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150 再度森中

 夜。昼に訪れた時とは違い、既に霧に包まれており、外観を観察することは望めそうにない。偵察用ドローンで上から見ても、霧のせいで森の中は見れないだろう。


「雰囲気違うな」


「視線を感じる。よくないな、本能で近付くのが悪手だと分かるぞ」


「そうですか……? 私は何も……前は見えないですけど……」


 斥候系の教育を受けても、モンスターであっても、Sランク冒険者でも、この霧は平等に視界を奪う。

 だが、やはり奪われるのは視界だけのようだ。森の中に残してきた目印は10種類全て反応していた。魔力を遮断したりといった余計な効果はなにもない。


 どうやら、霧の性質は発生源近くであっても変わりないらしい……のだが。少々困ったことに、ここではいくら風をおこそうと霧が次から次へと溢れ出て、本格的に視界は役に立たなそうだった。常に『四季風』を出してある程度足下の安全を確保する程度にするのがせいぜいだ。

 これ以上強い風を出すと味方に悪影響が出るからな。


「予定通り先導する、縄を離すなよ。声かけも定期的に、忘れずに」


「はい」


「承知している」


 そんな声かけをしてから約15分、目印のおかげで前回よりすんなりと目的地に到着した。


 ──はずなのだが。


「お主を疑う訳ではないが……本当にここが?」


「間違いない。……と、思う。昼間に目印が移動した気配もなかったし、目印の信号は途切れなかった。うん、やっぱここで合ってるよ」


「半日で、木が生えてきた……ということですか?」


「いやぁ……俺に言われても。霧が出るからってカメラ置かなかったけど、失敗だったかな。置いときゃなんか映ったかも」


 昼間に訪れ目印を残した、森の中にある開けた場所。そこに着いたはずなのだが、風で霧をおしのけて確認した限りでは明らかに景色が違っていた。


 広場のど真ん中に立っているはずなのに、周囲には所狭しと細い木々が立ち並んでいる。フワフワと浮かんで霧の中を流れているのは、半透明なシャボン玉のようなもの。触れようとしても通り抜け、正体不明。

 寝転がると気持ちよさそうな草花で埋め尽くされていたはずの足元は、むき出しの地面で緑の名残はなかった。


 俺は真っ赤な目印(ちっこいがちゃんとした魔道具だ)を拾い上げると首を傾げる。


「……コイツは地面に埋めてた奴だよな? なんで地表に?」


「考えても仕方なかろう。その目印があるということは、ここは広場の入口だろう? 進むしかあるまいよ」


 タガミの言葉に頷いて歩みを再開する。


 そして、更なる異変はすぐに訪れた。


「なあ、こんなのあったか? あの時は見逃してたのか?」


「生えたと言われても信じてしまうな、これは」


「こわい、です……」


 突如目の前に現れたのは、大きな館。黒を基調とした正面の大扉が、こちらを誘っているように思える。よくよく見てみれば、その扉のふちから霧が溢れてきている。

 その噴出口においては俺の風で押し戻すことさえできないようだ。


「入るしかないな」


「そうであるな。吾輩は抜刀しておこう」


「わ、わたしは……」


「ラノアは気にするな、その護身用のタスマリンだけちゃんと持っておけ」


 俺の言葉に頷きを返したラノアを見て、視線を正面に戻す。

 黒い扉を見ていると、だんだんとプレッシャーのようなものを感じてくる。だが、この館が霧の元凶であることは間違いないんだ。ここで退却する選択肢はない。


 日をおいたらエンカウントできないとかありそうだし。『直感』もそう言ってる。


 ……ちなみにタスマリンとはお守りのことである。ドリームキャッチャーのような模様の描かれた懐中時計サイズの銀の円盤である。付与は『致命傷回復』『緊急遮蔽』『緊急回避』である。高性能である。


よし行くぞう(吉〇三)。……異世界でやっていいネタじゃないなこれ」


 俺の奇行にも慣れたのか、特に反応もない仲間をチラ見してから歩き始めた。

 森の中だと風で視界を確保した上で足下にもかなり気を付けなければならなかったが、この元広場にはさっき確認したように草もなく、館……屋敷? の付近にはそもそも木がなかったためすぐに扉までたどり着いた。


 コンコンコン、とノックしてから声を張り上げる。


「すみませーん! 近所迷惑なんですがー! 毎夜毎夜火事でも起こしてるんですかー!? エブリナイト花火パーリーなんですかー!?」


「「……」」


 扉を目の前にすると余計強くなったプレッシャー。それを気にせずにマイペースを維持する俺に、2人は呆れた目を向けた。

 いや、これはきっとプレッシャーのせいで喋れないだけだ。うん。きっとそうだ。


「返事が無いな。察していたことだが。押し入るしかないのではないか?」


「やだ普通に喋るじゃん……じゃなくて。それもアリだな。普通にこの霧異常だし。突入するか」


 方針が決まればやることは決まっている。全力でありったけの自己バフをかけて、突入するだけだ。


「開けるよ」


「うむ」


「はい」


 ──そして、そこで俺は気を失った。

次話はあの人が登場です。でも登場しないかもしれません。忘れないうちに書いておかなければ。


そういえば新作投稿しました。新人賞用の、また別の作品は絶賛行き詰まっています。小説書くのって難しい。


ということで、新作「想像工房の草臥れ男と仮想本棚の天才女」、読んでくれると嬉しいです。この作品と毛色が違いすぎて馴染めないかもしれないですが、あっちはちゃんとヒロインを出すので……

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