149 足跡追跡
お久しぶりです。
かなり間を開けてしまったのであらすじ置いておきます。申し訳ない。
~あらすじ~
新しい国である軍事国家ランパードに入国した主人公ユーリ・タガミ・ラノアの3人はダンジョン攻略に精を出していた。
その後、ギルドの意向やユーリの気まぐれで道中に遭遇した濃霧の発生源だと思われるシューケッツの森を探索することにした。
「足跡だ。ここのは周りの足跡より深く残ってる、多分鎧着てる奴か荷物持ちのだな。こっちに続いてる」
「おお……よく気付いたな主よ。言われなければ気付かなかったぞ、こんな少しの凹凸が足跡だとは。うっすら残っているどころの話ではないぞ」
「すごいです……探索術もあの家で習っていましたが、私にはとても……」
「そんな持ち上げるなよ。こんなのはただの運だから」
事実そうである。『直感』は働いたのかもしれないが、この足跡を見つけたのは特別な技術によるものではなかった。
「とりあえず足跡の向かってる方に行ってみよう。足跡の形からじゃ分かりづらいけど、森の入口があった方角を考えたらこっちに進んでるはずだ」
「斥候の技術か……便利なものよ、吾輩も習得したくなってきたぞ」
「今回はともかく、俺はその辺道具頼りで教えられないからなぁ……タガミはゴブリンだから人に従事するのも難しいだろうから、スキルを習得するのが1番早いかな。なんかのスキルオーブいるか?」
「ふむ……では、足音が消せるようなオーブがあれば貰おうか」
足音を消せるスキルといえば、最初に思いつくのは『忍び足』。歩く時のみという制限があるが、足音を消すスキルだ。それの5~6個くらい上位互換した奴が、おなじみ『隠者』くんだ。
……そうだな。せっかくなら新しいスキルでも創るか。
イメージは猫。ネコチャンの足音が聞こえないイメージがあるのは、やはり肉球によるものだろう。つまり、接地面との間にクッションがあるのだ。てことは、地面に接さず動くことができれば……
……この案を進めていくと空中を走ればええやんってことになるな。要求からズレてしまう。修正して──
「『魔力創造主』:『受け止め流す風袋』。よし」
今の俺からすれば微量の魔力を使って新たにスキルを創り出す。キャットウォークと名付けたそれは、隠密専用ではなく正確には風のクッションを生み出すアクティブスキルだ。
接地時に使用することで足音を消し、同時に跳躍力をブーストする。打撃を受ける際に使えば軽減できるし、ある程度までなら跳ね返すこともできるだろう。頭上にクッションを生み出せば雨をしのぐこともできるはずだ。
汎用性の高いスキルになったと言えるだろう。〈雷帝〉である霹靂神なら、風属性はある程度使えるだろうという予想も込みで創った。
「はいこれ」
「遠慮なく。……おおなるほど、これは便利な……」
(今、スキルオーブを生み出した……? いや、きっと見間違い。収納系のスキルから取り出しただけなはず……)
なぜか固まったラノアを起こして森の探索を進める。
途中から『受け止め流す風袋』を試してみたいというタガミに足跡を追って先行させたが、その足跡がとある場所を境にぷっつりと途切れており探索は一旦断念することとなった。
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「まぁ……怪しいのはあそこだよな」
「当然であるな、あの様に開けた場所で足跡が途切れているのは不自然すぎる」
「誘拐されたにしては誘拐犯側の足跡が見つからなかったし、あそこで戦闘が起こった様子もなかった。木の上にも変なところはなくて、地下に続く入口もなく……正直お手上げだな。『直感』先生も何も反応しないし」
宿で一応作戦会議を開いたが、正直探索で分かっていることがほぼ全てなので分かっていることの確認に進展はなかった。
「じゃ、後はもう霧がでてきた夜に突っ込むしかないね」
「道は覚えておるか?」
「ああ、問題ないよ」
少し前なら『鑑定』でマップが確認できたが、すでにその能力は失われている。故に、怪しい場所までは自力で到達しなければならない。
そのため、何種類かの目印を残して帰還するに至った。
「最悪、目印が全部機能しなくなったら新しい魔道具を創るよ」
「うむ。道筋については任せっきりだからな。頼むぞ」
「あいよ」
俺とタガミが話している間、ラノアはお茶の準備をしている。別にメイドの格好をしているからってメイドらしいことをする必要はないのだが、「っぽい」ことをしているとなんだか落ち着くのだそうだ。
「にしても、さすがに人が少ないな。やっぱ森に近い分霧も濃いのかな」
「どうだろうな。あの霧は常軌を逸しておる。そういった通常の理が当てはまらなくともおかしくはないと思うぞ」
「それは確かに。まあ、即死するような毒素が無いのだけは確定してるんだし、怖がりすぎずにいこう」
結局無難なことを言っただけで、その後は自然と美味しいご飯の方へ意識は移っていった。
本日のランチはそこそこ豪華。最近客が少ないからと店主が量を多めにサービスしてくれたというのもあるが、素のポテンシャルが高い。
メインは三頭蛇の肉をフライにしてソースをかけたもの、スープは何かの卵を使っている味は薄いのに旨味が強いという不思議なもの。
サラダは3人で好きに取り分けるタイプで、紫やら黄色やらのよく分からん植物が盛り付けられていた。基本シャキシャキ、たまにバキバキパリパリ。食感が実に楽しい。野菜は好きじゃないんだけど、外食すると残さず食べちゃうんだよな。謎いわ。
「ごちです。美味かった」
「堪能したぞ」
「おうよ! いい食いっぷりでこっちまで嬉しくなったぜ!」
ちなみにここの食堂は宿に併設されており、食堂の店主と宿のオーナーは幼なじみなのだそうだ。店舗として独立はしつつも提携はしている、という感じ。
「なあおっさん、ちょっといいか?」
「あん? どした」
「やっぱり霧が出始めてから人が減っていったのか?」
「ああ……まあ、それもあるな。ここはシューケッツの森に面している。その分、森から取れる特殊な果実やら薬草やらに頼ってる部分があった。その森に入るのが規制された以上、人が減るのは仕方ねぇのさ。今かろうじて街の体裁を保っていられてるのは、ダンジョンがあるからだな」
「へえ。ここにもダンジョンがあるのか」
「もちろんさ! ここにあるダンジョンは一つだけ。〈赤鳥青獣〉って名前で、肉をドロップするのが特徴だな。30層あって、奥に行くほど肉も美味くなる。滅多に食えないけどな! にいちゃんも冒険者だろ? 気が向いたら行ってみるといいさ」
こちらが冒険者と気付いていたのか。だとしたら、ダンジョンなんかの情報を持ってないことを不自然に思われたかな。
そんなことをおくびにも出さないとはさすがサービス業のプロ。
「美味い肉か……いいね、用事が終わったら採りに行くか」
「うむ。楽しみだ」
「料理してみたいです……」
何はともあれ、うまい飯で元気を充填できたし『魔力創造主』のレパートリーも増やせた。
後は夜まで準備しつつのんびりしようか。
主人公の目的は、この世界を自由にのんびり楽しむこと。途中から、世界の終わりという不透明な事態に対処したいなともふんわり考えるようになっています。
三頭蛇……主人公は見たことありません。店主の説明がそのまま地の文へトレースされました。卵やサラダの説明までは覚えられなかったようです。人の名前とかも覚えるの苦手ですからねこの人。仕方ないです。