016 外
「そういや、魔法陣なんてあるんだな……魔法を鑑定した時には出てこなかったから知らんかった」
そんなことを呟きながらノヴェルスローブの隠身を発動させ、陣の上に立つ。
「……あれ、これどうやったら発動すんだ?」
旧『鑑定』が消えるまで、いろいろ調べたり、その後も鍛えたりはしてきた。だがそれは、スキルやこの世界のシステム(主にダンジョンやステータスについて)調べ、スキルを増やす方向の努力だった。
何が言いたいかと言うと……魔法については、実はほとんど調べてないんだよね……
いや正直、自分で自分にアホだったと思ってる。一番最初の「魔法と魔術」についての鑑定のあと、なんとなくで魔法っぽいことができちゃったり、なんとなくで創造したタロットの力が使えちゃったりで満足してしまっていた。興味が止まってしまっていたんだ。だから、思い浮かばなかった
つまり、魔法陣については調べられてなかった。
もう少し詳しく調べてれば、魔法陣まで辿り着いたとは思う。ま、仕方ないね。
あと、この気持ちがわかる人は多分少ないだろうけど、今の『鑑定』は情報が少なくて使いづらいしなんとなく使う気分になれないんだよなぁ。
旧『鑑定』に愛着があった分、別の女に乗り換えてしまった罪悪感とでも言うべきか、ホントになんとなくではあるけどモヤモヤする。
「……くっ、すまない旧『鑑定』……浮気な俺を許しておくれ…………『鑑定』」
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〇基本情報
・「転移」の魔法が組み込まれた魔法陣。行き先は当ダンジョンの入り口に固定されている。
・状態:正常。起動待機中(条件を満たすまで起動不可)。
・使用MP:1
〇備考
・ダンジョンボスが生存中、また宝物庫の扉が解放されていない場合は起動できない。
・同時使用可能人数は6人。
・魔力を通すことで起動する。
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「……ん?」
なんか普通に情報細かく書いてないか?『鑑定』ちゃん風邪でもひいたの? てか宝物庫ってなんぞ? …………ああ、あれか。あの扉の奥か。この部屋の奥が暗くなってたから戦ってる時気になってたんだった。
完全に忘れてたけどね。
……まあいい。多分『鑑定』はスキルレベルが上がったんだろう。旧『鑑定』を使いまくって慣れてたから上がりやすい、とかあったのかもしれんな。
なんかいろいろ情報多いし、新しく分かることが多すぎて驚くのも考察するのも確かめるのも疲れてきた。
この世界のことを調べてた時にも思ったんだが、情報が横に繋がっていかないんだよな。「魔法」について調べれば「魔法陣」とか「詠唱」とかそういうワードが出てきてもおかしくない。っていうか、出てきた方がぶっちゃけ自然だ。
めちゃめちゃ細かく情報が出るのに、変な規制がかかってるような感覚になる。
༅
さてさて、宝物庫の物色はこれくらいでいいか。目立つものはあらかた『鑑定』したし、とりあえず全部コア・ネックレスに収納しとけばいいしな。
めぼしいお宝はこちら。
〇ドラゴンブラッド……敵対した竜から奪った血液。魔道具の触媒や魔法使いの杖の芯など、様々な使い道がある。敵対せずに譲ってもらうと、セイルブラッドという別アイテムになる。セイルブラッドはドラゴンブラッドと基本的には同じだが、回復と浄化への適性が非常に高い。
なんで熊と牛の迷宮の報酬でドラゴンの血が報酬やねん。と思った。『鑑定』結果を2度見してしまったのは内緒だ。
〇魔導書『タウラス・ゴージ』……黄道十二門の1つ、タウラスの系統魔法が収められている。この本を開きながらでないと使用できない。
要素が多すぎませんか異世界の神様よ。なんで地球独自の要素がこんなにあるんだ。星座にタロットに小説のようなステータス画面。どうなってんだこの世界。
まあ楽だし分かりやすいのは事実だけどね……
〇風雹雷アリアーチェ……風、氷、雷に親和性が高い弓。魔力で矢を形作り、質量を与えることができないと実質的に使用できない。炎、水、闇属性の魔力を特定の魔石に同時に流すと、黒炎雨アビストラーチェに形態変化する。
→黒炎雨アビストラーチェ……炎、水、闇に親和性の高い直剣。かなり刃の部分が長く、変形時に流された魔力で質量を補う。風、氷、雷属性の魔力を特定の魔石に同時に流すと、風雹雷アリアーチェに形態変化する。
※どちらの形態も「不壊」「自動帰還」「所持者固定」を持ち、その性能を持ったままキーホルダー状にできる。
個人的に一番好きなのがこれだ。なにしろめちゃくちゃかっこいい。黒がベースで蛍光緑のライン、謎のトゲ、デカくて厳つくてもう最高だね。しかも変形だ。男のロマンだ。変形する時の黒い魔力がまとわりつくこのカッコ良さよ。皆にも見せたかったね。皆って誰だよ。とにかく、しばらくこれを使い続けることはもう決定です。
いい物が見れたおかげで創造のイメージが湧いてくる。でもここではお預けだ。外に出るって決めてからどんだけグダグダしてんだって話だよ。とりあえず、今度こそ脱出のお時間だ。
魔法陣に魔力を流し、起動する。宝物庫を開ける前はそれでも反応がなかったが、今回は違った。薄い光に包まれ、幾度も体験した転移と同じだと認識する。そして、一瞬の浮遊感のあと…………目を、開けると。
「いや誰もおらへんのかい!!!!!!!!」
次には!次には人間と出会いますから!!!次こそは絶対に!!!ぐだぐだしない!!!!!