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154 そして考

登場人物


・ユーリ、ラノア、タガミ、ルチル

・冒険者リーダー(レンジ)、レンジャー(リュオン)、魔導師フー、ピンク髪ハンマー使い(ライラ)

・日本人顔男、女

 至言(しげん)ってそもそも何だろうな? 雰囲気で読み取ってたけど。日本語として存在する単語なのか?


「至言ってのがそもそも何なのか考えないか?」


「ふむ? 考えることかそれ? 正しいところをズバリと言い当てた言葉、みたいな意味だろう」


「……ほう」


 ふむ、存在してる言葉だったかと、リーダー(レンジ)の言葉に頷く冒険者組一同を見てそう思う。


「そうか。造語だったら色々思い付くんだけど残念だな。……シゲンがダブルミーニングで言い換えられるとかな」


「だぶ……?」


「……? ……ああ。悪い。発音は同じだけど別の意味の言葉に言い換えられるって言いたかったんだ」


 また出たな。ちょいちょい発生する他国語のコミュニケーションエラー。気を付けていても時々英語とかで喋っちゃうのよな。


「至言、始元、資源……シゲンとひと口に言っても色々あるだろう?」


「ほう……確かにそうだな」


 空中に指を走らせ文字で伝えると、納得して冒険者男Aが唸る。


「シゲン……始まりの方の始元だったら簡単なのにね~。やっぱり始元で口にするのは卵でしょ!」


「ん?」


「……ああ、ノークレースの卵か。うん?」


「そうか!!」


「「「ノークレースの卵だ!!!」」」


 ノークレースの卵とは、この世界ゲールで独自に生まれたことわざだ。主神は人間を生み出した時最初に真っ黒な卵を創り出し、「この卵が全てを支え解決する。故に進め」と伝えたと言われている。

 その卵はどんな攻撃をしても割れないほどの硬さだったが、茹でることで食せるようになり、そのまま放置していれば畜産に適した鳥系の動物が(かえ)り、地面に埋めれば農耕物の成長を補助した。

 ことわざとしては「非常に硬いこと」、「万能なこと」という2つの意味を持つ。


 そして、ノークレースの卵ならこの状況の全てに合致するのだ。至言であり、始元であり、資源でもある。さらに、「口にする」というワードが言葉を話す事ではなく食すことを意味するのであれば……


「このサラダに使われてる卵が……」


「そういう事だな。で、こいつをあの像の口に投げ込めってことか」


「俺がやるよ。食いもんを投げつけるのはちと心が痛むが、この際仕方ない」


 俺は『投擲術』のスキルが今使えないので、名乗りを上げたレンジャーに任せることにした。

 レンジャーはサラダの中から卵の外側に当たる黒身の部分だけピックアップし、軽く握った。そしてすぐにスキルの発動を宣言する。


「『投擲術』を発動する。……よっと」


 いくつかの欠片があるにもかかわらず、それらはひと塊になって美しい放物線を描いた。途中で飛び散ることなくそのまま見事に像の口に卵が入ると、跳ね返って少しだけ床へ落ちていった。

 成功だ。


「さすが! よくやったレンジャー(リュオン)!」


当たり前(ったりめー)よ。……それより、なにか変化は?」


「……いや。特には……」


「謎解きが間違いだったか? ……間違えた時に罰がない謎解きは難しくてかなわんな」


 ちょっと気になる部分もあるが、とりあえず()()()()に関してはもう終わりだ。


「忘れたのか?〈民たちは見上げるのみ〉だぞ。上見ろよ」


「? あれは……」


「……鍵か? いつの間に。さっき見た時は無かったぞ」


「そりゃ卵を投げ入れた時だろうな。ルチル、風の精霊魔法で回収してくれ」


「了解。『精霊魔法(風)』を発動するわ」


 緑の風がルチルの周囲から流れ、天井に貼り付けられた鍵はその風に巻き取られてルチルの元に収まった。


「この鍵はどこの鍵なのかしらね。届く範囲に怪しいところは無かった気がするけど」


 鍵を掲げて模様を観察するルチル。

 ……おかしい。違和感がある。なんだ?


「なあ、あんた拘束が解けてないか?」


「それだっ!」


 椅子に貼り付けられたようにピッタリとくっ付いていた背中が、今は少し前かがみになって椅子と間が空いていたのだ。先に気付いたのは、さすがレンジャーと言うべきか。

 ということは、やっと俺たちはこの椅子から解放されるんだな。嬉しいよ、ちょっとトイレ行きたくなってたし。


「え? あら。ほんとね。立てるようになってるわ」


「じゃ、その鍵は拘束から解放する為のものか。助かったぜトイレに行きたかったんだ」


「ちょっと……漏らさないでよリーダー(レンジ)?」


 そして、俺と同じ様な状況だった冒険者男を横目に鍵を順に回して、ようやく全員が椅子から解放された。


「ん゛ん゛っ……っはぁ!! ……ふう、なんか肩がこったわね……」


「動きが制限されるってのは精神だけじゃなく身体にも意外と負担があるんだな」


 〈ようやく椅子から解放された面々は、久方ぶりに自由に動かせる体を噛み締めていた。だが、そこに残ったいくつかの違和感を把握していたのは半数にも満たなかった〉


 ……ふむ。違和感ってのはこの部屋にあるギミックのことだらうな。この傾くロウソク立てとか他の像とか絵画とか料理とか、気になる所がまだある。


「ちょ……それはいいんだがトイレがどこにあるか探さないか?」


 冒険者リーダーレンジのそんな言葉に、レンジャーが呆れたような仕草をしながら罠を警戒しつつ近付き、ドアノブに手をかけた。

 ……ん? なんで固まった? スタン(麻痺)したか?


「おい、どうしたレンジャー(リュオン)?」


「…………残念なお知らせだ。この扉には鍵がかかってる」


「Oh...」


 どうやら、修羅場はここかららしい。




 〇




 状況を整理しよう。見知らぬ館に囚われた俺たち9人+1ゴブは、目覚めた食堂らしき部屋で椅子に拘束されていたがそれから抜け出した。長机で向かい合うように5人ずつの配置だった。拘束されていたのは中世貴族っぽい雰囲気の部屋に似合わない木の椅子で、結構尻が痛くなった。

 そして、椅子から解放されたはいいがその部屋にある唯一と思しき入り口には鍵がかかっており、メンバーの中には()()()()()2人のトイレ渇望者がいた。


「地獄だな」


「間違いない」


 どうしたものか。とりあえずできそうな事を確認していくか。


「扉に暗号とか書かれてないか? 暗号じゃなくてもいいが怪しいところは?」


「ないな。鍵穴があるだけで、魔力反応もない。……いや、落書きは無いが扉の模様は気になるな。左右対称じゃない」


「鍵穴をピッキングする技能はあるか?」


「技能はあるが道具がないな。ここで目覚めた時には無くなっていた」


「……扉に魔力反応がないって事は、ぶち破れそうか?」


「……多分。音からして、中に金属板が仕込まれてるってことも無さそうだ」


 どうしたもんかね? 扉をぶち破ったことにペナルティがあるかも……という思考は、どうしても離れない。俺1人ならともかく、集団行動中だしな。そうだ、せっかくだし多数決でも取るか。いいな、うん。そうしよう。


「はい、じゃあ多数決をとる事にする。この部屋でさっきみたいに謎を見つけ出して試行錯誤したい人~?」


 この選択肢だと少なくとも1時間はかかるだろうな。俺はさすがに遠慮したい。

 ……冒険者組の魔術師とルチル。ずっと黙ってた日本人顔の男の方で3票と。


「俺が道具を用意するんでピッキングに賭ける人~?」


 作るんなら『魔道具作成』になるだろう。多分確率が低いから、クールタイムにもよるけどこれも時間がかかりそう。

 これに手を挙げたのは、レンジャーとタガミの2人だけ。


「じゃ、扉をぶち破って一刻も早くこの部屋から出たい人~?」


 俺と冒険者リーダー&ピンク髪の破城槌さん、それにずっと黙ってた日本人顔の女の方とラノアで合計5人と。


「決定だな。これで嫌なことが起こっても、互いを責めないこと。いいね?」


「俺たちは問題ない」


「私も。ユーリに任せるわ」


「……」


 ……喋らないから無視してたけど、この日本人顔2人組はマジでなんっにも喋らないな。目はたまに合うけどさ。そういやコイツらも白い髪してんだな。アイツを思い出すよ。……名前なんだっけ?

 まあ今はいいか。どうせまたアイツに会う機会もあるだろ。


「タガミ」


「合わせるか」


「おう」


「『氷帝』を発動する」


「『雷帝』を発動」


 〈発動に成功しました。貴方は身体に漲る十全な魔力と周囲から奪った超全な魔力で、いつも以上に上手く能力を出力できることに気が付きます〉


「『凍牢(とうろう)』」


「『雷銘(らいめい)』・白簪(しらかんざし)


 共振、共鳴。俺とタガミの放った魔力はいつも以上の威力を成し、轟音と共に扉を跡形もなく消滅させた。



 ──遭遇まで、残り20秒



「なにっ……が……っ!?」


 後ろを見てみれば、轟音を濃密な魔力で冒険者と日本人顔の顔が歪んでいた。

 しまったな、耳栓でも渡しとけばよかった。手持ちの耳栓渡せば魔道具として起動しなくてもある程度は防げたはずだし。


「……面白いな。ここだと魔法系統スキルの威力が増すのか? いや、精霊魔法は変なとこなかったよな……」


「……主よ? 物思いにふける場合では無さそうだぞ」




 ──遭遇まで、残り10秒




「うわ。なんかヤバそうな雰囲気してない?」


「そこな男の『危険察知』はまだ反応しておらんようだが、油断はできまい。……嗚呼、吾輩の血が滾ってくるのを感じる。強者だぞ」


「勘弁して欲しいわ」


 そうだよな。予想はしてたのよ。だってこれTRPGモチーフで()()の館だろう?そりゃいるよな~、ただの人間じゃ太刀打ちできないようなバケモンがさ。クトゥそのものじゃないとは思うけど、俺的には怖いのじゃないと嬉しいな。


「……来るっ!」




 ──遭遇まで、残り0.7秒

トイレとクトゥルフモンスターを天秤にかけてトイレを取った男、ユーリ。彼の戦いが、今幕を開ける──


はい。凍牢という〈凍土〉から受け継いだスキルを応用してえげつないことしてます。説明するタイミング無さそうなのでここで。


凍牢は指定した条件に反応したものを氷漬けにして熱を奪い封印するパッシブスキルでした。封印した対象が死亡するかスキル使用者がスキルを停止すると凍牢の氷は急激に気化して消えます。その「気化」の速度やらなんやらをユーリはちょちょいといじくって、擬似的に爆発を起こしていました。

真空やらなんやらよか分かりませんが、これくらいふわっとしていれば破綻は無い……と思いたい。


それでは。

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