星はどうやら、汚染された神々を滅するか、他の手段を見つけ出してこの世界の人々を救う気みたい。……くふ、あぁ、面白いなぁ! もしそれが成功するのなら早く見てみたい!」
「……あんた、自分も汚染されてるって言ってませんでしたっけ?」
「言ったよ。でも、僕は悪戯神だからね。何事にも本気で取り組まないし、何事にも斜に構えてるし、何事にも裏切りの目を探してる。そういう性質なのさ」
……分からない。目の前の神が言っていることが本気なのかも分からなければ、そもそもなぜ俺と対話しているのかも分からない。
「その理由は簡単。話せるのが君たち3人しかいなかっただけさ。転移者が特別だって話じゃないよ? 神の御城は1度訪れた者が再び訪れやすいってだけ。それと、用件の方もそう複雑じゃない」
そう言って口元を手で覆い、一拍溜めてから神はこう告げた。
「僕とゲームをしよう」
どうしても最後のセリフが書きたかった。
「ゲームをしよう」。いいセリフですよね。厨二感あってとても好み。
さて、晴れて就職した僕ですが就労し始めた後に小説を書く元気なんてまともに取れるわけがなく、ようやく慣れて来たので投稿を再開することにしました。
投稿を休んでいる間にストックがたくさん作れているわけでもないのでまた投稿に間は空くかもしれませんが、この作品については失踪するつもりはありません。
誰も読んでなくても完結させてあげたい。そして、この作品で創ったものをベースにいい作品を書きたい。そんな感じです。
活動報告で書いた投稿予定がめちゃくちゃ嘘になったのは本当にごめんなさい。
それでは!