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151 邪神の館

「……っ! ……だ、やは……だな。……ああ」


「だが……。……そう……わかった」


 声が聞こえる。言い争ってるとかじゃなくて、方針を決める時のような会議然とした口調。

 それがすぐ隣で聞こえるという異常さで、俺はすぐに目が覚めた。


「……誰だ」


「なっ……! 起きたのか、自力で」


「そりゃあれだけ五月蝿(うるさ)くされたらな。……で、あんたらはどちら様?」


「……寝起きにすごい胆力だな。俺たちは、霧の発生原因を探るために森を探索していた冒険者パーティ……なんだが。気付いたらこの館に入り込んでいて、さっきまた気を失ったと思えばここに座っていた。それより気を付けろ、横にゴブリンがいるぞ。俺たちと同じで動けないようだがな」


「うん? ああ。コイツは仲間だから気にしないでくれ。……ん? 動けない?」


(ようや)く起きたか主殿。そこな凡夫共の視線が痒くなってきた頃合いであった、助かるぞ」


「なっ!? ゴブリンが言葉を!?」


「マジで動けないんだこれ。手は動くし接着剤みたいなのがある訳でもなさそうだけど……おもしろ、なんだこれ」


「ゴブリンまで『鑑定』弾くんだけど……意味がわからないんだけど……」


「しゃべるゴブリンいいなー! ねえあたしも欲しい! ねえってば!」


 カオス。一言で表すならそれである。唯一説明可能な俺の気が逸れたことで、この場を収める人間がいなくなってしまった。


 そして、その騒乱の中に突然声が響いた。


 〈全員の覚醒を確認しました。ステータスを規定通りに調整開始。完了。各人は獲得するスキルを1つ選んでください。選べるスキルは現在所持しているスキルのうち、スキルレベルが5以上のもののみです〉


 女性の声だ。その無機質な声は俺からしてみればただのロボットのような声だという認識だったが、他の奴らからしてみればひたすら不気味な声という感覚なようだ。

 システムの声、だろうか? 俺がオリジンスキルを獲得した時や〈氷帝〉を受け継いだ時に聞こえたシステムの声とは完全に別物だが……


「……本当になんなんだ。ダンジョンかと思えば、異常な事ばかり起こって……」


「スキルを選べ……? なんか選ばなかったスキルは使えなくなるみたいな雰囲気ない? 怖いんだけど」


「だが、ここで無言を貫いても囚われている事実は変わらないぞ。指示に従うのが懸命だと思う」


 とりあえず人物だけでも整理しておくか。そんなに多くない。

 俺たち3人の他にここにいるのは、まずは森の探索をしていたという4人の冒険者。

 リーダーだと思われるガタイの良い赤髪の男、レンジャーっぽいスラッとした男、明るいピンク髪の女、神経質そうな黒髪ロングのぱっつん女の4人だ。


 そして、2人組の日本人顔した男女。ここまで口を1度も開いていないのは、性格によるものか警戒のためか。

 日本人顔とは言ったが、真っ白な髪と赤い目からは日本人離れした印象を……ん? なんか見たことあるぞこいつら。気のせいか?


 まあいいか。んで最後は、1人でいるエルフの女性。きれいな金髪に翡翠の目。スレンダーな体つきで驚いたような表情を……って


「ルチル?」


「やっと気付いた? 相変わらずね、ユーリ」


 ルチル。フルネームは忘れた。エリフィンまで冒険者として共に旅をした仲間であり、魔法と戦い方を教えた弟子でもある。当然当時の俺も戦い方に詳しい訳ではなかったが、それでもこいつのは酷かった。まるで実践の経験なんてないってくらいに。


「こんな所でまた会えるとはな。エリフィンで旅立ったと聞いて驚いてたんだ」


「私もよ。あなたが行方不明だと聞いて驚い……てはないか。相変わらずだって呆れはしたけど」


「さすが。分かってんね」


「でしょう?」


 ふふ、と笑みを浮かべるルチル。だが、その表情はすぐに曇る。


「でも、いつの間にかこんな所に囚われてた。私にはやる事があるのに……」


「やる事?」


「……こんな所で話すことじゃないわ。ひとまず、さっきの声の内容について考えるべきだと思わない?」


「それもそうだな」


 これでここにいる人間は全部だ。もちろん、タガミのような魔物はいるよ、というブラフではない。魔物も幽霊もいない。いや、幽霊はいるかもしれないか。


 スキルを選べ、か。どうしたもんかね。


「俺は迷う余地ないな。『危険察知』だ」


「私も、『鑑定』で決まりかな。魔法使いの真似事は、半分杖の力だし」


「おい、何があるか分からないんだぞ? 魔法使い(フー)はともかくレンジャー(リュオン)は護身もできないスキルでいいのか?」


「問題ないさ。『回避』の動きは染み付いてる」


「じゃ~あたしは『破城槌(はじょうつい)』かな~! 便利だし強いもん!」


「それしかスキル持ってない、の間違いじゃないのか?」


「違うもん! ホントだよ?」


 冒険者4人は決まった様子。リーダーは明言しなかったがそれでも決めたようだ。


 日本人顔2人は相変わらず無言で、決まったかどうかも分かりはしない。一度アイコンタクトを交わしたが、念話のような意思疎通の手段があるのだろうか。


 ルチルは迷っている様子だ。スキルレベル5以上となれば彼女の選択肢は多くないはずだが。

 冒険者組に『危険察知』を取ったやつもいるが、それとは別に『気配察知』とかあると便利かもとは思う。ルチルは何を選ぶかな。


 そうやって様子を観察していると、タガミが選んだスキルを口にする。


「吾輩は『雷帝』だな。迷うこともない」


「じゃあ俺は『氷帝』で。『魔力創造主(マジックメイカー)』はスキルレベルないから選べなさそうだし」


「私は……『気配感知』にします」


「あ、そう? 助かるよラノア」


 俺たち3人が選んだスキルを口にするとルチルも追随する。


「じゃ、私は『精霊魔法(風)』にするわ」


「……へぇ」


 驚いた。ルチルは魔法系スキルだと『基本属性魔法(風)』しか持ってなかったはずだ。新しく獲得したのか……いや、スキルが育って進化したか? 学院で勉強と特訓頑張ったんだな。


 そして、再び例の声が聞こえる。わんちゃん霊の声なのが嫌な点だ。


 〈スキルの決定を確認しました。ステータスに加えます。完了。これより、ストーリー { 邪神の館 } を開始します。ナビゲーションは(わたくし)GM(じーえむ)1(わん)が担当します〉


「は?」


 ストーリー? GM? なんかTRPGみたいなの始まったんだが。いやいや、嘘だろ? もしかして運ゲーの始まり? てか邪神てなに?


 〈目が覚めると、見知らぬ館の中。そこにいた人物は揃って食卓に座り、誰一人としてそこから動くことができなかった〉


 〈それぞれに許されたのは、手の届く範囲を触ること、そして見る聞く嗅ぐといった手段のみ。そう聞くと普段と変わりないように思えるが、移動できない事実は予想以上に心にのしかかっていた〉


「なんか始まったんだけど……完全に導入だ……」


「一体なんなんだ? この大人数を捕まえて何をしようというのだ……」


 一同の反応は9割が困惑。残りの1割は無関心だった。ちなみに日本人顔の2人だ。


 〈よく分からないままに互いの様子を伺っていると、いつの間にか食卓の上には食事が用意されている。いや、気付かなかっただけで最初からあったのかもしれない。このような状況であれば、それもおかしくないだろう〉


「なに?」


「……食事、らしいけど。なんだこれ?」


 わからない。目の前にあるのは食事だとわかるのに、どんな見た目でどんな匂いなのか、モザイクでもかかったように、はたまた透明な壁を1枚挟んだように知ることができなかった。


 そして、それを理解した瞬間に再びの声。


 〈使用可能スキルが自動で使用されました。対象にのみ情報が与えられます〉


「なに?」


「あ……私の『鑑定』が……」


「……何か分かったのか?」


「そうですね……この、料理? は、『解呪』のスキルか同じ効果のある薬などを使えば見れるようになるみたいです」


 へえ。面白いな。だが、スキルを1つ選べと言われて解呪なんていうスキルをわざわざ選択する奴がいる訳ない。

 この場所がなんなのか、何の目的があって誰がこんな事をしているのか何も分からない。それでも、こんなふざけた事をするんだ。こんな早くに詰む(クリア不可能になる)ポイントを作るとは思いにくい。


「まあ、その薬が後々手に入る可能性が高いな。そのスキルを選んでればショートカットできるって奴かな」


「しょーと……? よく分からんが……どうする? 動けないのは変わらないし、この料理でも食べてみるか?」


「いやぁ……死んでもしらんぞ」


 冒険者リーダーの言葉に思わずそう返す。こいつの方が間違いなく豪胆だな。


「解呪……いや待てよ、そもそも選んだスキルしか使えないってわけじゃないよな? 『鑑定』……無理か」


 〈まもなくチュートリアルを終了します。以降は発声を起点としてスキルの発動を行ってください。パラメータの開示を行います。以降は「オープン(ウーヴェ)」の発声を起点としてパラメータが表示されます。自発的な変更は基本的に不可能です〉


「うお……タイミングの良いことで」


 システムの声(仮)が言った通り、その場にいる全員の顔の前に各自のステータスが表示された。



 ────────────────────────


 名前:黒野祐里/ユーリ


 STR……15

 VIT……5

 INT……20

 AGI……5

 DEX……5

 LUC……0


 選択スキル:『氷帝(スキルレベル8固定):80』

 自動分配スキル:『目星:35』『刀術:50』『銃撃:20』『死期風:1』『魔道具使用:15』『魔道具創造:30』


 装備品:〈ケア・コンタクト〉〈アクセスキー〉〈コア・ネックレス〉〈リンリンリングⅣ〉〈ケア・イヤリング〉〈ヘアゴム〉〈懐中時計:ネフィラ〉〈風雹雷アリアーチェ〉


 所持品:〈箔刀〉〈不動・近斬(ほぞきり)〉〈梁超えの小剣〉〈吸血剣トレゾア〉〈葉桜〉〈夜天〉〈極彩ワイヤー〉〈聖城旗・祈誓血界〉〈フライボード7号〉〈混沌の種の欠片〉…………ここに触れると続きを表示します


 ※一部のアイテムは一時的に特殊効果が使用不可能になっています。効果の使用には該当スキルを使用してください。

 →スキル『魔道具使用』

 ────────────────────────



 …………あぁ。


 アイテムが使用できるなら何があっても余裕だけどと思っていたが、どうやら一筋縄ではいかないようだ。


 ……全てのアイテムを収納している〈コア・ネックレス〉は、いくら魔力を通してもなんの反応も返さなかった。

ざっくりとした説明

TRPG……テーブルトークRPG。紙やサイコロを使って進めるロールプレイングゲームで、想像力や運が大切。楽しい。気になった人はググってみてください。動画もいろいろ上がってるよ。


ここから章終わりくらいまでの話ではTRPGをモチーフにしていますが、そのまま設定やストーリーを丸パクリする訳でもなく、当然地球のどっかの神話に出てくる生物もいません。


主人公の本名、久しぶりに出した気がします。ステータスにも最近は書かれていませんでしたからね。

……ミスじゃないですよ? むしろ、書いていたらそっちがミスです。教えてくれると嬉しい。


あと、いきなり1話が長くなってすみませんでした。キリが良いところがなかった。

それでは。

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