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153 まずは見

登場人物

ユーリ、タガミ、ラノア、ルチル

日本人A.B

冒険者組(リーダー、魔法使い、レンジャー、ピンク髪)

 各自ステータスの確認が終わり、再び向き直る。


 目の前には変わらず意味のわからない「料理」。『鑑定』を使用して先程の内容なのはこれからが不安になるな。とりあえず……


「『目星』を使う」


 スキル『目星』。TRPGと同じなら、『鑑定』系列の効果があるはずだ。


 〈発動に成功しました。貴方は、料理の並べられた食卓に奇妙なキズがあることを発見しました。それはどうやら文字のようです〉


「……ふむ。もう一度『目星』を使う」


 〈再使用可能になるまで残り48秒です〉


「なるほど。ラノア、今の女の声は聞こえたか?」


「え? ……いいえ、普通にスキルを使っただけに聞こえました」


 面白い。情報開示はスキル使用者のみなのは間違いないな。てことは『鑑定』持ちと仲良くするのは必須か。


「なあ、そこに文字が書かれてないか?」


「なに? ……本当だ。読み上げるぞ。〈尊き存在。目にするは真実。口にするは至言。民たちは見上げるのみ〉……なんだこりゃ? 詩人の歌か?」


「……謎解きかな。『直感』系のスキルは誰も持ってないか? それ以外にも使えそうなスキルは使っていこう」


 キズの近くに座っていた冒険者たちが、自分たちでどんどん進めていく。さすがだ、俺はまだ行ったことないけど謎解きがあるダンジョンもあるんだろうな。


「よくある解法はつぶすか。単なる比喩ではなさそうだな」


「4節だから、2-2で対比するのかも。意味でいえば1-2-1で分けそうだけど」


「そうだな。口と目、尊き存在と民の対比が分かりやすい」


「……あの像か? ちょうど向かいに跪くような格好の像がある」


「当たりっぽいね~。でも、だから何? って感じだよ?」


「それはまあ……解けば分かるんじゃないか?」


 見た目脳筋なメンバーも会話にちゃんと参加し意見を出しているあたり、こういった突発的な問題への慣れも感じる。流石は謎の霧っていう緊急事態の原因究明に抜擢される実力者ってことか。


「真実……あの像が向いてるのはこの食卓だろう? 結局はこの隠蔽を解呪しないといけない気がするんだけど」


「……なるほど。その可能性はあるな」


「なんにしても、動けるようにならないとまともに探索もできない。なにか気付いたことがあれば情報共有していこう」


「それもそうだな、了解した」


 俺の言葉で各自の探索も始まる。探索と言っても、手が届く範囲を触り、目の届く範囲を観察し、適宜スキルを使うだけだが。


 あの暗号っぽい文章に意味があろうがなかろうが、とにかく頭と体を動かすしかない。こんな変な館で一晩過ごすとか嫌だからな。……まあ、ベッドがあれば考えてやらなくもないが。

 そうしてそれぞれ動き始めてからすぐに、俺へと声がかけられた。


「ねえ、そこの燭台の下には何も無い? 固定されてるのかしら」


「これか? ……うーん、ここの根元は固定されてるみたいだけど中途半端だな、持ち上げられはしないけど動きはする」


「……なるほど、ありがとう。参考になったわ」


 ルチルも自分から冒険者組に声をかけ、色々と確認しているようだ。にしても今の聞き方……鑑定系のスキルを持ってたのか?

 なんにせよ、この料理が解呪できないと不便だ。できることは試しておこう。


「『魔道具使用』、ケア・コンタクト」


 〈発動に失敗しました。ペナルティが発生します。貴方はコンタクトの調整に失敗し、左目の視力を一時的に失います〉


「なんだと? …………マジかよ」


 見えない。右目は生きてるが距離感が微妙だ。手を伸ばしたりすると違和感がある。

 ペナルティ……失敗した回数か? いや、TRPGに準拠してるならファンブル──特大の失敗時にあるペナルティの可能性もある。くそ、探索中に目が見えないのはダルいぞ。自然回復効果のある装備も動いてないし、ここでまた『魔道具使用』を使うのはリスクが高いか……?


 ……仕方ない。


「すまん、左目が死んだ。誰か回復系のスキルはあるか?」


「なに? 一体何があったんだ」


「スキル失敗でペナルティってのをくらった。条件は分からんがお前らも気を付けた方がいい」


「回復は私が。『回復魔法』発動。……成功したわよ」


「助かった、ありがとうルチル」


 しかし困った。俺が解呪に使えそうなのはだいたい全部魔道具だ。『氷帝』の侵食領域で呪いを吸い取るか? 状態異常に対するポーションは人が使うことしか想定していない。市販の物なら使えるかもしれんが、俺が『魔力創造主』で創ったものは作成時のイメージから外れた効能は持てないから多分ダメだろう。

 となれば、創るか。それができれば1番確実だ。


「よし。『魔道具創造』起動」


 〈成功しました。作成する魔道具をイメージしてください。選択肢から条件を選ぶことでも作成が可能です〉


「イメージで」


 今となってはイメージの方が楽だし速い。慣れだな。


 〈MPを消費して魔道具を作成しました。解呪ポーション:邪神の館特攻が作成されました〉


 MP? ステータスには書いて無かったけどその概念もあるのか。隠蔽されてたか? 前のステータスそのまま引き継いでるんならありがたいけど、そうじゃないんだろうな。

 なにはともあれ、解呪ポーションができた。赤い液体で満たされたガラスの瓶が、いつの間にか俺の目の前に置かれていた。


「さて、これで料理が汚れなければイメージ通りだが……」


 とりあえず自分の前にある分だけ解呪してみることにした。コルクの栓を抜き、ガラスの中に入っていた赤い液体を目の前のモザイクに少しずつ垂らす。

 すると、だんだんとモザイクが赤く染まり、遂には質量をもって崩れ落ちるように消えてなくなった。料理にポーションが混ざった様子もない。完璧にイメージ通りだ。


 露わになった机の上には……


「うへぇ」


 これが普通だという認識の文化圏もありそうだな、という程度には馴染みのない料理たち。この世界独特に発展した料理とも違って、地球にある料理ともまた別もののように見える。 素材のせいか?

 黒い卵が潰され、青い黄身と黒い白身が色とりどりの野菜と和えられたサラダ。肉汁が溢れ出た瞬間に凍りつき、それによって少しずつ熱が失われていくはずなのに逆に氷が溶けて湯気を燻らせるハンバーグ。緑と白の角切りされた具材が薄い黄金色のスープに浮かび、ドリンクはドロドロとしたスムージーのようなもの。色は……灰色と茶色の間みたいな感じだ。


 解呪できたことを伝えてから他のメンツにポーションを回して解呪させても、並んでいるのは同じメニューだった。


「……まあ、料理はひとまず置いといて。これで〈尊き存在〉が〈真実〉を目にしたことになるかな?」


「でもその理論ならさ~? 〈口にするは至言〉はあの像になにか喋らせないとダメってことにならないかな~?」


「それは……確かに。一理あるな。でも……」


 そう。俺たちは椅子に固定されていて、話題の像は部屋の端にある。到底手など届かない位置だ。つまり、像の後ろにスイッチか何かがあっても押すのは難しいってことだ。


「この料理……なあ、これどっかで見たことないか?」


「ええ~? う~ん……こんな美味しくなさそうなご飯、食べたことないよ?」


「いや、そういうんじゃなくてだな……なんか……なんだったかな……」


 冒険者のリーダーが何やら大事なことを思い出そうとしている。ちょっとやることが無くなってきたから、ぜひともすぐに思い出して欲しい。


「……俺もこんな料理は見たことないぞ。勘違いじゃないのか?」


「いや……うーむ、しかし……」


「…………もしかしてエリス? 狂宴の?」


「それだっ!」


 聞いたことないな。思い出せていないだけか? この世界の文化とかまとめた本には目を通したが……


「戦いを好んだ神エリスが、戦勝を喜んで開いた狂宴。そこに描写されていた料理そのまんまなんだよ!」


「へえ」


 なるほど、神話の類か。そうか、それなら〈いと尊き存在〉って文言にも合致する。だが生憎、俺はまだ手を出せてない分野だな。魔法の詠唱に盛り込んでみたいからいずれ読み込むつもりではいたんだけど先送りになっていた。


「なるべく詳細にその描写を思い出してくれ。多分めちゃくちゃ重要なとこだ」


「ああ。……違うところが少しあるかもしれないが、なるべく正しく思い出して読み上げよう。……〈エリスは戦で失った物を嘆くことはしなかった。ただ豪勢な料理を喰らい、未来の犠牲を減らす為の糧とした。左手には神々の創り出した美酒であるネクタールの満たされた杯。机の上には氷霊琥獣(ひょうれいこじゅう)のステーキや始元の黒卵と霊草フィンニーナが和えられたサラダなど、豪華な品々が敷き詰められていた〉……こんなもんだった筈だ」


 じゃあこのドロドロはネクタールっていう酒なわけか。そうは見えない。お世辞にも美味しそうな見た目ではない。というか……ふむ?


「スープの描写はないのか?」


「……そうだな。無い。さっきは神話そのまんまだと言ったが、このスープはあの場面に出てこなかった」


「……そうか。怪しいな」


「ああ。怪しいな」


「飲んでみるか?」


「……やめておこう。動けない状態で腹を下しでもしたらシャレにならん。回復魔法が効かないような、呪いでもついたら大変だ」


「正論だ」


 だがしかし、どうしたものか。基本に立ち返るべきか。迷ったらとりあえず『鑑定』だ。


「『目星』を使う」


 〈成功しました。奇跡的成功です。貴方は、このスープに入っている2種類の具材の両方に見覚えがあることに気付きます。それは2つとも日本では一般的に食されていましたが、生憎とその2つともが貴方の嫌いな果物でした。貴方は直感的に、このスープを飲むことは避けた方が良いと感じました〉


 ……おい。なんだと? パーソナリティの侵害だとかそんなレベルの話じゃないぞ。なんでそんな事まで知ってる? てか日本? 邪神の館って……ガチの神が関わってるのか? 俺はてっきり狂信者的なサムワンが建てたのかと……


 いや。ここで考えても無駄か。俺たちは全員既に相手の腹の中。能力は制限され地の利まで失っている。であれば、流れに逆らうのは悪手にしかならない。


 とりあえず、スープの具材は分かった。洋梨とキウイだ。よく見れば、緑の方には黒いつぶつぶ……種が見える。間違いはないだろう。


「あー……なんか、このスープを飲むのだけはやめた方がいいみたいだわ。他の料理はどうかわかんないけど」


「いや、他のもやめた方がいいかもしれん。スープはともかく、一応神々の料理ってことだしな。人間が食べて無事とは思えん。ネクタールなんかは、人間が飲めば内側から破裂するという伝承もあるし」


「まじかよこえーな」


 とりあえず、地球側の説明など時間がいくらかかるか分からないのでスルーして必要な事だけ伝えておいた。


「にしても趣味悪いなカミサマ。料理は見た目までこだわって欲しいよ。……いや、神だから感覚にズレがあるのかね?」


「はっは、少なくとも、俺たちと同じものを見て聞いて食べて過ごしている訳でもあるまいよ。……にしても、やめておいた方がいいとは言ったがやはり、神の料理となれば食べてみたくなるな……」


「やめなよリーダー(レンジ)。料理でまで冒険するのは悪い癖だって」


「何言ってやがる! 料理こそ未知に挑むべきだろう!」


「無駄だよ魔法使い(フー)。こいつの性格は知ってるだろ?」


「……アホらしい」


 まあ、気持ちは分かる。俺の場合は少し違うパターンだけどな。料理で冒険するのはやめた方がいいって思いながら我慢できずに食べて、そんで後悔するまでがワンセットだから。この冒険者組のリーダーよりタチが悪い。


 さて。


 〈口にするは至言(しげん)〉、ねぇ……

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